竜王、冒険者になりましたっ!

@ke1_

第1話:竜王、人になるっ!



ティべリア火山──火口


燃えたぎる溶岩の中に、1匹のドラゴンが佇んでいる。

俺の名前はアグナレス。

人は俺を竜王と呼び恐れていた。


そう!俺は竜(ドラゴン)の王なのである。

歴戦の覇者である証に、俺の全身を纏う鱗には無数の傷が付いていた。


そんな竜の王たる俺にも一つだけ悩みがあった...

それが何かと言うと......超絶暇なのだ。


竜王になってからは挑んでくる人間も魔物も魔人も少なくなり、もう何百年もこうして火口で寛いでいる。

雨の日も風の日も、火山が噴火した日でさえ俺からすれば日常の内でしかなかった。


何もしないこの数百年で俺は気付いた。

本当の苦痛は何もする事が無い状態なのだと。

特に俺のような古竜達は、ほぼ永久に近い寿命を持っていた。

でもいくら寿命が長くても、する事が無いと生きている意味を感じなくなる。


そんなに強くて永遠に生きられるなら、世界征服でもすれば暇を省けるんじゃないか?って思う人も居るかもしれないが、そんなものに興味は無い。

絶対に成功する世界征服なんて、面白くもなんともないからだ。

寿命が長い為、どんな手を使ってもいずれは世界を統べる事が出来てしまう。

それでは意味が無いのだ。


人間達は良いなぁ。


短命な生き物だからこそ、殆どの者が毎日を謳歌して生きていた。

それこそ300年ほど前の事だが、最後に俺に挑んできた人間のパーティーなんて凄かったぞ。

俺と対面してすぐ地を踏み締め、物凄い勢いで切り込んで来たのである。

絶対に倒してやるという意気込みが、ヒシヒシと伝わってきた。

まあ意気込みがあっただけで、その力は全く俺に通用しなかったけど。

それでも羨ましかった。

目標を作り、限られた時間でそこに向かって生きていく人間達の姿が。


って待てよ...?あ、そうだ!


「俺!人間になれば良いんじゃね!?」


我ながら画期的なアイデアな気がする!むしろなんでこの数百年気が付かなかったんだろう。俺のバカバカ!


俺達ドラゴンに寿命はほぼ無い。

戦闘で深手を負い、生命維持活動が出来なくならない限り、死ぬ事は無いのである。

ただし長く生きていると肉体に不具合が出てくるため、数百年おきに転生を行っている。

と言っても、記憶も能力も受け継いでただ肉体を新しく構築し直すだけなのだが。


そこで、だ。


その転生の際に竜ではなく、人として肉体を構築すれば良いんじゃないだろうか!?

初めての試みだが恐らく出来るだろう。

とりあえず善は急げだ!早速転生をしてみる事にした。


俺は目を閉じ意識を集中させた。

体内の生命エネルギーと魔力を活性化させ、細胞一つ一つに行き渡らしていく。

しばらくすると徐々に身体が光り始め、シルエットしかわからない状態になった。

いつもならこのまま細胞を再構築するだけなのだが、今回は勝手が違う。

人の形を構築する為には、しっかりとその姿をイメージしなくちゃならない。


正直見た目なんかどうでも良かった。

人として違和感がなければ、それで充分。

そう考えていたのが裏目に出て、イメージが全く固まらない。


しばらく悩んでいる内に面倒くさくなった俺は、最後に挑んで来た人間の姿を借りる事にした。

初手一番に突っ込んで来た剣士の男にするか。

あれから300年経ってるから、その人間ももう生きてはいないだろう。

それならば、下手なイザコザに巻き込まれる事も無いと思ったのだ。


竜のシルエットが徐々に形を変え、人型になっていく。

完全に人の姿が完成すると光が一瞬で消えた。


ふむふむ。手や足を見るからに結構良い感じなんじゃないだろうか?


俺は右手を前に突き出し、魔法を発動させた。

すると目の前に大きな鏡が出現する。


この魔法は【囚縛魔法・鏡の監獄(ミラープリズン)】。

本来は何千枚もの鏡を出現させて、相手をその中に閉じ込め捕縛する魔法だ。

その魔法の出力を調整して、1枚だけ出現させたのだ。


「よし!完璧だ!!」


細身でありながら、しっかりと引き締まった筋肉。

髪は俗に言うブロンドヘアというものだろうか?淡い黄色のような色をしていて、なかなか綺麗だと思う。

身長は170cm程で、大きくもなく小さくもないくらいだろう。


あの時の剣士そのものじゃないか!


我ながら再現性の高さに感動してしまった。

これで見た目は完全に人間だろう。

誰も俺がドラゴンだとは思いもしないはず。

満足した俺は魔法を解除し鏡を消した。


とりあえず山を降りて街に行ってみるか!

確か、この山から南方に大きな街があったはずだ!


人としての生活をする事が出来るのか少し不安だけど、せっかく姿を変えたのにこのまま火山に居るのも何か勿体ない気がした。

馴染めなかったらそれはそれでドラゴンの姿に戻れば良いだろう。


久々にワクワクしながら山を降りるアグナレスであった。


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