第9話 バイオレンス

 






 校舎裏。

 薄暗く普段であればだれも寄り付かない、そんな人気のない場所に俺たちはいた。

 正しくは、阿久津とクラスの馬鹿4人、そして草の影に俺がいるというこの状況。



「おい、チビ。お前から殴らせてやるよ」


 あ、それヤバイ。

 相手が普通の中学生であればまだ舐めプで通じる。

 しかし…………。


「亮、それ優しすぎだろ~」


「まぁ、一発くらいはサービ」


 転瞬。





 めこっ



 鈍い音が辺りに響く。


 時間がスローになった感覚。


 曲がりなりにも阿部亮という男は、高校生。

 成人男性くらいの体格くらいはある。


 その体が宙に浮いた――――――――。



 後方に大きく吹き飛ばされて、地面に倒れこむ。

 何が起こったのか、自分が殴られたのかも理解していない様子。

 それもそうだ。

 一瞬のことだった…………。



「あっあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!!」




 顔面押さえてうずくまる……阿部亮。

 これはさすがに同情案件だな。




「こいつっ!!!」


「何しやがるんだよ!!」


 葵、健太が殴りかかる。

 格下だと思ってい奴の思わぬ反撃に逆上しているのか、思いっきり拳を振るう。

 しかし。

 相手はあのだ。



 拳は無情にも空を切り、態勢を崩すモブB。

 顔が見えないのでここからは略称。



 ばこっ



 またまた鈍い音。

 腹部を抑えながらうずくまるモブB。


「お前ら、こんなんでよくイキれるな。クソ雑魚じゃねぇか」


 阿久津の突きがモブCの顎を捉えた。

 平衡感覚を失ったのか、グラリと大きく揺れる体。

 それを見逃す阿久津じゃない。

 ブレザーの制服をおもむろに掴み。

 あんな小さな体のどこにそんな力があるのかと疑うほどの力強さで、モブCを捉え、そして――――。

 一本背負い。

 古き日本の伝統であり、柔術の最高峰。

 もはや芸術といってもいいほど綺麗に決まった。


「ひっ、ひいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」


 うわ。

 リアルで「ひいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」って言う奴って本当にいるんだ。


 思わずその場から逃げ出すそぶりを見せるモブD。

 間髪入れずその背中に飛び膝蹴りが入る。

 阿久津のマウントポジションだ。


「電話のっ、相手はっ、お前らかって、聞いてんだよっ」


「あ…が…あ……」


 ドスッドスッと規則的に顔に食い込む拳。

 阿久津の手も次第に血やら様々な体液で汚れていく。

 体が痙攣し、その痛みはうかがい知れない。

 周りでその様子を見てた二人は、もう………引いていた。

 先ほどの威勢も何もかもが、目の前の蹂躙劇に飲み込まれている。



「あぁ、もうめんどくせぇ!!! 皆殺しじゃああ!!!!!」



 空を裂く健脚。

 それが捉えるはモブA、モブB。


「がっ!! ちょ、っもう…………」


「ふざけんな! あんな舐めた電話よこしやがって……よぉ!!」


「もう本当に………やめ………」


 衝撃と共に、背後に大きく吹きとばされるモブA。

 顔面が大きくゆがみ、痛さで地面にのたうち回っている。


「うるせぇ!! てめぇらが元凶だろうが!!!!」


 すいません。

 元凶は俺です。


 しかし………。

 阿久津の野郎、マジで加減とかしないのな。

 フラフラの相手をよくあそこまでボコれるな。

 当の四人はすでに戦意喪失し、いかにして逃げるかを考えているだろう。


 強者による一方的な殺戮。

 まぁ、別に死んではいないけど。

 四人とも顔面は等しく腫れて、歪み、涙やらよだれやら、判別がつかない。

 そんな状態でも振り下ろされる拳、蹴り。

 純粋なまでの暴力を俺は目の当たりにしていた。





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