第2話 ミユキとシズカ ◇前世
◇回想
私の前世――ミユキの仕事というのは、実はミュージシャンだった。
四人組のガールズロックバンドでギターを担当していて、メジャーデビューも経験する程度には売れていた。
ボーカルギター担当のシズカとは、バンドの中で一番仲が良かったと思う。学生の頃、好きな音楽が似ていて意気投合し、楽器を始めてバンドを組んだところからずっと一緒の仲だった。
音楽に対して真摯で、不器用だけど優しくて真面目で、親友でありながら尊敬できる、私のあこがれのような存在。それがシズカだった。
ある日、シズカから相談を受けた。
その相談内容は音楽やバンドのことではなく、シズカの個人的なことだったので驚いたのを覚えている。
「あのねミユキ、ちょっと相談いいかな……?」
「どうしたの? そんなにかしこまっちゃって。珍しいね」
「すんごく言いにくくて誰に相談したらいいかわからなくなっちゃって……、ミユキなら大丈夫かなって……」
「ええっ、シズカがそんなふうに言うなんてただごとじゃないでしょ。もしかして借金でも作っちゃった? それとも、バンド辞めたい?」
「ち、違うの。もっとその……、個人的というか……、女としてというか……、そういう相談……」
シズカはもじもじと恥ずかしそうにしていた。
普段のライブではステージ上で堂々と振る舞うので、こんなに自信なさそうにしている彼女を見て私はある程度相談内容に感づいた。
「じ、実はね……、されちゃったんだ。こ……、告白」
「ええっ!? 誰に誰に!? イケメン? それともお金持ち?」
学生の頃から音楽の話ばかりで、シズカとは恋バナなどほとんどしたことがなかった。そんな彼女から恋の相談を受けるというのは、なんとも新鮮である。
「ちょっと耳貸して……」
「別に私たち以外に人はいないから、耳打ちなんてしなくていいのに」
「ね、念の為だよっ!」
私はシズカからコソッとその名前を教えてもらった。
相手は有名な男性アーティスト。私たちなんかより全然売れているし実力もある。確か紅白歌合戦の出場も決まっていた。もちろん見た目はカッコいい。ファッション雑誌の表紙を飾っていた記憶もある。
そんな人からシズカは猛アタックを受けているのだという。
「で、でもどうしよう。わ、私そんなに恋愛経験とかないし、相手の人も芸能人だし、そもそもそんなにかわいくないのに……」
「まったく、いつもステージで堂々としているシズカはどこいったんだか。もっと自信持ちなよ、シズカにはちゃんと魅力的なところがあって、相手の人はそこに惚れ込んでくれたんだよきっと」
「そ、そうかなあ……」
「そうだと思うよ。あと、自分のことかわいくないって言うの、もうやめな? シズカ、昔から癖で言ってるけど、私からしてみたらそんなことないよ?」
「ミユキに言われちゃうと、な、なんだか恥ずかしいなあ」
シズカはさっきよりもじもじしている。学生の頃から恋愛には疎かったし、私の知る限りでは男性経験なんてほとんど無いはず。そんなシズカの前に突如として白馬の王子様みたいな人が現れたのなら、確かにもじもじてしまう。
「告白、オッケーしてみてもいいと思う?」
「いいんじゃないかな。相手の人のことは、これから知っていけばいいだろうし。ダメだったら別れたっていいと思うし」
「そ、そうだね。これも経験だよね」
「そうそう。もしかして恋をしていい曲が書けるようになるかもしれないしさ、ポジティブにいこうよ」
ただ純粋に親友の幸せを祈って、二人の仲が上手く行くことを願って、私はシズカの背中を押した。
しかし、これが間違いだったことに気づくまで、あまり時間はかからなかった。
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