モンスタークリエイター~~転生したので大好きなモンスター達と暮らします~~

@yuuki009

第1話 思わぬ転生

 今俺、『春日井 たける』は、真っ白な空間に浮いていた。そこは非現実的な場所で、何で俺はこんな場所に居るんだろうって思った。


 必死に記憶の引き出しの中を探る。何でこうなったのか、思い出そうとしたから。すると浮かんでくるのは、学校帰り。すっかり暗くなった道を歩く俺。そして、横断歩道で飛び出した野良犬を庇って、迫りくるトラックが視界いっぱいに広がる所で、俺の記憶は途絶えていた。


 俺、死んだのだろうか?でも、じゃあなんでこんな場所に居るんだろう。それに、何で俺は、絶望したり、恐怖したり、泣いたりしないのだろうか。自分の事のはずなのに、自分が死んだかもって分かってるのに、不思議と何の感情もわいてこない。


 どうして?と思っていると……。


≪それは、あなたの精神に干渉しているからです≫


 どこからともなく響く声。それは驚くほど透き通っている声で、まるで人の声とは思えないほどだった。誰?そう思って声がした方に目を向ける。


 すると、そこに立っていたのは美しい女性だった。まるで『この世の者とは思えない』くらいの、美しい女性だった。


「あなた、は?」

 美しい女性に見惚れていた俺は、反射的に問いかけてしまう。

≪私は女神。数多の世界で輪廻転生を管理する者です≫

「女神、様?それに輪廻転生を管理、って、まさか」

≪はい。残念ながら、あなたは既に亡くなっています。より正確に言えば、肉体が死亡し、魂がここへといざなわれた、というべきでしょうか≫



「ここは、天国なんですか?」

 肉体が死んで、魂がいざなわれた、なんて言われれば誰だって真っ先に天国を想像するだろう。実際今の俺がそうだった。


≪いいえ。ここは天国ではありません。ですが、地獄でもありません。ここは世界の狭間と呼ばれる場所です≫

 しかし女神様は静かに首を振った。それに俺は正直戸惑った。それに聞こえてきた単語も、予想外だった。

「世界の、狭間?」

 だからこそ、オウム返しに問いかけた。

≪はい。幾星霜に存在する、近いようで遠い数多の世界。人間の言葉で言えば、パラレルワールドでしょうか。無数のパラレルワールドの狭間。それがここです≫

「成程。……でも、どうして俺はこんな場所に?」


≪あなたは、死の間際に犬を助けたのを覚えていますか?≫

「はい」

≪あなたが転生をする理由はその行為です。命を助けた褒美、と言えばよいでしょうか≫

「え?」


 まさかの事に耳を疑った。俺もラノベはまぁまぁ読むから、事故や事件から誰かを庇って転生ってのはよくあったけど、まさか犬を助けて転生だなんて。正直、『何で?』って感じだった。


「まさか、それだけで転生できるんですか?」

≪犬を助けただけで?と言いたいのですか?≫

「はい。本当にそれだけで転生できるんですか?」

 俺が問いかけると、女神様は息をついて、どこかやれやれと言いたげな表情を浮かべていた。その表情はどこか、愚かな子供をしつける親のような、そんな表情であり更に言えばどこか、人間臭かった。

≪人がどう思っているかは知りませんが。我々神にとってすべての生命の命は、等しく平等です。例え一匹の蟻の命と世界レベルの偉人の命だろうと、それらは私達にとって同列なのです。何が上で、何が下などありません≫


