第31話 別れと出会い

――――牧場へ戻る前のこと。


「もしもし、理事長?」

『その声は善行お坊ちゃま!!! いかが致しましたか?』


 俺は黒瀬が原田におどされ肉体関係を強要されたと理事長に訴える。


『了解いたしました。さっそく緊急に理事会を開き、原田理事の解任と原田教諭きょうゆの解雇を提案したいと思います』


 黒瀬も俺も理事会へ証言する覚悟があり、他の女子生徒たちが原田から数々のセクハラ被害を受けていたことの裏づけも取れていた。


 理事長にお礼を告げると、


『善行お坊ちゃま、なにとぞお父さまにご寄付のお願いを……』

「もちろんそのつもりです。とりあえず10億くらいでいいですか?」


『ありがとうございます、ありがとうございます、ありがとうございます、ありがとうございますっ! 原田たちのことはお任せくださいっ!』


 電話口からでも分かるくらい理事長は俺に平身低頭だった。


 5分もしないうちに作業帽をかぶった用務員たちが現れ、アヘ顔で気絶している原田の身柄を確保すると俺たちに一礼して、彼らは去ってゆく。


「八乙女くん……すごいのは知ってたけど、ここまでなんて……」

「なんてことないよ」


 寄付も当初から予定されてたものだったしね。


 ちなみに理事長も攻略キャラではあるのだが……制作サイドにマダムスキーでもいたんだろうか? と疑いたくなる。


 電話している間も俺を離してくれなかった黒瀬は恐怖で小刻みに震えていたが、幼子をあやすように頭に沿って髪をなでていると彼女は落ち着きを取り戻した。


「原田に犯されそうになったときに八乙女くんが助けにきてくれますように、って願ったら本当に来てくれるなんて信じられないよ。私たち、もしかしたら通じあってるのかも」

「あ、うん、そうかもしんないね……」


 黒瀬の素直な想いに対して、なんとも返答に困る。お守りにGPSを仕込んでおいたから、彼女の居場所が分かっただけ。彼女を守るためとはいえ、知ったら、ストーカーじみた行為を軽蔑けいべつされてしまうだろう。


 ブルル……。


「ああ、ごめんごめん。白兎馬もお手柄だったね」


 黒瀬をなでているとハラマセオーも寄ってきて、鼻柱で俺の腕をつんつんしてきていた。たてがみをなでてやると、


 ヒヒヒーーーーーーーン♪


 大きくいなないた声が校内に響いていた。


 ふと周囲を見ると雅人の姿がないことに気づく。雅人のことだから、原田とつるんで黒瀬を輪姦しようとか最低のことを考えていると思ったんだが……。


 俺はハラマセオーに跨がり黒瀬の手を取る。乗馬体験と同じ形になったのだが、ここは人目に触れてしまうので……、


「うれしいけど、ちょっと恥ずかしいかも」

「ごめんね、急いでたから白兎馬で来ちゃって」

「ううん、八乙女くんは私の王子さまだから……」

「ん? なんか言った?」

「なんでもないよ」


 髪からは洗ってもらったシャンプーと同じ香り、服を着ていても伝わる黒瀬の体温。それだけ俺と彼女は密着していた。スタイルがいいとはいえ、華奢な黒瀬は慣れない馬上で、俺に安心しきったかのようにゆっくり身体を委ねてきていたから。



 念のためスマホで檸檬ちゃんの位置を確認するとうちの牧場へ来てくれていたみたいで安心していたのだが……、


「なにこれ……」

「分かりません」


 若葉に訊ねてもよく分からなかったが、檸檬ちゃんが黒瀬の顔を見ると泣き出してしまっていた。


「お姉ちゃぁぁーーーん、怖かったよぉ!」

「うん、大丈夫。私がついてるからね」


 檸檬ちゃんはとくに被害がなく、結果的に彼女に不審者丸出しで襲おうとしたような形跡はぷんぷん匂うものの、完全に自爆したと思われる。不法侵入ということで警察を呼んだんだけど……。


「玉がぁ……、玉がぁぁぁ……!」


 馬糞まみれで股間を押さえて、ごろごろと転がりながら悶絶するムスカならぬムスコ大佐。


 八乙女の名前を出した途端、5台のパトカーに分乗してきた警察官たちは雅人を見るなり職務中とあって、ぷぷぷと吹き出しそうになる笑いをこらえるのに必死そうだった。


 あれかな? これは笑ってはいけない24時か?


