月も星

野名紅里

月も星

まふたつに千切る食パン仏桑花

おだやかに守宮を逃がす人である

白玉の昏く明るいくぼみかな

風鈴の重たきものを土産にす

透明な影を落として蠅の翅

誰も星数へ切らざる涼しさよ

骨張つた手が整へるかき氷

重なつて明るさとなる花火かな

愛するひと愛されるひと月も星

横顔が月の白さになつてゐる

切り落とす梨の芯より匂ひけり

露の玉伝はせる葉であるからに

どんぐりがときどき落ちてくるベンチ

その柚子に全部見られてゐるやうな

カンナ咲く駅から映画館までを

焼芋のふくらんでゐる皮の焦げ

冬の蝶とは踊るのをやめた蝶

名の草も名の無き草も枯れ果つる

その影を誰とも知らず虎落笛

退屈な手が絨毯を往き来する

メニュー表の手書きの牡蠣を頼みけり

転がつて蒲団の何処も沈ませて

ゆるやかに結ばれてゐて初神籤

春立ちて牛の涎の泡細か

風船の光のときと影のとき

貝寄風や引いて解体するリボン

凡庸な躑躅といへばさうだけど

三月の真先に暮るる美術館

独唱の男の眉や流氷期

デージーが終はりの中で始まりたい

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月も星 野名紅里 @nonaakari0128

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