青い月が呼ぶ
@kaz26aok
第1話 海
絶好の海水浴日和だった。暑い日が続いていたので、週末に海に行くことは葉子さんが決めていたし、僕も波の音が恋しくなっていた頃。その日は朝から強い陽射しが寝室に飛び込んできて、いつもより早起きをしてしまった。トーストとヨーグルトジュースを飲んだら、あとはもう水着とゴーグル、バスタオルをリュックに放り込んで、Tシャツに短パン、ビーチサンダル。サングラスとキャップを忘れたけれど、取りに戻ろうとは思わなかった。公園で待ち合わせた葉子さんも、同様のいでたち。しかし、しっかり麦藁帽とサングラスをかけていた。
おはよう、ルリくん。
葉子さん、おはよう。
僕らは華奢なフレームの自転車(ただし、競技用ではない)をゆっくりと漕ぎながら、お目当てのビーチへ来た。二車線の殺風景な海浜道路から脇道にそれて、ちょっとした茂みを抜けると小さな入江があるのだ。去年、僕が見つけた。
日影ができる岩場のそばにシートを引いて、リュックからはタオルを出しておいた。この入り江は波が静かで、浅瀬も小石ばかりで歩きやすい。僕らは黄色や青の魚を追いながら、自由気ままに泳いだ。僕はバタフライが好きだが、葉子さんは背泳ぎをしながら空を眺めるのが好きだ。
ひとしきり泳いでもまだ昼前だったが、僕らは流木に並んで腰かけて、海を見ながらタラコおにぎりを頬張った。ときどきささやかな風が吹くと、肩に当たる陽射しの暑さが和らぐ。麦藁帽にサングラスの葉子さんは、水筒にもってきた温いお茶を渡してくれた。タラコおにぎりによく合う。僕はコンドミニアムのベランダで収穫したトマトをマヨネーズとともに提供した。皮は厚いが、それほどきつくない酸味が葉子さんも気に入ったようだ。2個目も手に取り、濃い緑色のヘタを人差し指と親指で丁寧につまんで、足元の砂の上にそっと置いた。綺麗に磨かれた爪。そしてサングラス越しに僕を見て、ふいに教えてくれた。
実はですね、昨日の午後、はやびけして、病院に行ったんだよ。私、妊娠しました。お医者さんも、間違いないとのこと。
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