第18話 ダンジョンのためにパーティーを



「……」


「……」


「わー。このジュースおいしー!」


 ……なんだこの状況。


 クエスト先で会った少女。名をクレアという彼女は、Dランクの冒険者。

 彼女のクエストを手伝った……というか、もうクエスト終わりだった彼女が忙しなかったので、ちょっとサポートした結果、一緒に冒険者ギルドに帰ってくることになり……


 ギルドの前で、彼女の姉と出会う。その姉が、まさかの宿敵クレナイだった。

 俺とクレアはクエスト完了の報告をしてから、はいさよなら……とはならず。妹が世話になったからと、クレナイから食事のお誘いがあったのだ。


「ま、まさかクレアが、クレナイの妹だったとは……」


「えぇ、まあ似てないですから。私はクレアみたいにかわいくないし」


 自分から食事に誘っておいて、無言になるのはやめてほしいな。この場に無邪気なクレアがいなければ、空気死んでたぞ。

 まあクレアがいなければ、そもそも食事に誘われてないだろうが。


 そのクレアは、のんきにジュースを飲んでいる。


「そんなことないと思うけどな。いやまあ、誰かに似てるなーとは思ったけど。それがクレナイだとは」


「……そ、そうですか」


 ……ん? 今の言い方おかしくないか?

 クレナイは、妹みたいに自分はかわいくないと言った。それは、かわいい妹と自分は対称的だという意味。

 しかし、俺はクレアにはクレナイの面影があると言ったわけで……


 あれ、俺今、クレナイのことをクレアに似てかわいい、と言ったのと同じなんじゃあ……?


「ぷはぁ。あれ、二人とも顔赤くないですか?」


「そ、そんなことはないわ」


「そ、そうそう」


 いかんいかん、俺はなにを言っているんだ。

 クレナイは宿敵だ。ただそれだけの存在。変な気を起こすな。


 俺も、注文していたジュースを飲み、喉を潤す。

 うん、なかなか爽やかな味だ。おいしい。やっぱり、ものの味がわかるってのは、いいもんだな。


「それで、改めて……妹を助けていただいて、ありがとうございました」


「ました!」


「だからいいって」


 こうも何度もお礼を言われると、むず痒くてたまらない。それに、助けたって言ったってただ落ちた木の実を拾っただけだ。

 お礼を言われるほどのことじゃあない。


 まさかクレナイに妹がいたとは思わなかったが、素直な良い子だ。同じ低ランク冒険者なら、今後とも出会うこともあるだろうし、それなりに仲良くしておくか……


「あの、お兄さん!」


「レイでいいよ。なに?」


「ではレイ兄さん!」


 ……あんまり変わってない気もするが、クレアがそう呼びたいのなら、拒絶する理由はない、か。


「なに?」


「レイ兄さんは、Eランクの冒険者なんですよね?」


「あ、あぁ」


 この子は素直な良い子だ。だが、いやだからこそか……結構デリケートな部分を、グサグサ聞いてくる。

 俺が冒険者のランクにあまり興味がないからいいが、そうでなければ今のは結構グサッとくる発言だろう。


 それはそれとして、言葉を続けるように促す。


「だったら、私とパーティーを組みませんか!」


「パ……」


 俺の冒険者ランクを確認して、なんのつもりか……と思っていたところ、予想もしていなかった提案を告げられた。

 クエストを受ける際に、パーティーを組む……パーティーを組んでダンジョンに挑んできた冒険者を、俺は何人も見てきた。


 パーティーを組めばそれだけ、できることの幅も広がる……とはいえ。


「クレア、お前はDランクの冒険者だ」


「はい!」


「ランクが上の冒険者は、下のクエストも受けられる。だが、その逆はできない。

 お前の提案は嬉しいが、お前が俺と組んだら、Eランク冒険者用のクエストしか受けられないぞ」


 クレアの提案……いや、申し出か。それは嬉しい。だが、それではクレアがクエストを受けられない。

 クレアは、DランクとEランクのクエストを受けられる。だが、Eランクの俺と組めば、Eランクのクエスト」しか受けられなくなる。


 それはさすがに申し訳ない。なので、本当にそれでいいのか、聞こうとしたのだが……


「……そうか、あなたは初心者も初心者でしたね」


 なぜか二人とも、唖然とした表情を浮かべていて。

 クレナイに至っては、額を押さえて軽くため息さえついていた。なんだと言うんだ。


 訳が分からない中で、クレアが口を開いた。


「レイ兄さん、それは逆ですよ」


「逆?」


「はい。確かに、冒険者は自分のランクよりも高いランクのクエストは受けられません。

 ですが、パーティーを組めば、そのパーティーはパーティーメンバーの中で一番ランクの高い冒険者の、クエストを受けることができるんです」


 クレアはゆっくりと、俺にわかりやすくしようと説明してくれている。

 なるほど、俺の考えていたこととは逆、ってことだったのか。


 俺はてっきり、DランクとEランクの冒険者が組んだらEランクのクエストしか受けられない、と思っていたのだが……

 そうやら、DランクとEランクの冒険者が組んだら、Dランクのクエストも受けられるらしい。


 考えてみれば、そうか。パーティーを組むなら、お互いにメリットがないとな。


「……そうなると、クレアはクレナイともパーティーを組んでいるのか?」


 もしもクレナイとクレアの姉妹が組めば、二人はBランクのクエストを受けられるってことか。

 しかし、クレアの姿は見たことがない。クレナイと組んだことがあるなら、絶対見ているはずなのだが。


「いえ、残念ながら。パーティーを組めるのは一ランク前後した人同士なので、私はお姉ちゃんとパーティーは組めなくて」


 残念さを隠そうともせず、クレアは落胆していた。お姉ちゃんと組んでみたかったのだろう。

 パーティーを組むにも、制限がある、か。極端な話、AランクとEランクの冒険者が組んで、Aランクのクエストに挑むのを防ぐため、だろう。


 そうかぁ、無理かぁ。できれば、俺はクレナイとパーティーを組めば一緒にダンジョンに潜れると思ったんだが。

 クレナイをパーティーを組もうと思ったら、Cランクにはならないといけないのか。


 ……それも、クレナイがランクを上げてしまう前に。


「なるほど。

 ……わかった、その申し出受けるよ」


「! ホントですか!」


「俺にとっても、願ったりだしな」


 なんにせよ、自分のランクよりも高いクエストを受けクリアすれば、経験値も溜まりやすいはずだ。

 さっさとランクを上げたい俺にとって、悪くない話だ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る