ep12.サンダーバード
その後、三人のゾンビはオークとキョンシーと天狗により連行されていった。
「んじゃ、ちと
去り際にそう言い残したオークのその言葉遣いは、ウィリアムに特定の誰かさんを連想させずにはいなかった。
なるほど、あれが彼女の源流か。源流の一つか。
「ええと、それでビアンカちゃん、こちらのゴブ君は、どこのどちらさま?」
男衆がゾンビを引っ立てていったあとで、ネコマタお姉さんがウィリアムを指してビアンカに訊ねた。
いつのまにか人数分のお茶を用意してきていたレッドマンの老人が黙ったままコップを渡してきた。
子供たちは手土産のお菓子に夢中になっている。
「ん……ガッコの友達だよ」
ビアンカの答えは極まって簡潔だった。クラスメイトだとかゴブリン寮のルームメイトだとか、それにエスコート係とか、そういった情報は一言も口にされない。
それがこれからはじまる
「まぁまぁまぁまぁ! あれあれあれ、まぁ!」
ネコマタお姉さんの顔が、ぱあっと輝いた。
それから、根掘り葉掘りの質問攻撃ははじまる。
二人はいつからのどういう関係なのかとか、どこまで進んでいるのかとか(なにが?)。
ビアンカはそうした質問一つ一つに対して「だからただの友達だってんだよ!」とうんざりしながら繰り返しつつ、「ああもう、これだから教えたくなかったんだ!」などとぼやいている。
あのビアンカがたじたじになっている。
その様子を、ウィリアムは興味深く観察している。興味深いどころか、もはやこれはエキサイティングですらある。
「だってだって、お姉ちゃんずっと心配してたのよ? エルフの学校なんてさ、ビアンカちゃん無理してるんじゃないかしらって。学校のイメージ戦略とかに利用されてね、内心ハラワタ、煮えくり返っちゃってるんじゃないかって」
ん? イメージ戦略?
なんだそれ?
「ねぇ、ゴブ君、ウィリアム君だっけ?」
「え、あ、はい」
突然話しかけられて、ウィリアムは湧き上がった疑問を途切れさせる。
「最近、ビアンカちゃんは前ほど学校が嫌いじゃないみたいで、それってきっとあなたのおかげなのよね? あちしはただの近所のお姉さんだけど、でもでも、それでも言わせてちょうだいな。……ありがとね? ほんと、ありがとね?」
ウィリアムの手を取って、彼の目を覗き込んで、ネコマタお姉さんは言った。
なんと返事をしていいかわからなくて、ウィリアムはただ黙っていた。
「はいはい、終わり終わり!」
そのとき、ビアンカが手を叩いて二人の間に割り込んだ。
「おいミケ姉、いきなり変なこと言うなよな。ウィルが困ってんじゃねえか」
ビアンカの抗議を受けたネコマタが、「えー、だってー」と甘えた声を出す。
ほんの一瞬だけ醸成された湿っぽい空気は、それで無事元通りになった。
「そんで、ウィル。あんた、いったいなにしにきたんだ?」
「え?」
「『え?』じゃねえよ。なんかあたしに用事があったからわざわざ来たんだろ?」
まさか偶然通りかかったとか言わないよな? とビアンカ。
問われたウィリアムは、しばし沈思のうちに黙考して。
それから、ようやく当初の用事を思い出して、「あっ」と声をあげた。
「あのさ、君がおとといディミトリに怒ったのって、彼が僕を侮辱したからだよね?」
「はあ? ……い、いやまぁ、確かにそれもあったけど……」
「そう、そうなのだ。なのに僕はそれについて、君に言うべきことを言ってない」
それだけ言うと、ウィリアムは両足のかかとをつけて、つま先を少しだけ開いた。
両手の指先までをズボンの横に置く。
背筋を伸ばして胸を張り、顎を引く。
そうして直立不動の姿勢となって、紳士は紳士を遂行した。
「ビアンカ・バルボア、君の友情に心から感謝する。本当は真っ先に言わなければいけなかった言葉が、こんなにも遅くなってしまった。すまない。そして、ありがとう!」
そう言って、ほとんど九十度近くまで腰を折って、深々とお辞儀をした。
その場にいた全員が、しばし揃って言葉を失った。
「……まさか、わざわざそれだけを言いに来たのか?」
呆気にとられた絶句の数秒のあとで、ビアンカが唖然とした声で言った。
これに対してウィリアムが「いかにも」と答えると、再び場の全員が絶句する。
沈黙を破ったのは笑い声だった。
それまで一言も言葉を発さなかったレッドマンの老人が、胸をそらして
ひとしきり笑ったあとで、老レッドマンはピンと立てた指を天に向けて。
「ビアンカ。ユーのフレンドは、とてもとても、『
そう言ってさらに笑う老人に、ビアンカはややあってから苦笑気味に笑い返して。
それから、同じように人差し指を立てて言った。
「うん。こいつの紳士バカっぷりは、まるっきり
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