「そう、ですよね」

 俺は静かに女神さまの言葉に頷いた。本当なら、何か感じる所なんだろうが、感情が抑制されているせいか、『もっともな言葉だな』以上には、何も感じない。


 と言うか。そこで一つ気になった事があった。

「あの、何で俺は精神に干渉されているんですか?」

≪それは、あなたがパニックになるのを抑えるためです。自らの死を認識してしまえば、家族との別離から泣き叫ぶ者や怒り狂う者などもいますから≫

「確かに」

≪そしてこれから話し合うためにも、あなたには落ち着いていて欲しかった。そう言う事です≫

「話し合い、ですか?何について?」


≪あなたは、一つの命を助けて転生する事になりました。ですから私、女神から何か一つだけ、贈り物を挙げましょう≫

「贈り物、ですか?それは、何でも良いんですか?」

≪えぇ。多種多様な能力でも構いません。或いは超常の武器や防具。望むものを1つだけ与えましょう。さぁ、あなたは何を望みますか?≫


 そう言ってにっこりと笑みを浮かべる女神様。


 俺の欲しい物、か。俺はしばし考えた。……しかし、こんな状況で精神に干渉されているせいか、本当なら飛んで喜ぶような状況なのに、やっぱりどこか他人事に考えてしまう。


 すると……。

≪あぁ。感情を抑制したままでしたね。これでは真に欲しい物を選べない事がありますし、一時的に抑制を解除します≫

「え?」

 俺が首を傾げた直後、パチンッと女神様が指を鳴らした。次の瞬間。



「ッ!?」

 わ、分かる……っ!自分の中から感情が噴き出してくるっ!喜びと戸惑い、興奮が、一気に噴き出してくるっ!

「うっ!」


 突然の事に俺は思わず、声を漏らしてしまう。

≪あなたに掛けていた精神干渉の一部を解除しました。出来るだけ冷静さを保ってもらうため、恐怖心や悲しみと言った感情は今もセーブしていますが≫


「ハァ、ハァ、ハァッ。そ、そう、ですか」

 感情が溢れた事で、正直戸惑っていた。いきなりの事で今もパニック寸前だよ全く。ハァ、しかし。どうしたもんか。転生、転生ねぇ。俺は改めて現状を考えてみた。俺は死んで、結果的に転生する事になった。しかも特典付きで。……しかしいきなりすぎて良いアイデアが思いつかない。う~ん。って言うか今の状況じゃ何も判断材料が無いなぁ。ここはひとつ、聞いてみますか。


「あの、女神様。質問って大丈夫ですか?」

≪えぇ。どうぞ?≫

「俺が転生する事になる世界って、どんな感じなんですか?文明基準って言うか、どんな危険があるのか、とか。分かる範囲で教えて欲しいんですが」


≪分かりました≫

 そう言って、女神様が片手を掲げた。するとその手の上に光球が現れた。現れた光球がひとりでに動き出し、俺の前までやってくる。

「おぉっ!」

 如何にもファンタジーっぽいそれに驚いていると、その光球の中に、どこかの自然あふれる景色が映し出された。


 もしかしてこれが、俺が転生する世界なのか?

≪その世界の技術レベルは、あなたの前世の世界風に言えば中世と同程度です。しかしその世界には、そちら側には無い魔法が存在します。それゆえに、所々の技術レベルはそちら側にも匹敵しています≫

 と、女神様の説明を聞きながらも光球の映像に見入っていた俺。


 映像では、中世レベルらしい町並みが広がる城下町。広大な草原の中を横切る道の上を走る馬車。冒険者ギルドらしき建物の中で、冒険者たちが談笑する姿。人々が農作業に従事する姿。どこかの王城を歩く王族らしき姿が映し出された。


 それは、まごう事無きファンタジー世界。それが光球の向こうに広がっていた。これから、俺はこの世界に行けるのか……っ!


 俺だって男で、ラノベだって呼んだこともあるっ!だから転生だって聞いて、実感もわいてきたんだっ!嬉しいっ!行ってみたいって気持ちが沸き起こるに決まってるっ!


≪さぁ、あなたは何を望みますか?どのような力でも構いませんよ。例えば、好きな物を生み出す力などでも≫


 ッ。好きな、もの? その時、俺の脳裏に一つの閃きが。文字通り、『ピーンと来たっ!』って奴だ。


「本当に、何でも良いんですか?」

≪えぇ。あなたが望むものを与えましょう≫

 よし。言質は取った。なら俺が望む物は、望む力は一つだっ!


