第38話 古川さんとすき焼き

 調理の間、古川さんには休息してもらう。そういうわけで私は、二人の妹たちと遊ぶことにした。

 

「ねえねえ、これやろーよおにーさん。パパが買ってきたんだけど全然できなくてねー」


 古川三姉妹の次女が何かを持ってくる。

 それは、昔のテレビゲームから名作ソフトを集めて復刻した、リメイク機だった。


 私はそのゲーム機に異様な懐かしさを感じる。無理もない。

 前世も含めると、私の中身の年齢はだいたい四十代後半なのだ。そういう意味で古川さんのお父さんとは、おそらく同世代。このゲーム機はリメイク版ではなく現役のときにプレイした記憶がある。


「ええっと……いいよ。それをやろう」

「やったー! おにーさんありがとう!」

「あのね、一応私、『おねーさん』なんだけど……」

「そーなの!? おねーさんかっこいいね。おにーさんみたい」「うんうん」

「あははは……」


 私は苦笑いする。とりあえず見た目でビビられていなくてよかった。


 妹さんたちはいろいろなことに興味があるお年頃。

 少しだけ年上のお姉さんの遊ぶことは珍しいので、古川さんの妹たちは尻込みするどころか興味津々だった。

 ビビってオロオロされるのではないかと思っていただけに、この反応はありがたい。


 テレビにゲーム機を繋いでコントローラーを握る。

 私にとっては懐かしいゲームタイトルだけれども、妹さんたちには新鮮なようだった。

 感覚を思い出しながら操作していると、なぜか画面に夢中になっている皆から歓声が上がる。


「……石渡さん? なんだかめちゃくちゃ手慣れていない?」

「そ、そうかな……? たまたまだよ? ははは……」

「こんな昔のゲームなのに、初めてプレイしたとは思えないくらい上手いのだけど? もしかして石渡さん……」


 不思議がる古川さんに怪訝な顔を向けられ、私は冷や汗をかいた。

 転生した人間であることがバレてしまうかもしれない。


 しかし、次に続く言葉で安心する。


「……レトロゲームマニアなの?」

「ま、まあそこそこ好きかもしれないけど……、違うよ? でも、BGMは結構好きかも」

「ふーん。でも、確かにこういうレトロゲームってゲームミュージックが作り込まれているわよね。私でも聴いたことあるくらいだし」

「そ、そうだね。ははは……」


 とりあえずごまかせたようで安心した。ここ最近、愛想笑いが多くなっている気がしないでもないけど考えないでおこう。

 妹さんたちもレトロゲームを楽しんでくれているみたいだし、作戦成功だ。


「ハーイみなさん。お食事の準備ができましたヨ」


 しばらくして来瑠々ちゃんが皆を呼びつける。

 テーブルの中央には、グツグツに煮えた鍋があった。――すき焼きだ。


 なかなか豪勢な食卓を目にする機会がないのか、古川さんが少し引いているように見える。


「我が家では皆が集まってワイワイするときはすき焼きと決まっているのデス」

「……意外と和風なのね、マグワイアさんちって」

「むう……、私のことは来瑠々と呼んでほしいデス」

「ご、ごめんなさい……、忘れていたわ」


 古川シスターズが「そんなことより早く食べよーよ」と急かすので、すぐにゲームを切り上げてディナータイムになった。

 来瑠々ちゃんパワーで桁の違う値段のお肉を購入したこともあって、まるで正月かのような団らん具合である。


 食事を終えて、私は後片付けのためキッチンに立つ。

 来瑠々ちゃんはシスターズと一緒にお風呂に入ると言っていなくなってしまったので、ダイニングテーブルには古川さんと雫ちゃんの二人になった。


 食器をゴシゴシと洗いながら、キッチン越しに私は二人を見守る。

 今日のイベントはここからが本番と言ってもいい。

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