十
うずくまって怯える少女はなにを問いかけても口をきかなかった。そこをなんとかなだめ、荷台に乗せて出発するまでに時間を取られた。日は高くなっていた。
少女は膝を組んでうつむき、それぞれが名乗っても目を合わせようとしない。護衛隊形は元のままなので、話しかけるのはディガンとクロウだった。マールとペリジーは時々ちらちらと振り返っている。
白に近い短めの金髪。肌は白かったがこれは日に当たっていないせいだと思われた。目は緑。十にはなっていないだろうが、それにしてもやせて小さかった。持ち物はなく、まったく染めていない厚手の生地のズボンと長袖シャツには身元の分かるような印はついていなかった。同様になんの飾りもないサンダルを履いていたが、右が脱げてはだしだった上、山歩きできるような品ではなかった。探したが、あたりには見当たらなかった。
「お嬢ちゃん、おじさんの言葉は分かる?」
何度目かの問いだった。クロウは包帯や裂いた荷覆いの端切れで右足を包んでやりながら、普段使わない穏やかで優しい声を出そうと苦労していた。
「なにがあったかは知らないけど、あんなところにいたのはふつうじゃない。おじさんたちはきちんと届け出て、君を家族とか、心配してる人のもとへ帰してあげたいんだ。だから、お名前は?」
ディガンが首を振る。クロウの言葉の後半にいら立ちを見てとったからだった。そこで、横から割り込んだ。
「なあ、クロウ、そんな畳みかけるように聞かなくてもいいよ。お嬢ちゃんが落ち着くまでもうちょっと時間がかかるんだろう。それはいったん置いといて、おまえに確かめときたいんだが、きのうのありゃなんだ? まさか実力を隠してたのか」
のんびりした口調とは裏腹に、ディガンの顔は真剣だった。軍隊経験が長い者として、仲間が能力に関して隠しごとをしていたのならばそれなりに思うところがあるのだろう。
「ディガン、信じてほしいんだが、俺にも分からないんだ。俺の実力じゃどう頑張っても五発、しかも橙色がやっとだ。でも青白かった。長い修行と特別な霊の力を借りなきゃああはならない」
「そうか。終わりよければすべてよしって言うけど……」
「なにが気になるの?」ペリジーが黙っているのに耐えられず口を出す。
「気になることだらけだ。こいつが突然限界を超えた高威力の火球を使ったこと、それとこの身元不明のお嬢ちゃん」
「まだある」マールも口を開く。「良すぎるばねの謎さ」
ペリジーが馬鹿にしたように鼻を鳴らしたが、クロウが思いつきを付け足した。
「木箱の隙間。魔宝具だけにしてはすかすかだった。これも謎だよな」
隙間を思い浮かべながら、クロウは少女を見た。もううつむいてはいなかった。緑の瞳は年齢に似合わない深さを感じさせた。
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