「じゃあ……」


 それは、俺が夢見ていた力。前世じゃ絶対に叶わない夢を実現させてくれる力。それを俺は求めてやるっ!


 俺が欲する力っ!それは……っ!



「俺に、モンスターを生み出す力をくださいっ!」

≪………………え?≫


 ん?あ、あれ?何か思ってた反応と違うんだけど。女神様が何か、文字通り『え?』って顔して、女神様固まってるんだけど。


≪え、え~っと、ごめんなさい。私の聞き間違えではないのかしら。今、モンスターを生み出す力、って言ったのかしら?≫

「は、はいっ!そうですけど、何か問題が」

≪あ~~、えっと。問題じゃないんだけど。あなた、どうしてそんな力を望むのかしら?≫


 何か女神さまの口調が変わって来てる気がするが、ま良いやっ!まずは俺の話を聞いてもらうっ!


「はいっ!実は俺、モンスターが好きなんですよっ!ドラゴンにスライム、ゴブリンッ!ユニコーンにフェンリル、グリフォンにミドガルズオルム、ヨルムンガンド、リヴァイアサン、レヴィアタンッ!それからそれからっ!」

≪わ、分かったっ!分かったからっ!≫

 俺は女神様に止められハッとなったっ!しまったっ!また悪い癖でモンスターたちの名前を言っちまったっ!


≪は~~。変わってるわねぇアンタ。モンスターを生み出したいって。魔王にでもなる気?≫

「い、いえ。そんなつもりは無いんですけど。……って言うか、女神様?」

≪ん?何?≫

「なんか、口調が変わってません?」

≪え?……あっ!≫

 なんか、やばっ!って言いたげな表情のままバッと俺に背を向ける女神様。


≪あ~も~!なんでこうすぐ素に戻っちゃうのかな~私ってば~!≫

 な、何だろう。さっきまでとのギャップが凄いなぁ、女神様。って言うか、素って言ってたからこっちが本来の女神様なんだろうか?


 とか考えていると……。

≪何よ。アンタも私のしゃべり方が女神らしくないって言いたい訳?≫

 もしかしなくても心を読まれたっ!?と、とにかく何か言うべきかなっ!?

「い、いえっ!そんな事は思ってないですよっ!むしろ、何か親しみやすいって言うかっ!」

≪……ホントに?≫

 どこか期待するような目で、女神様は俺を見つめてくる。なんていうか、ホント人間臭いなぁ。まぁ良い意味で、だけど。

「ほ、ホントですよっ!俺は、その方が良いと思いますよ。ホントに、親しみやすいですし」


 俺は思っていた事を正直に話した。すると……。

≪まぁ、良いわ。褒め言葉として受け取っておくから≫


 そう言って、女神様は俺の方に向き直り、少しすっきりしたような笑みを浮かべている。

≪さて、こっからまたキャラ作りしても意味ないし、改めて聞くけど、君の能力はモンスターを生み出す、創造の力で良いのかしら?≫

「はいっ!それでお願いしますっ!」

 俺は満面の笑みで頷いたっ!しかし、何やら怪訝そうな顔で俺を見つめる女神様。


≪あのね、本当に魔王とかになる気はないの?≫

「え?無いですよ」

≪ホントに?魔物生み出せるのに?≫

「当たり前じゃ無いですか。だって俺、普通の高校生ですよ?メンタル普通ですよ?そんな世界中のヘイト買うような役職やってメンタル持つわけ無いじゃないですか」

≪じゃあなんでそんな力を?やっぱり、魔物が好きだから?≫


「魔物、って言うかモンスターが、未知の生物が好きなんですよっ!見た事も無い生き物っ!空想上の生物っ!創造力が生み出す、あらゆる力を持った生物っ!それが、俺は大好きなんですっ!個人的にはSFの機械生命体とかエイリアンも好きですけど、ダントツで好きなのはやっぱりファンタジーのモンスターですねっ!」

