五行家の言霊師ら、『砂時計の王子』に出逢う事
鴻 黑挐(おおとり くろな)
壱:太樹とアントナ、シャフマにて
「知らない町だ……」
(どうして俺はここに……?
目が眩んでいる。これは太陽の照り返しだろうか、それともさっき見た光の残滓だろうか。
「おーい、大丈夫かい?」
褐色の大胸筋が太樹の視界を塞ぐ。
「あなたは……?」
視線を上げる。黒く長い前髪と青い瞳が揺れた。
「俺かい?俺はアントナ。アントナ・エル・レアンドロ。ま、『都合良し屋』さ」
男ーーアントナはそう言って笑った。
「アン……トナ?外国人?」
「そういうアンタこそ。こっちじゃ見ないような顔だな、フートテチ人か?」
「ふー……何?」
どうも話が噛み合わない。
「よくわからないけど……俺の名前は李下太樹です」
「リノシタ・タイジ?変な名前だな」
アントナが首をかしげる。
「あ、あんたこそ……」
そう言いかけたが、喉が張り付いて声が出ない。
「大丈夫かい?水か?日差しにやられたか?」
「うう……」
「まあ良いさ。ひとまず、ウチで休みな」
アントナの家。
「あらあら〜。アントナさん、その子は一体どうしたの〜?」
「ルル!行き倒れだ」
「まあ、それは大変ね〜。お水持ってくるわ〜」
ルルーシェが慌てて台所に走る。なびく白髪が日差しに照らされて光った。
「リノシタクン、どうしてあんな砂漠の真ん中に?」
「さあ……。俺も、何がなんだかさっぱりで」
テーブルに水差しとグラスが置かれる。
「ぬるいお水しか出なくって。ごめんなさいね〜」
「ああ、ありがとうルル」
アントナがルルーシェに熱いハグをする。
「わわっ⁉︎」
(外国の人ってあいさつでハグするって聞いたとこあるけど、ホントなんだ)
「しかし、行き倒れにぬるい水ってのもかわいそうだしな。今冷やしてやる」
アントナが水差しを両手で覆う。
「そんなことしたら、もっとぬるくなっちゃうんじゃ……?」
「まあ、見てなって」
「……?はい」
太樹がじっと水差しを見つめていると、ポツポツと結露が出て来た。
「よし、だいたい良い感じに冷えたかね」
アントナが胸を張る。
「???」
太樹はポカンとしている。
「魔法を見るのは初めてかい?リノシタクン」
アントナは太樹に微笑んだ。
冷気でキンキンに冷えた水で喉を潤すと、少し落ち着いてきた。
「うーん、やっぱり圏外かぁ」
太樹が左手首に巻いた液晶端末をタップする。
「それ、スマホか?」
「いえ、“ウェアホ“ですけど」
「うぇあほォ?」
アントナが口にすると、なんとも間抜けな響きになってしまう。
「“ウェアラブルフォン“で“ウェアホ“。俺のはスタンダードなブレスディスプレイタイプですけど、ハイグレードなのだとグラスとかコンタクトとハンドキャプチャで操作するARタイプとかも……」
「待ってくれ、何を言ってるか全然わからん。“ウェアホ“ってのは何なんだい?スマホの親戚か?」
「スマホ?」
太樹が首を傾げる。
「今時スマホなんて、写真撮る人しか使いませんよ?」
やっぱり話が噛み合わない。
「あの……。今から、変な事聞いて良いですか?」
「……ああ、いいぜぇ」
そう前置きした上で、太樹はお決まりのセリフを口にした。
「今は、西暦何年ですか?」
「セイ、レキ……?どこの暦だ、それ?」
「えっ⁉︎」
あまりにも予想外な答えに、太樹は素っ頓狂な叫び声を上げた。
「今は王国歴1050年だぜ」
「お、王国ぅ⁉︎」
「そう。リノシタクンが住んでたトコじゃあどうだか知らないが、シャフマで使ってるのは王国歴だぜ」
「えっ」
カレンダーに書いてあるのは見た事のない文字。
「も、も、もしかして……」
太樹は机に手をついて立ち上がった。
「これって、“異世界転生“ー⁉︎」
読者の皆様が誤解しないように
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