乙女ゲー悪役中ボス転生系原作シナリオブレイカー!――裏ルート攻略対象兼中ボスとして転生したオレは、オレの運命を支配するこの世界を認めない――
チモ吉
1章 『中ボス転生! 原作シナリオブレイカー!』
1-1 唐突な覚醒と理不尽な怒りと
春を迎える頃合いのある日。
突然、オレは前世の記憶を取り戻した。
それは本当に唐突だった。
何の前触れもなく。何の予兆もなく。そしてきっと何のキッカケもなく。
オレは、前世でこことは違う場所――日本で生きていた頃のことを思いだした。
思い出して、しまった。
最後の記憶は燃え上がるオレのバイクと全身の痛み。
つまり、前世のオレはバイク事故で死んだわけか……。
死んだことは、受け入れられる。
毎日のようにバイクを乗り回していたんだ。いつか事故に遭うような、そんな乗り方をしていた回数も思い出せない程だ。だから、事故死はいい。
「――なんで」
オレは1人呟く。名目上は公爵家とされるボロい小屋の中、小屋の外見とは似ても似つかない機械的な装置で埋め尽くされたその部屋で1人呟く。
「なんで」
溢れ出る感情は、怒り。
「なんでだ――っ!」
それは、この世界――ひいては今のオレ、今世のオレの立場や境遇に対しての怒りだった。
「なんでオレは姐さんにやらされてたゲームのキャラになってんだよっ、クソッタレ!」
――――
『失楽園と夢幻郷』というゲームがあった。
所謂乙女ゲー。主人公の女がイケメンにチヤホヤされるだけのゲームだ。
おおまかなあらすじとしては、なんか『聖女』とかいう称号持った設定上は平凡なくせに明らかにキャラデザ的には美少女な主人公がとある魔法学園的な場所で『勇者』と呼ばれるなんかを見出し、復活した暗黒神を倒すとか、そういうストーリーだ。
要するに、テンプレートなファンタジー学園モノだな。ジャンル的にはRPG要素もあるノベルゲー、ってなとこか?
んで、そのゲームのキャラにオレは転生したらしいんだが……。
「なんでよりによって『コイツ』なんだよっ!?」
そのキャラというのが、『ルシファー・ダークネス』って名前のいかにも悪役ですって名前を付けられた、物語中盤で倒される中ボス。
ダークネス家の長男で、名目上は『勇者』。『第一聖教会』って名前のこのゲーム世界で一番有名なよく分からん宗教団体にも公認されている。
だが、ゲームをプレイ済みのオレは知っている。
このルシファーってキャラが『勇者』ではなく『偽勇者』で、それどころかゲームのラスボスである暗黒神復活の鍵であることを。
なんとこの『第一聖教会』とかいう組織、表向きは普通の善良な宗教団体なんだが実体は暗黒神崇拝の邪神教。そんでもってルシファーは、すっげー昔にそん時の勇者様に倒された暗黒神を復活するべく生み出された勇者の遺伝子を持つホムンクルス。なんでも暗黒神復活にはソイツを倒した勇者の力が必要なんだとか。
機械だらけの小屋の中で洗面台に向かう。この小屋の構造だったりその他の雑多なことは『ルシファー』だった自分が覚えていたために自然とその場所が分かった。
鏡を見る。
黒髪に黒目、だが日本人的ではない顔立ち。どこか陰のあるイケメン。これは完全にルシファーだ。纏う雰囲気からしても、前世を思い出す前の記憶からしても自分を全力でルシファーですって顔をしていた。
あ? なんでオレが男なのにこんな乙女ゲーに詳しいかって?
……無理矢理姐さんにやらされたんだよ。『コレ、アタシのお気にだから。三日以内に終わらせて感想言えや。じゃなきゃぶっ殺す』とか物騒なコト言われてよ。
その所為でここがゲームの世界だってことも、自分がルシファー・ダークネスとかいう直球過ぎるネーミングなキャラだってことも分かっちまったってことだ。
……あぁ、苛立つ。
頭にくるぜ、まったく。
ゲーム開始前……乙女ゲーの主人公と出会う前の不安定な状態だった所為か、今のオレは『ルシファー』ってキャラの人格よりも前世の人格が強いらしい。だから、今の状況が苛立って仕方がない。
死んだことはいい。
転生したこともいい。
だが、なんで『シナリオ通りにしか動かない中ボス』なんぞにオレがなっている。
オレは自由が好きだ。逆に束縛だとか規則だとか、そういったモンは総じて嫌いだ。特に運命だとか宿命だとか、意味の分からんモンに流されるって概念は前世の頃から大っ嫌いだったね。
そんなオレが、ゲームキャラだと?
それも、ある程度の自由がある主人公だったり、あるいはシナリオに絡まない様な一般人じゃない、どう考えても避けられないストーリーが用意されている悪役キャラだと?
ふざけるんじゃねぇぞ。
「しかもマズいな……記憶によると明日学園に入学する訳か……ゲームが始まるっつーコトじゃねぇかっクソっ、クソっ!」
鏡面を殴りつける。衝撃で鏡は粉々に砕け散ったが、オレの拳は傷1つ付かなかった。邪神教が作り出した勇者モドキだけあって、そして中盤の壁となるキャラなだけあって無駄に頑丈な肉体だ。その事実にいやがうえにも反吐が出そうになる。
無論比喩表現だが。実際にゲロを吐くなどオレがするわけがない。
『ルシファー』の記憶と『オレ』の情報を照らし合わせる。ゲームをプレイするだけでは知り得なかった些細な情報もあるが、それらは細々とした事柄で大きく支障はない。
つまり、順当にシナリオが進行する――このまま運命だとか宿命だとかに身を任せれば、オレは死ぬこととなる。
悪魔神復活の贄として。
「許せるものか……許せるものかよ、絶対に……っ!」
湧き上がる憤怒。感情の奔流。
乙女ゲームにはおおよそ相応しくないその感情を、オレは抑える気などなかった。
「全部ぶっ壊してやんよ。シナリオだろうと『教団』だろうと。全部全部、ぶっ壊してやる……」
ゲームが開始されるのは明日からだ。
作中での描写は主人公視点で描かれていたために、ルシファーがどのような行動を取っていたかの詳細などオレは知らない。だが、むしろ知ったことか。知ったことかよ。
抗いがたい――否、抗う気のない感情に任せオレは決意した。
オレは、ルシファー・ダークネスは。
こんな下らないゲームのシナリオなんぞに従ってやるものか。
――この時のオレは、前世の記憶を取り戻した衝撃と世界に対する怒りでそのことを忘れていた。失念していた。
ルシファー・ダークネス。彼もまた、この『失楽園と夢幻郷』における攻略対象――他のキャラクター全攻略後に解放される、所謂裏ルートにおけるメインキャラクターであったことを。
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