≪ふ~ん?変わってるわねぇ君。私も今まで色んな子達を見てきたけど、そんな力を求めた子は初めてだわ。大体が魔法や戦う力を求めてたのに≫

「まぁ好みは人それぞれですからっ!」

 俺はそう言って笑みを浮かべる。


≪あなたを見てるとホント、そう思わされるわよ≫

 対して女神様は苦笑を浮かべている。


≪まぁ良いわ。それがあなたの望みなら、私は叶えるだけだもの。あぁけど、流石に何の対価も無しって訳には行かないから。良い?≫

「対価、ですか?何を対価として払う事になるんです?」


≪それは簡単よ。あなたには他の人間には無い特殊なポイントシステムが付くから≫

「はぁ、ポイント、ですか?」

≪そうよ。このポイントは色んな行動で加算されていく。仕事をしてお給料を貰う。誰かの依頼やお願いをこなしてその人の助けになる。人助けをする。敵と戦う。まぁ、早い話働いてお金を稼いだり、人助けをしていれば自然とポイントがたまるって訳。そして、あなたはそのポイントを消費してモンスターをクリエイト、つまり生み出す訳≫

「はい」


≪そして生み出すモンスターだけど、これは強さに応じて必要なポイントが変動するから、気をつけるように≫

「分かりました」


 ゲームで強い装備なんかを手に入れるのに相当なお金が掛かるってのはありがちだ。それは俺の能力も同じって事だろうな。

≪それで?他に何か聞きたい事はある?≫

「う~ん、能力の詳細も教えて貰ったし、後は……。あっ」


 そう言えばこれも聞いておきたいな。

「あの、俺って前世の記憶を持ったまま新しい人間に生まれ変わる、つまり転生するんですか?それとも今のまま能力を貰って異世界に行く、転移になるんですか?」

≪あぁ、それなら後者の転移よ。あなたは今の格好や姿、記憶を保持したまま、新しい力を貰って転移するの≫

「そうですか。あっ、じゃあ文字の読み書きとかはどうなるんですか?」


≪そこについても大丈夫。転移者は全員、神の加護で言語翻訳の機能が付いてるから。見た事無い文字でも、加護を通して日本語に見えるし、あなたが文字を日本語で書いても、勝手に向こうの文字に変換されるから大丈夫よ。あぁでも、変換や翻訳が出来るのはあの世界の共通言語だけだから、気をつけてね≫

「と、言うと?」

≪あの世界では世界規模で共通言語が使われてるんだけど、未開の土地みたいな場所に暮す原住民が使う独自の言語とかは翻訳対象外なの。まぁ普通の場所で暮す分には支障は無いと思うけど、その辺りは念のため気をつけてね≫

