第52話『ジュマの大博打』

 地球に戻った3人は、直ぐに会う約束をした。3人の心は決まっていたのだ。

「かの世界へ戻りたい」

不思議なことに、地球や地球にいるものたちへの執着は殆ど皆無であった。

 示し合わせて、書き置きは残すことにしたが、書いている最中でも、残してきた愛する家族の前には執着とはならなかった。

 それから、ジュマは急いでもう一通手紙を書き準備をした。


 翌日の夕方、3人は某県の山の中にいた。


(ジュマ)

「忘れ物はないね?もう一度確認して。始めたら取りに戻れないから」


(エミル)

「ヒュッ…、暗殺ある。魔王の指輪ある」


(パルパ)

「んと、いたいた。うちのエミルがごめんよ!…OK死者の蘇生ある。理不尽の腕輪ある」


(ジュマ)

「えっと、ライターでいっか。パルパ腕輪頼む」


(パルパ)

「ほいきた」


(ジュマ)

「絶対守秘かけて…んじゃエミルばらしてみて…」


(エミル)

「消えた」


(ジュマ)

「取り出しできた!絶対守秘あるね。んで、魔法スクロールこれに頼む!」


スクロールが青く光った。


(ジュマ)

「んじゃエミル、指輪を俺に渡して」


(3人)

「んじゃ、恨みっこなしな!理不尽最大の博打やるぞ!」



 かの世界でも、再び夜が訪れようとしていた。

ジュマ、パルパのいた各々の家では、誰もが静まり、そしてだれかのきっかけでまた泣き叫ぶ、そんな時間が繰り返し繰り返し流れていた。

 風林火山からの知らせを受けた王たちが、各々に最寄の家を訪ねたが、泣き声が聞こえるばかりで出てこなかった。


 魔王の元にも確認を問う風林火山が訪れ、理不尽の面々がボンテを残し一斉に消えた事を確認したものの、事情は分からないままであった。

各々の様子から、ただ事ではないことだけが真実味を加速度的に増やし、不安をかきたてるのであった。




 それは、もう温もりの失われたベッドに顔を埋めた魔王がシーツを握りしめた時だった。


 魔王の目の前に瀕死のジュマが出現した。


(魔王)

「何事か?ジュマ殿!しっかりなされよ!」


ジュマは、手紙を魔王に渡し、気を失った。


─ 魔王殿、私ジュマを何としても助けて下さい。 ジュマ ─


 魔王は直ちに治癒師を集め、薬師、医師と共にジュマを助けるべく努めた。


(魔王)

「ジュマ殿!これは一体どういう…」


 目を覚ましたジュマは、ふらつきながら立ち上がった。


(ジュマ)

「まだだ!まだやることが残ってる!」


ジュマが腕輪をかざすと、パルパとエミルの遺体が現れた。


(ジュマ)

「スクロール!死者の蘇生を発動!」




 あの後、ジュマはエミルから受け取った魔王の指輪を装備した。それを確認して、エミルは暗殺術でパルパを殺した。そして、自らをも殺した。

生命ではなくなった2人に、ジュマは絶対守秘を付与し警察に通報した。

 そして、自らの体にナイフを入れたのだ。


 生命の危機に瀕したジュマは、対の指輪を持つ魔王の元へと転移した。指輪は、命の危機に瀕した場合に「例えどんなに遠くにいても」対の指輪をする者の所に転移する効果を持っていた。


 これを利用して、ジュマは魔王のいる、つまりかの世界に移動することに成功したのであった。

 生命の危機を脱したジュマは、腕輪から2人の遺体を取り出した。

遺体となった2人は生命を有しておらず、絶対守秘の付与が可能になる。

しかし、付与した者が、回収の条件を満たしても何も起こらない。そこで、ジュマは警察に通報するという方法をとったのだ。

 通報された警察によって検死解剖されることで、絶対守秘の条件、悪意と「分解」に該当させ、装備した腕輪に2人を回収できる。


 次に取り出したうちのパルパの遺体に対して、死者の蘇生を封じたスクロールを使い、パルパを蘇生させる。

 あとは、蘇生したパルパがエミルを蘇生することで、全員が再びかの世界に移動することを成し得たのである。



(パルパ)

「やったのか?成功?」


(ジュマ)

「おう!大成功よ!ほら」


 エミルを見ると魔王と抱き合い唇を重ねていた。


(パルパ)

「このまま静かにしてれば続きもやるかな?」


 器用にも、抱き合ったままの蹴りがパルパにめり込んだ。


(パルパ)

「ちょ!俺もう普通の人!アカンて!」


(エミル)

「その割に平気そうね。どれもう一発!」


 ひとしきり笑った後、皆一旦家族の元へと戻る事になった。


(ジュマ)

「高速船造ってて正解だね」


(魔王)

「先程から、何の話をしておられるのか?ただの人だの、海路を使うだのと。あなた方程の化け物染みた魔力を漂わせながらそのようなことを言われても、何か事情がおありか?」


(3人)

「ん?」


 ステータスはレベル1200、各種魔法やスキルもそのままであった。


(3人)

「どゆこと?」



 そんな理不尽の面々を再び闇が覆った。



[ やってくれましたね ]


(ジュマ)

「…まさか」


[ いえ、ご心配なさらずとも結構ですよ。私たちは、外部から協力者を呼ぶ際には、必ず元に戻さなければならない決まりがありますが、私たちが呼んだ訳ではない今回は、あなた方は別の惑星からの渡航者ということになります ]


(パルパ)

「じゃ、このままこの世界に居てもいいってこと?」


[ はい、そこには私は関与出来ません。ただ、私の管理する管轄へ、外部から呼んだ場合、滞在中は約束したスキル等を使えるようにしないといけないのですが、その約束はこうも解釈できますよね。

 地球はこの管轄ではないので特例の1つを除いて外しますが滞在中付与の条件が消滅したわけではない…と。そして、再訪したあなた方は滞在中であるとね ]


 (ジュマ)

「なるほど、ご期待にそえるよう努めますよ」


[ 何の事でしょうか?私はただ決まりに従っているだけですよ ]


(ジュマ)

「それでも…ありがとうございます!」


 こうして、理不尽の面々が再びこの星で生きることが認められたのである。

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