百合ものがたり(文芸)

宝希☆/無空★むあき☆なお/みさと★なり

第1話 Valentineにて①

私の目に彼女がうつり、何度も去来する様になったのは以下の理由がある。


彼女は背が高く胸とお尻が小さい。そんな事を高校三年の身体測定の時に知った。一物[恥ずかしい]のない少年の様な彼女のスタイルに、自分の大人になろうとしている膨らみを意識して、自分がどんどん子供を卒業して、汚れてゆくのではとさえ思った。「羨ましい」のか?違うな「素敵」なのだ。


これを「憧憬」と呼ぶのには反発する自分が居て、だからこの気持ちは「遅すぎる初恋」なのだろうか?と悩んでしまった。


彼女の性格は知らない。けれど、教室でかったるそうに喋っている彼女を意識すると、友達との会話すら上の空になる日々が過ぎて、やがて来る卒業に、おかしくなりそうなので、友人に名前を無しにして相談してみた。


「憧憬だよ。きっと」あっ、陽性転移かもしれないと軽くこめかみをグリグリしてくれた。「陽性転移?」って何?と聞いてみると「理由があってビックリしてドキドキしてるのを恋心の様に」錯覚する普通の病気だよ。と、教えてくれた。普通だから安心してすごそうなとの申し出に、少しだけ救われた。


彼女は痩せていて格好いい。帰宅して制服のままベッドに寝転び天井の模様を目でたどる。植物をモチーフにしたその曲線が、彼女の裸体とかぶり枕をぎゅっと抱きしめた。「恥ずかしい」彼女の裸体に意識している自分の心の素直な部分が恥ずかしかった。そして気がついた。石鹸の香りのする衛生的で、一物[恥ずかしい]の無いイケメンとも言える彼女にだけ思ってしまうこの気持ち。卒業すれば終わってしまう「陽性転移」か「恋」なのかわからないこの気持ちを「きづかなかった」気持ちにするのではなく、ちゃんと正面に向き合おうと想った。そうして落ち着いた。


翌朝寝坊してギリギリに教室に間に合いかけた時に「お先に」とアルトの声が聞こえた。彼女だった。ビックリして動きが止まった私はホームルームの教師に出席簿で背中をこづかれるまで赤くなっていた。そう、決めたのだ。バレンタインデーにチョコを送ろうと。そうして挙動不審な私は数人の生徒に笑われながら着席した。恥ずかしかったから、元凶現況の彼女を少しだけ恨んだ。


「バレンタインデーにチョコあげる事にした」お昼休みにお弁当をつつきながら友達にうちあけた。「友チョコ?」と、なら私のも準備しろよと笑われたが「違う」と説明した。「友達以上恋人未満」と言えた。したら、友人は「馬鹿だね。この子は」と私を哀れんだ。「だからチョコ選びつきあってよ」とお願いしたら「了解」の返事をもらった。


そうして放課後、デパートのチョコ売り場にいる。昔は安いチョコをバレンタインデー後に見切り価格で買うのに燃えてたなと笑いながら、お高いチョコ達を、はしからはしまで吟味した。トリュフとボンボンの組合せを見つけ、いいなと想ったのでそれにした。友達にはフルーツショップであまおうを義理苺として渡した。友達はへらへら笑いながら楽しそうに受け取ってくれた。


そしてバレンタインデー当日。

私は私史上最高に緊張する局面へと突入するのであった。


「なんだかよくわからないけれど」さんきゅーと言われるとも知らずに。




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