「はい。分かりました」


 さて、これで新たな世界にどう行くのか、どんな世界なのか、言語の事とかも分かった。これで大体聞く事は出来た。あとは……。


≪あら?何かもう、待ちきれないって感じの顔ね?≫

「はいっ!異世界に行ってみたくて、わくわくしてますっ!」

 おっといかん。願望が顔に出ていたようだ。

≪ふふっ、あらそう。なら、早速送ってあげましょうね≫


 女神様が楽しそうに笑いながらそう言うと、直後俺の足元に虹色の魔法陣が現れた。俺は魔法陣の中に吸い込まれていく。


≪あなたの新たな門出よ。向こうはあなたのいた世界よりも危険がいっぱいあるけど、頑張ってね≫

「はいっ!ありがとうございますっ!女神様っ!」


 俺は女神様に向かって感謝の言葉を叫んだ。そして直後、俺の意識は暗転した。




~~~~

「はっ!?」


 俺が次に気づいた時、俺は見た事も無い森の中の開けた場所に立っていた。え?どこここ?周囲を見回すが、人の気配はない?完全に俺1人だ。……え?マジで何この状況?


 若干、『あれこれ詰んでね?』なんて思いながら何か場所の手がかりは無いかと周囲を見回す。出来れば町とか村を見つけたい。しかし、周囲を見回しても人の痕跡は無い。足元にもそれらしい足跡は無い。


「あっ」

 その時気づいたが、俺の今の服装は学校の制服、ブレザータイプの制服だった。って、そうだ。ポケットにスマホ入ってたよな。


 俺はガサゴソとポケットの中に手を突っ込んで何か無いか探す。しかし、ポケットには何も入って無かった。


 はは、こりゃ完全な無一文からのスタートか。しかも場所はどことも知れぬ森の中。う~ん、こりゃ不味い。水や食料、金も無い。……何も無いぞマジでっ!やべぇっ!何か一気に不安になってきたっ!ど、どうしようっ!これからどうしようっ!


 俺が右往左往していたその時。

『ヒラリ』

「ん?」

 何かが近くに落ちてきた。俺は気になってそれを手に取った。落ちてきたそれは、手紙だった。って、なんでこんな所に手紙が?


 不思議に思い裏も見てみる。するとそこには『女神より』と言う文字があった。あ、これ女神様からの手紙か。


 俺は近くの木陰に腰掛けると、手紙を開いて内容を確認してみた。


『女神より転生者の君へ。これを読んでるって事は無事に異世界へ転移出来たようね。これからあなたの冒険が始まる訳だけど、さっき素の私を親しみやすいって言ってくれた事と、面白い願いを聞かせてくれたお礼に、ちょっとした特典を付けておいたわ。一つは最初の1回だけ、どんな強いモンスターでも消費ポイント無しで生み出せる事。もう一つはそれとは別に1万ポイントを付与してある事よ。これで、最低でも2体、君は強いモンスターを生み出せるようになった。これだけあれば並大抵の脅威はどうにかなると思うから。あとは、あなたの創造力次第よ。頑張ってね』


 女神様、そんな特典まで付けてくれたのか。これはマジで感謝しないとな。っと、2枚目もあったな。


『追伸、君の旅は少し面白そうだから、暇つぶしに天界から見させて貰うね。それじゃあ元気で』

「へっ!?」

 ちょっ!?み、見るって俺の旅をっ!?


 俺はバッと空を見上げた。まさか、この空の向こうから女神様が見てるってのか?はは、神様も、案外暇してるのかなぁ。


 なんて俺は苦笑を浮かべるのだった。


 やがて、俺が手紙を読み終わると手紙は1人でに消滅した。

 

 さて、と。


 俺は改めて現状確認をした。今の俺は金無し、家無し、飯無し、3つの無しが揃った案外、いやかなりヤバい状況だ。今の俺にあるのはこの服と女神様から貰ったチート能力だけだ。


 しかし、今では自分の力になってるチート能力。おかげで細かい説明を受けてないが、使い方が何となくだが分かる。


 さて、今現在必要なのはお金と飯だな。これを確保するためには人里を探さないと。とは言え歩いて探すのは絶対時間が掛かる。


 ここは、俺を乗せて移動出来る奴が必要だ。


 って事で、早速使うぜチート能力っ!女神様から貰った力、≪混沌の創造主ケイオス・クリエイター≫の力をなっ!


