第47話 逆襲 肆
ゴロン、と蒼汰の体が横たわった。
荒い呼吸。
喉を絞って息を吸い、吐いているような、そんな息づかい。
もう既に抗う気力は無いのか、目線はどこを見ているのか分からないほど虚ろ。
いい加減バットを降るのにも疲れた。
ーーーーーーこんなことに快楽を見出す奴の気が知れない。
「佐々木、大丈夫?」
七海を介抱していた雅が、心配そうに俺の方を見ていた。
この計画の最終的な行く末まで、雅たちには共有している。
今更、心配に思うことなんて無いと思うけど.....。
「全然、大丈夫。.....そんなにしんどそうに見えた?」
「だって、ガラじゃないじゃん。こんなの.........」
「.........」
辺りを見ると、自分の行いを否が応でも思い知らされる。
散らばった髪の毛や注射器。
飛び散った血痕。
そして俺の手には殴った衝撃で変形したバット。
「.....確かに」
こんなのはこれまで阿久津の仕事だったけど。
今回ばかりは、俺が手を汚さなければならなかった。
まぁ、奴なら荒事も二つ返事で引き受けてはくれそうだが、そ・こ・ま・で・巻き込んでしまうのも気が引けた。
「うぅ.........」
「.......!」
不意に。
精神的にも身体的にもダメージを負ったはずの陽菜から呻き声が聞こえた。
「...ろす.......、ぜっ.....、ぬのは.....」
初めは何を言っているのかは分からなかったけど、次第に意味を持った言葉の羅列になっていく。
「お前ら.....、だ。こんなこと.....して、タダで済むと.....思う.....な」
「.........」
「そうだ。パパに頼めば死刑だ、死刑」
瞳に力が戻ってくる。
「お前らだけが罰を受けろ、クソが.....! 私にこんなことして、悠々と生きていけると思うな!!」
ギリィッと言う歯ぎしり。
偽り、恐れ、虚飾、憂い。
塚原陽菜と言う人間を構成する全ての要素が、その瞳には込められていた。
.........その精神力には脱帽する。
この後に及んで、まだこの女は『自分は負けていない』と言いたいんだ。
父親という希望にすがり、まだ俺らに罰を求めようとしている。
では。
その希望さえも、打ち砕いたら。
ーーーーーーこの女はどんな反応をするのだろう?
「ざまぁみろ、クソ童貞が! 死んで償え!!!」
足元で何か吠えているが、別段気にする必要も無い。
そんなことよりも.....。
制服の袖を捲り、腕時計で時間を確認した。
「.....もう少しで7時」
「このまま生きていけると思うな!! 死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!」
「.........」
「死ねよ! お前なんかが生きていいわけがない...! 死んで償えよ!!!!」
唾を飛ばしながらまくし立てる姿には、かつての学園のマドンナの面影はない。
思い返せば、散々な目にあった。
.......こんなクソ女でも、俺の初めての彼女だったんだよな。
「.......」
耳をすまして見ると、小屋の外が騒がしい。
太一もどうやら上手くやったようだ。
「っ!!」
小屋の扉が開き、外から光が差し込んでくる。
暗かった室内が急激に照らされ、その場にいた全員が固まる。
ーーーーーーーーーーーー長かった復讐が、終わろうとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます