ラブカの姫

不可解な鱶

1章

友好戦略その1

「おかえり〜、今日も疲れているみたいだね」

「これは好都合、僕の実験台、もとい人を癒すための練習相手になっておくれよ」

「安心して〜。深海の王国『鱶界シャーカニア』を治めるサメたちの王が娘、ラブカの姫が擬人化した姿であるこの『深乃ライカ』が、人類との友好を結ぶ為の練習なんだ。僕を居候させてくれた君ごときの疲れくらいあっというまに吹き飛ぶよ」

「何故いきなり説明口調なのかって?そんなのはこの複雑なシチュエーションを、作品を聴いている皆様に理解して貰うために決まっているじゃないか」

「メタ発言禁止ぃ?そんなこと言うなよ。僕の存在意義を問い糺す気か?」

「僕は今日も今日とてインターネットの海を泳ぐという大仕事を終えたところだけど、僕はサメだからね。波に揉まれるのは慣れているんだ」

「『深乃ライカ』名義でTwitterを始めてみたんだ。これで広報活動とかをしようと思うから、君もフォローしてくれよ」

「Vtuberも面白そうだね。僕もやってみたら人気者になれるかな?」

「それはともかく、さあさぁ座って。調べたことを試す意味合いでも、疲れた君を元気にしたいんだ。勘違いしないでね、君のことを労うつもりは別にないよ。あくまで練習だよ練習」


「ネットに書いてあった情報によると、疲れた身体を癒すには良質な食事と睡眠が必要みたい」

「というわけで僕が君のために料理を作ってあげたんだ」

「なんだいその顔は。あ〜そうか僕が作った最初の料理を思い出しているんだね」

「生の魚やイカをぶつ切りにしたものを料理と言い張る僕に、君はドン引きしていたね」

「深海にいた頃は料理なんて概念もなかったからね。むしろ包丁で切って食べやすくしてあげたのに〜と思って憤慨していたものだよ」

「今思えばあれは酷かったね。サメの常識は人間の非常識、シャーカニアの友好大使である僕にとっては致命的なミスだよ」

「でも心配しないで、僕も勉強したんだ。ちゃんとレシピを見て作ったから、それなりに美味しくできたはずだよ」

「じゃ〜ん、見た目は悪くないだろう」

「うん?このばんそうこうかい?えっと、これはその、そう!包丁で食材を切っているときに誤って指を切ってしまったんだ。心配しないで、そんなに傷は深くないから」

「大変だったよ。食材を切って〜、炒めて〜、煮込んで〜、味付けをして〜。君たちはこんなことをいつもやっているのかい?凝り性だなぁ」

「味もちゃんとしているはずだよ?はい、あ〜ん」

「これかい?こうして食べさせてあげれば喜ばれると、ネットに書いてあったんだ」

「とにかくはい、味はどうかな?」

「美味しい!?良かった〜。隠し味は・・・、内緒だよ。いっぱいあるからどんどん食べて」

「あ〜ん、と見せかけて〜ぱくっ、もぐもぐ」

「ははっ、口を開けて間抜けな顔をしているね」

「今度は意地悪しないで食べさせてあげるよ、あ〜ん」

「あっ口元に食べかすがついているよ、取ってあげようか」

「動かないで〜、取れた。ペロッ」

「ふふ、どうだい?僕の手練手管で君からの好感度は爆上がりだ」

「なんだよその反応は〜。もしかして直接舐めて欲しかったのかい?」

「それはちょっと恥ずかしいかな。でも君がして欲しいのなら」

「違うのかい?むぅ〜、人間は難しいなぁ」

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