「………えっと、≪ツールオープン≫」


 俺が起動ワードを口にすると、正面の空中にホログラムみたいなディスプレイが表示される。ディスプレイには、『モンスターの特徴などを音声コマンドで入力して下さい』って書いてある。


 さて、ここからは俺の初クリエイトの時間だ。今俺に必要なのは、俺を乗せて移動出来る機動力と大きさ。それにいきなりヤバい敵とぶつかる事を考えると、強い奴が良いよなぁ。


 そう考え、俺はすぐさま神話系モンスターの名前と姿を頭の中にリストアップしていく。それから考える事数分っ!よしっ!決定っ!『あれ』をベースにしようっ!ってなった。


 俺は早速、音声で生み出すモンスターの特徴や能力、ステータスを入力していく。最初はポイント消費無しって事だし、やっぱり性能は可能な限り盛る。力も、早さも。思いつく限りの強さを、『この子』に。


 そして更に……。

『スキルを登録されますか?』

 ある程度の設定を終えると、最後にその一文が現れた。その一文を目にした俺は楽しさからニヤリと思わず笑みを浮かべた。


『スキル』。


 それは俺が生み出すモンスターに一つだけ与えられる特殊な力だ。ただし、このスキルの有無もモンスターをクリエイトした時に消費するポイントの差となる。


 強力でスキル持ちともなればかなりの量のポイントを消費するだろう。ただ幸い、今回はポイントを気にしなくて済むし、どうするかな。


 そうやってしばらく考え込んだ後。

「よしっ!決めたっ!スキルを設定っ!スキル名は神の眼と書いて『神眼』っ!あらゆる敵の力と嘘を見抜く力でっ!」

『了解。スキル、神眼を設定しました。……以上で各種設定を終了します。モンスターを顕現させますか?』


「ッ!」

 その問いかけは、俺の心をわくわくさせる物だった。俺が初めて生み出したモンスター。それが今正に生まれるって事だっ!これを興奮するなってのは無理な話だっ!


「はいっ!」

 だからこそ俺は元気よく頷いた。

『では、モンスターの顕現を開始します』

 

 その文字が出て、ディスプレイが消えると、俺の前に虹色の魔法陣が現れた。そして魔法陣の中から、光の粒子が溢れ出す。粒子がやがて集まりだし、一つの形を作っていく。


 一つの光はやがて四つ足の生き物の形となる。俺の倍以上はある巨体。新たな命が、俺の相棒が、今正に生まれようとしていた。それが嬉しすぎて、俺は初めての相棒の名を叫んだ。


「『フェンリル』ッ!」


 次の瞬間、形を為していた光がより一層強い光を放ったっ!眩しいっ!?余りの光量に、俺は思わず右腕で顔を庇った。


「う、うぅ、ど、どうなった?」


 俺は光量が収まると、数回瞬きをしてから視線を戻した。


「あっ」


 そして、目の前にいる神秘的な生き物に驚いて思わず、声を漏らしてしまった。



 純白という言葉が相応しい真っ白な毛並み。俺の3倍はある巨体。長い尻尾。しっかりと大地を踏みしめる4本の足。口元から覗く大きな牙と手足の爪。


「お、おぉっ!」


 それこそが、俺の世界の、北欧神話の獣、邪神が生んだ、神をも殺した狼。その名を、『フェンリル』。紛う事なき神たりえる獣っ!


 そのフェンリルをベースに、俺は、今目の前にいるフェンリルを生み出したっ!フェンリルは本来灰色らしいけど、今回は俺の方で白に変えさせて貰ったっ!


 でも、それが良いっ!


 つぶらな瞳に真っ白な毛並みは、どこか神秘的で、美しかった。


 そのフェンリルが、今正に俺を見つめている。


「お、俺が分かるか?俺は、お前の親、パパ(?)だよ?」

 何か変な事を口走った気がするが、気にしないっ!俺は少しずつフェンリルに歩み寄っていく。ゆっくりと右手を伸ばす。一瞬、不安がよぎった。フェンリルは神獣。如何に俺が今正に『混沌の創造主』で生み出したとは言え、俺を親や仲間と認めてくれるだろうか?


 一瞬そんな不安がよぎった。だが……。


『クゥゥゥゥンッ』

「お、おぉっ!」

 何とフェンリルが俺の手に顔を擦りつけてきたではないかっ!!