 俺たちが笑いをこらえる一方、雅人は痛がりかたが尋常じんじょうではなかったので救急車が呼ばれ、まるで遺体を搬送するかのごとく感染防止用のボディパウチに包まれ、ジッパーが閉じられた。


「面白い人を亡くしました」

「それを言うなら、惜しい人では? まだ死んでないし」

「まったく惜しくはないですね。私が惜しい人は……兄さんだけ」


 北極に吹く風のように冷徹に言い放った若葉だったが、口ごもったあと頬を赤く染めながらなにか小声でささやいていた。



 ピーポー、ピーポー、ピーポー♪


 救急車にせられ、牧場からドナドナされる雅人ばいきんまんを見届け、俺たちはもふもふを眺めながら、牧場内にある喫茶“まきばカフェ“に移る。


 若葉たちがカフェの店内で見守るなか、俺と黒瀬は2人きりでテラス席にいた。雅人と原田……脅威きょういが去ったことですべてが済み、善行は黒瀬に打ち明ける。


 俺の目のまえに出してもらった2つのお守り。


「黒瀬にちゃんと伝えておかないといけないことがあるんだ」

「うん……」


 俺の醸し出す雰囲気からか、お互いのドリンクは口をつけられることなく、汗をかいていた。


 お守りの袋から薄型のGPSを取り出し、アプリを立ち上げたスマホの画面を黒瀬に見せながら、伝えていた。


「俺は黒瀬が思うほどいい人間なんかじゃない。2人を監視して束縛するような最低のストーカー野郎なんだ。そういう意味では原田や雅人と大差ない。黒瀬みたいないい子が俺のそばにいちゃいけないんだ」


「うん……」


 黒瀬は俺の目をまっすぐに見ていたが、告白を聞くとまぶたから真珠のような大粒の涙を浮かべて、鼻から小刻みに息を吸い、感情をあふれさせてしまっていた。


 黒瀬といっしょにいると俺は彼女のことが気になってしょうがない。俺の心のなかは若葉一色だったのに、貧しくとも強く生きる黒瀬のように健気に咲く青い花の色に染まっていた。


「……俺は黒瀬のことを……」

「言わなくていいよ。最初から分かってたんだ。八乙女くんが若葉さんを見る表情からぜんぶね」

「黒瀬……」


「でもすごく楽しかった! 必ず若葉さんをしあわせにしてあげてね」


 黒瀬に声をかけたときから、決めていたんだ。最後に彼女に明かして、嫌われるつもりだった。


 これでいいんだ。俺には若葉がいるから……。


 黒瀬はハンカチを目に強く当てながら、無理やり気味に泣き止むと店内にいた檸檬ちゃんに声をかけ、俺の下を離れていった。


 察しのいい檸檬ちゃんは黒瀬になにも訊ねることなく、寄り添う後ろ姿が俺の頭からずっと離れなかった……。



 家に戻ると部屋に引きこもった。


 ううっ……ううっ……うわぁぁぁ……。


 俺から黒瀬を振るような真似して、彼女を傷つけたのになんで涙が止まらないんだよ!!!


 言い訳はいくらでもできる。


 彼女たちを原田と雅人から守るためにどうしても好感度をあげる必要があった。


 でもこれはゲームじゃない!


