後日談1『クリスマス大作戦1』

 


 ~12月20日いつものファミレスにて~



 ドリンクバーのみで粘ること早8時間。

 もういい加減退店を勧められて可笑しくない頃だ。

 店員達がこちらを見ながら、何やらヒソヒソと喋っている姿ももう見飽きた。


『あの席の童貞共、いつまでいるんだろうね~』


『席がイカ臭くなるからもう帰れよ、キモいわ~~』


『ドリンクバーしか頼みやがんねぇし。何でてめぇらのションベン生成に一役買わなきゃいけないんだよ』


『でも一人はイケメンじゃない?』


『……うわ、ホントだ! 格好いい!! イケメン万歳!!』





「……阿久津。そのアホみたいなアフレコ止めろ」


 しかも俺の耳に口を近づけて……。

 最悪の気分だ。


「だって、アイツらずっと太一しか見てねぇんだよ!! クソがっ! 俺も見ろ!!!」


 バーンと両腕を広げ謎のポージングを決める阿久津。

 それを見て更に眉根を寄せる店員さん達。

 あの……もう本当に止めて。


「だってさ……、もう勉強飽きた……。やりたくねー!!」


「オマエがファミレスで勉強したいとかぬかしやがるから、こうして付き合ってやってんだろ!?」


「嫌だ!! もう勉強自体飽きた!! おい、佐々木教えろ!! 約分って何だ!!!?」


 それが分かんないようじゃもう勉強している意味ねーだろ。

 チンパンジーに手話教えてたほうが有意義な時間になりそう。


「……」


 ガン無視を決め込み、俺は再度参考書へと向き直った。

 内容を把握するために問題文を目で追う。

 でも……。

 集中できん。



 文字が横滑りしているようだ。

 全然頭の中に入ってこない。


 それもこれも、今俺が抱えているのせい。


「……ところでさ、佐々木」


「んだよ」


 そう言う太一のペンは未だに動いたまま。

 二つのことが同時にできる奴って羨ましいよね!!


「クリスマス、と一緒に過ごすのか?」


「ブーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」


 飲み物を飲みながら聞くんじゃなかったと酷く後悔。

 コイツ……急に何を言いやがんだ!?


「そりゃお前、初めてのクリスマスだろ?」


「……そうだけど」


 急に体感温度が十度ぐらい上昇したような気がする。

 何かもう……熱いなぁ!! 熱い熱い!!!


「お前、デートか!? 受験生のくせに!!? バーカ!!! 落ちろ落ちろ!!!!!」


 目の前で騒いでいる猿一匹を華麗に無視し、太一へと向き直った。


「誘われたことは誘われたし。それはもちろんokした。でも……」



 そう。

 それが最近俺を悩ます悩みに他ならない。






「「……何をすればいいのか分からない?」」



 阿久津も太一もアホのような顔をしている。

 俺だってこんな小学生みたいなことを言いたくはなかった。

 でもさ。


「俺ののことを考えてみてくれよ」


「……あー、あれも丁度一年前くらいか」


「今考えたら凄い経験だな」


 今、呑気に話題に出せているのが奇跡に思えるような、そんな壮絶な体験。

 去年の今頃。

 クリスマスこそ近かったものの、それどころじゃなかったからなぁ……。


「……女子と遊びに行くのが怖いっつーか、何つーか」


 極端な話、女性恐怖症的な……そんな感じになってしまっていた。


「七海だったら流石に大丈夫だろ? 今更二人で遊びに行くくらい」


「女子と二人で遊びに行くっていうのが、既にアウトっぽいんだよ」


 考えるだけで、何か……こう。

 モゾモゾしてくるし……。

 得体の知れない恐怖感のようなものが込み上がってくる。


「それはお前、考えすぎだろ……」



「じゃあ、俺らで佐々木のデートプランを考えてやろうぜ」


「おっ、それいいな!!! 佐々木には普段世話になってるしな」


 何か、話が変な方向に……。

 いや一緒に考えてくれるならありがたいけど……。


「クリスマスまであと四日……。あれ、クリスマスイブ?に会う?」


「その予定だけど……」


「じゃあ、一日に一人ずつだな」



 ……いや、何が?







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