第43話『別荘:エミルの場合』
獣王国と魔国の国境は東西両側を海に面する細い形状になっている。
そんな国境には、かつて睨み合うように砦が築かれ、互いに国境を監視していた。
終戦後、砦はゲート部分と駐在する者に必要な部屋だけを残して壊され、双方の廃材を再利用するようにかつての砦の間に立派な街道が造られた。
また、同じように廃材も活用して、通路に面して街が造られ、商業と宿場の街として、獣人の魔人が共に暮らすようになっていった。
そんな国境の街の外れに、別荘を設けたのがエミルである。
地上三階建ての比較的大きめの邸宅で、裏手はそのまま海に突き出すようになっている。プライベートな桟橋やビーチを有しており、ボンテやボンテの仲間が遊びに来たり、何かしらから避難してきた際の受け入れにも対応できる。
また、敷地内には大規模な生活施設を設け、孤児学院として子供たちを受け入れている。
まずは、そんな孤児学院を見ていくと、1階部分には、複数の教室と体育館のようなスペース、2階には食堂と調理室、トイレ、多目的ルーム、図書室等が並んでいる。
3~4階は、子供や職員の生活スペースとなっており、浴場やトイレ、談話室、学習室といった共用部を始め、宿直室、住み込みの職員用の部屋、子供用の4人部屋がずらりと並んでいる。
学院では、読み書きと簡単な計算などに加えて、生活基盤となる技術を学ぶことができる。
様々な技術を体験していく中で、得手不得手などを判断し、数年かけて即戦力となる本格的な技術を身に付ける。
成人したら晴れて卒院となるが、世界の現場からの仕事の情報を集め、卒院前に職場を選び相手方と話して決定し、卒院と共にすぐに生活できるようにするなど、バックアップ体制も充実している。
即戦力となるように育てられた技術は現場からも高い評価を得ており、加えて読み書き計算が出来ることが大いに歓迎され、実は需要過多となっている他、卒院生に対して不当な扱いをした場合、学院との関係が絶たれる事に加えて、同業者からすぐにばれてしまい、悪評となってしまうことから、就業先は揃って優良な事が多いのも理不尽の面々と国家のトップがバックについている事が大きいだろう。
戦争、貧困、事故、病気と、孤児が生じる理由は色々あれど、背景には社会があり、その社会の責任者は国なのだという考えのもと、孤児たちの成長・学びの機会が奪われることがあってはならない。寄付等のやり方では不十分ということで、世界各地の孤児院や学校には国からの支援が行われているのだ。
これまでは、ペレス王国とラキシア王国の2か国で、国による金銭的な支援は行われてきたが、勉学や職業訓練が行われたのはここが初めてであった。
この取り組みは、エミル本人が自ら申し出て実現させたものであった。
エミルの別荘の敷地に孤児学院を開設した理由も同じ理由からであった。
エミル別荘もまた、実地訓練の現場として活用できるからである。
会計関連からメイド、執事、清掃、庭師といった業務を別荘で実際に行うことができるのだ。
エミルの別荘の特徴は、別荘の部屋割りにもある。
一つ一つの空間がとにかく広く高いのだ。例えばゲストルームの広さなど、眠れれば良いので四畳半程度あれば十分すぎるものである。八畳十畳にもなればかなり広いものであると言えるのだが、エミル別荘のゲストルームは、最小でも十六畳ある。
お風呂は3ヵ所あり、ひとつは普段の自分用、もうひとつは従業員用、もうひとつはゲストが来た時やそんな気分の時に使う大浴場である。ここはもう、複数の温泉がある旅館かのごとくなっており、ボンテがしょっちゅう遊びに来て楽しんで行くことから、ボンテを誘き寄せるために造ったのではないかとジュマが分析している。
当のボンテは、前世でのこともあり、何だかんだとジュマと過ごすことを当然のように選択しているのだ。
要は、孤児学院開設にしても、ボンテのことにしても、エミルは可愛いものが好きということのようだ。
後には、エミルの取り組みが各国に広まり、孤児学院に行く必要のない子供が孤児を装って学院を訪れるという事件も発生することになるのだが、これは言い換えれば、取り組みがうまく機能していることの証明でもあり、後の王たちは条件を満たしているかの見極めをどうするかで頭を悩ませることになるのであった。
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