 みんな感情を持ち、泣いて、笑って生きてる。


 ベッドに突っ伏して、枕に顔を押し当て声を殺して泣いていると、部屋のドアがノックされる。


「兄さん……お父さんがお話があるみたいなんです。出てきてもらえますか?」

「ごめん……いま、そういう気分じゃないんだ」


 ドアの向こうで若葉が申し訳なさそうに声をかけてきたのだが、とても出ていけるような気分じゃなかった。



 ん……んんん……。


 いつの間にか俺は落ちてしまっていたらしい。真っ暗ななか目を覚ますと俺の身体の左右か柔らかな温かさに包まれていた。


 なにが温かかいのだろうかと右に手を伸ばすと、ふにっ、ふにっと柔らかい手ごたえがあり、心地よい感触に何度も揉んでしまっていた。


「あん♡」


 なんだ!?


「気持ちいい……」


 まるで黒瀬が吐息を漏らすように甘い声をあげる幻聴がしてくる。黒瀬がうちにいるわけがない!


 今度は左に手を伸ばすと……。


「なでられるの好きぃぃ……お兄……ご主人さまに撫でられちゃった」


 なっ!? 檸檬ちゃんが照れたような声がしてきて、俺はおかしくなってしまったのかと自分を疑う。


 ベッドボードのライトをつけるとボーッと薄暗い光で俺の周りが照らされ、声の主が判明した。


「黒瀬!? 檸檬ちゃん!?」


 黒瀬姉妹が俺を挟んで、添い寝していたのだ。しかもただの添い寝じゃない。


 2人ともネコ耳メイド姿で! 


 しかも、しっぽ付きと抜かりがない!!!


 俺がびっくりしているのをよそに黒瀬と檸檬ちゃんはベッドのうえで正座して、あいさつを始めた。


「キャットメイドサービスから参りました、ココアです」

「レモンだにゃん」

「不束者ですが何卒よろしくお願い申し上げます」

「申し上げますにゃん」


 丁寧に頭を下げたかと思うと、戸惑っていた俺に四つん這いで2人は迫ってきていた。


「ご主人さま、どうぞ私たち姉妹になんなりとお申し付けください」

「くださいにゃん」

「申しつけるもなにも……」


「レンタルメイドの基本メニューです。もちろん、ご主人さまがお望みとあらば、性的サービスももちろんございます」

「ございますぅ!」


 2人は俺の膨らんだ下半身を見つめると、2人で顔を見合わせた。


「まあ! たいへん! レモン、ご主人さまは怪我をされて、患部が腫れています。舐めて癒やしてあげなくては……」

「うん! いっしょに頑張るにゃん」

「そこは怪我じゃないって!」


 俺が両手を突き出していると2人は俺のズボンとトランクスを引っ張って脱がしてしまう。


 いや、そんな2人して上目遣いで俺を見てくるなんて反則だぁ!


―――――――――自主規制――――――――――

親ネコが子ネコの毛繕いをしているよ。ペロペロ~、ペロペロ~、なんだかとっても和んだね♡

―――――――――自主規制――――――――――


 ○イソンもビックリな吸引力を発揮したお掃除メイドのバキューム……。


「これがご主人さまの味……。レモンも味わってみる?」

「うん!」


 黒瀬は檸檬ちゃんに舌を垂らして、俺の味を教えていた。


 まさか父さんが俺を呼んでいたのは2人をうちで雇うとかだったのか!?


「私たち姉妹は善行さまの専属メイドです。ずっと離れずお仕えいたしますね♡」

「お仕えしますにゃん♡」


 黒瀬と檸檬ちゃんといっしょにいれるのはうれしいんだが、これでいいのか!?


―――――――――――――――――――――――

善行パパ、グッショブw

ご主人さまに恋心を抱くメイドさんなんて、控え目に言って無敵ですね。若葉とのジタク冥途戦争が起きそうですがwww

ご奉仕過剰をお望みの読者さまはフォロー、ご評価お願いいたします。

明日はし尿とゴミの収集日の予定♡

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