第二章 歪んだ歯車
一
オウルーク・ブレードの事務所の地階に小さな部屋がある。ただの物置だが、人目を避けられるのでよく利用していた。戦争は終わったと言うのに、そういう秘密の面会は減らなかった。
ケラトゥス・ウィングは帰ってきたばかりの部下からの報告を立ったまま受けていた。部屋は物であふれていて椅子すら置けないほど狭い。なにかの箱を机代わりにしているくらいだった。
「犬鬼が倒された?」
「誘導した三匹すべてです。しかし、あんな強い火球を使えるとは聞いていませんでした。積荷の影響でしょうか」
そいつはとがった顎を不満そうに動かした。小さい目をぱちぱちさせ、自分は悪くないと訴えている。
「強い?」
「青白色です」
ウィングは顎をなでた。
「事前の調査に不備があったようだな。この報告書はわたしが上げよう。お詫びはその時する」
「すみません」
失敗の報告をしなくていいとなったら目に見えてほっとしている。ウィングは顔には出さずに軽蔑した。うまく行かなかった時の報告こそが重要なのだと気づいていない。こいつは出世できないだろう。
「で、積荷は? あと、しつこいが、本当に気づかれなかっただろうな」
ほっとした顔がまたこわばった。
「目覚めました。いまは彼らとともに移動中です」
一旦口を閉じて唾を飲み込む。
「それと、気を弱め、充分離れていましたのでご心配なく」
「そうか。奴らがそこまで強かったとはな。犬鬼相手に負傷もなしか」
「はい。移動不能になるほどのけがはしていません」
ウィングは報告書の末尾に目を通した。それから二人はせまい部屋で計画を練り、書き付けと手紙を何通か書いた。こっちには使える駒数がないが、かといって出し惜しみできる状況ではない。
「とにかく変更はない。着く前に押さえる。脇街道で先行しろ。必要であれば人を雇ってもいい。そこはまかせる」
「は。で、だれを向かわせますか」
「おまえだ」
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