 あぁ、白い毛並みはモフモフッ!まるで最高級の枕のようだっ!それに温かいっ!あぁ、これこそ正に命の温かさっ!これを自分が生み出したのかって考えて、更にびっくりするっ!なにより嬉しいっ!


『ワンッ!』

 あ~~!しかも鳴き声も可愛い~~~~!

『ペロペロッ!』

 そして俺の手舐めてる~~~!!!あ~~~~!もう可愛い可愛い~~~!


 それから数分後。俺とフェンリルは森の一角にある原っぱの上に腰を下ろして話始めた。さっきの設定で、フェンリルには人の言葉を理解するだけの知性を与えている。……しかしスフィンクスみたいな態勢で座ってるのに、尻尾がパタパタしてて可愛いなぁもうっ!


 っと、いかんいかん。まずは話し合い、って言うかお互いの立場の確認だ。

「えっと、じゃあ改めて。俺が君のパパで、仲間、相棒な訳だけど、分かる?」

『コクン』

 頷くフェンリル。どうやら知識とか知性とかは大丈夫みたいだ。


 個人的には俺とフェンリルは対等のつもりだ。確かに俺は創造主で、フェンリルは被造物だ。しかし俺としては、フェンリルは仲間や家族、パートナー、相棒のようなもの。一方的に命令するつもりは無い。


 ……って言うかそもそもこんな可愛いフェンリルに無理難題や酷い事が出来る訳がないっ!だって俺の子(?)だもんっ!


「それじゃあフェンリルッ!これから俺達は一緒に旅をする仲間だっ!よろしくっ!」

『ワンッ!!』

『ペロペロッ!』

 あぁ、フェンリルが俺の顔を舐めてるっ!やっぱり可愛いなぁもうっ!


 と、思って居ると……。


『グゥゥ~~~』


 俺の腹が、腹減ったと自己主張してる。あぁ、そういや女神様に会ったのが夕飯前だったから、すっかり腹減ったなぁ。


 そう、思った時。ふと思った。


 前世の俺の家族は、今どうしているだろう、と。


 前世で、俺は犬を庇って死んだ。両親は、死んだ俺を前にしてどんな表情をしてくれるだろうか。泣いてくれるだろうか。泣きながら、俺をバカだって罵るのだろうか。


 ……もう、両親には会えないのか。


「ッ!!!!うっ、くぅっ」


 そう思った瞬間、きっと女神様にセーブされていたのだろう悲しみが溢れてきた。止めどない涙が頬を伝う。四肢の力が抜け、その場に膝を突いた。そうだ、もう、家族には会えないんだっ……!友達にもっ!家にも帰れないっ!痛い、心が痛いっ!悲しみで胸が張り裂けそうだっ!


『クゥゥンッ』


 すると、フェンリルが俺の傍にやってきて、泣いている俺の頬を優しく舐めてくれた。きっと、俺を心配してくれてるんだ。その優しさが今は温かくて、そして心に刺さった。


「ありがとうな、フェンリル。俺は大丈夫、だから。……でも、今は少し、少しだけ、泣きたいんだ。くっ、うっ!」



 それからしばらく、俺は嗚咽を漏らした。そして俺が現実を受け入れるまで、フェンリルはずっと俺の傍にいてくれた。



 それから数十分ほどして、俺はようやく現実を受け入れる事ができた。気分を変える意味でも、俺は自分の頬を叩き制服の袖で涙を拭った。


「よしっ!」

 涙は十分流した。家族との死別は辛い現実だけど、今はとにかく心に区切りをつける。出ないと心が持たないかもしれないから。もう大丈夫だ。俺は膝に手を当てて立ち上がった。

『クゥゥンックゥゥンッ!!』

 傍に寄ってきて、俺に顔を擦りつけるフェンリル。


「ごめんな心配させちゃって。もう大丈夫だよ」

 俺はそう言ってフェンリルの頭や顎を撫でる。すると……。


『グゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!』


 泣いて更にカロリーを消費したせいか、さっきよりも強く腹が自己主張してくる。こんな状況だってのに馬鹿正直な自分の腹に笑いたくなるが、確かに腹が減ったな。こりゃ急いで飯を探さないと。


「かといって周囲に食えそうな物は無いし。仕方無い。移動するか」

『ワンッ』

 すると、フェンリルが俺の傍でしゃがんだ。もしかして……。


「乗って良いのか?」

