帰国子女の美少女西原さんは、小学生に変装してプールに行きたい

@sumiyosinatsuki

プロローグ


 ある晴れた六月の初夏の日。

 俺は隣のクラスの女子、西原さんを中庭の裏に呼んだ。

「……内野君、何の用なの?」

 西原さんは、困惑気味である。


「俺、西原さんのことが好きなんだ……つき合って欲しい……」


 緊張気味で声が震えたが、はっきりと言い切った。

 西原春香――あどけない小柄な幼児体型だが、顔つきが綺麗で入学当初から学年でもかなり男子に人気のある女子生徒。帰国子女という噂もある。

 整った輪郭と綺麗な瞳、つやのあるボブヘア。後ろ髪を櫛でまとめている。制服のスカートはまとまり、衣替えのこの季節らしくベストとのバランスが良く一層可愛さを引き立てている。

 西原さんは入学当初から何人もの男子が告白したらしいが、全員断られたらしい。入学して初めての中間考査は学年上位五位でもあった優等生。そんな男心をくすぐるパーフェクトヒロインを手に入れたい。入学当初に西原さんと出会ってずっとそのことを考えていた。

 俺――内野透は中学の時は成績学年トップをずっと維持、部活も陸上部で長距離走を得意として何度も県大会に出場してそこそこの実力はあると自負している。だからこの進学校に入学し、高校でも陸上部に入部した。

 だから、自分こそが――。


「……ごめん……なさい」


 一瞬、俺は凍り付いた。

「……どうして、俺の何が……駄目なんだ?」

「内野君とは付き合えない。私……色々告白されてるけど、私そう言うのわからない」

「そうか……」

 俺は肩の力が完全に抜けた。

「もういいでしょ……私そう言うの本当に困るの」

 その一言を最後に、西原さんは無表情で俺の前を去って行った。

 俺は、立ち尽くすしかなかった。

 何で俺が、西原さんにフラれたのか全く分らない。

 自分には、自信があった。

 人生で始めて「負ける」屈辱を経験した。

 今の自分が受け入れられない。



 翌日、クラスの男子の間では、俺への噂で持ちっきりだった。

「内野の奴、ダメだったらしいな」

「彼奴、調子に乗るなって」

「あんな可愛い西原さん、内野なんかには不釣り合いだよな」

「誰だったら西原さん、つき合うんだろ」

「俺もつき合いたいけど、無理だよな」

 クラスの中での目線が痛かった。折角仲良くなったクラスメートからもこの失恋を期に周りの見る目が変わってしまった。

 授業の話が全く頭に入らない。頭はずっと真っ白。授業は何のことか理解が出来ない。ノート書いても上の空。何が悪いのかが理解出来ない。俺でダメなら誰なら良いのだろ?

「――野君、内野君!」

「は、はい」

 先生から注意される。

「ぼーっとしないように!」

 周囲は俺のことを失笑する。

「この化学式、答えて」

 何とか読み上げる。水兵リーベ――次は何だったか? 言葉が浮つく。

「集中してないから化学反応式が理解出来ないんです。もう少し集中するように」

 周りから笑われる。更に自尊心が傷つく。今の自分は本当に変だ。先生に注意されるなんてもってのほかだ。周りの目線が痛い。噂話が絶えない。

「彼奴、西原さんにフラれたのが相当応えたようだな。本当に入学してから調子乗ってばかり。少しは自分の立場をわきまえろよな」

 痛い陰口を叩かれ、後ろからナイフで刺されたような感触になる。

――放課後になった。

 陸上部に向かい、いつものように着替えて練習に励む。練習も全然集中出来ない。

 ランニング、インターバル、今までで考えられないような酷いタイム。ここでも周りからの目線を感じる。先輩の前で大恥を掻いてしまった。

 横から、同級生の男子部員である――元浦徹夫が俺の前に寄ってくる。

「内野、お前フラれたんだってな」

 元浦は上から目線で俺に近寄ってくる。しかもニヤニヤしながら。

「お前が西原とつき合う? 調子乗るのも大概にしろ」

 これまで元浦とはほとんど部活でも口聞いたことがなく、入学当初から好きなタイプではなかった。普段も会話もせず最低限の関わりでしかない。でも元浦は何か堪忍袋の緒が切れた態度でもあった。

「お前とは不釣り合いなんだよ。それにお前、色々調子乗ったり良くない噂もあるのによく関わろうとするな? お前の実力では西原は無理なんだよ」

 俺は頭に来た。

「何様なんだ! お前は告白もしてないくせに!」

 瞬間的に怒鳴ってしまった。周囲に丸聞こえ。部員が皆沈黙する。

 言ってしまった。周りから白い目線を感じる。これで部活でも俺の居場所はなくなった。

周りの目線も厳しくなっていく様子を感じる。

「フラれて、その実力を感じて色々言われて逆ギレか? 先輩見てるだろ。格好悪いぞ」

 元浦は言いたいことを皆の前で言う。



 この日を境に、部員の俺への態度は変わってしまった。

 周りからの冷たい目、不親切な態度。俺はドンドン惨めになっていく。

 ――クラスでも、部活でも、もう自分の居場所がない。ずっと自分はパーフェクトヒーローだと思い込んでた。その自尊心が全て崩壊した。

「辛い、もう学校には居場所がない……」

 自信を持って過ごし、完璧で自分に死角はないと思っていた。それがあの失恋で全てが崩れてしまった。

 リア充生活が全て崩れた。そして俺は即座に陸上部を退部した。

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