『ワォンッ!』

 いいよ、と言わんばかりに声を上げるフェンリル。はは、まさか神獣に跨がることの出来る日が来るとはな。


 俺は少し驚きながらもフェンリルの背中に跨がった。すると、『どこへ行くの?』と言わんばかりにフェンリルが俺の方を見つめてくる。あ~~行き先か~。


「う~ん、お?」

 改めて周囲を見回す俺。すると、近くに山が見えた。山かぁ。あの上に昇ったら周囲も見渡せるだろうし、行ってみるかっ!


「フェンリルッ!とりあえず、あの山を登ってくれっ!俺を乗せながらだけど、行けるか?」

『ワフッ!』

 任せて、と言わんばかりに鳴くフェンリル。次の瞬間、フェンリルは走り出した。

「おっとっ!?」

 あまりの速度に、俺は咄嗟にフェンリルの体にしがみついた。


 フェンリルは文字通り、飛ぶような勢いで森の中を駆け抜けていく。自分が通れるサイズのルートを瞬時に割り出し、凄まじい速さで駆け抜けていくっ!自分がそういう風に生み出した存在とは言え、ここまで逞しい姿を見せてくれるなんて……っ!お父さん(?)感激であるっ!



 やがて、10分も掛からずに山の頂上近くまでやってきた俺とフェンリル。俺はそこから周囲を見渡す。

「え~っと、町や村は~。おっ、見えたっ!」

 かなり距離があるためうっすらとだが、遠方に町らしき物が見える。

『コツンッ』

『ワフッ!』

 すると、後ろからフェンリルの鼻先で方を小突かれた。

「ん?どうしたフェンリル?」

 俺は疑問に思って振り返った。すると、フェンリルは反対側を見つめている。ん?何だ?と思って俺はフェンリルの視線の先を追った。


「おっ?あっちには村があるのか」

 山を挟んで町とは反対方向。見ると山を下って少しの所に村らしきものが見えた。


 さて、こっからどうするかな?距離的には村が近い。規模で言えば町の方かな。しかし、俺の腹はさっきから『お腹が空いた』と激しい自己主張を繰り返している。こりゃ、町より村の方が近いし、こっちで良いか。幸い、町の大まかな方角は分かってるし。


「よしっ、フェンリル。村の方へ降りてみよう。また乗せてくれっ」

『ワフッ!』


 俺は再びフェンリルに跨がった。村の方へと山を下っていくフェンリル。しかし、俺はフェンリルに乗ってるから楽だが、こりゃ随分と険しい山道だ。前世の山岳装備無しに人が踏破するのは無茶だろうなぁ。


 なんて思いながらフェンリルの背で揺られていると……。


「きゃぁぁぁぁ……っ!」

「ッ!?止まれフェンリルッ!」


 突如として聞こえた声っ!しかも悲鳴だっ!俺は咄嗟にフェンリルに止まるように指示をした。足を止め周囲を見回すフェンリル。俺も聞き耳を立てる。すると……。


「い、いやぁ……っ!来ないで……っ!」

「また聞こえたっ!」

 しかも、声からして多分女の子っ!それに悲鳴からして、絶対禄な状況じゃなさそうだっ!となりゃぁ、男としては助けるしか無いよなっ!幸い今の俺にはフェンリルだっているっ!


「フェンリルッ、今の悲鳴の出所、分かるかっ!」

『ヴォフッ!!』

 どうやらフェンリルも戦う気満々のようだっ!声が力強く、先ほどまでの柔和な表情は消え戦闘態勢を表すように、険しい表情を浮かべている。

「よしっ!じゃあ出所の方へ急げっ!悲鳴の主を助けるぞっ!」

『ウォンッ!!!』


 直後、フェンリルが凄まじい速度で走り出した。俺は振り落とされないように、フェンリルの体にしがみついた。


 そして、駆け抜けること数秒。圧倒的な脚力のフェンリルが瞬く間に俺を悲鳴の主のところまで運んだ。



 場所は山の麓。その開けた場所で予想通り女の子が襲われていた。襲っていたのは……。

「あれって、ゴブリンッ!?」


 ファンタジー世界の定番モンスター、ゴブリンの群れだった。


 チート能力を貰って転移した異世界。そして、その日俺は人生初めての戦闘を経験する事になった。


     第1話 END

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