引く波に/足下とられ/水の泡/水面の星を/掬うかのよう

引く波に

足下とられ

水の泡

水面みなもの星を

掬うかのよう



________________



「ごめん、普段話していないのにこんなことを聞いていいのか分からないんだけれど」

「は?」

「雪姫は、元気だった?」

「へ?」


 雪姫と聞いて、下河のことだと繋がるのにしばし時間を要した。


「……僕は、下河雪姫の保育園からの幼馴染なんだよ」

「……」


***


「俺は下河の元気だった時を知らないから、なんとも言えないが彼女なりに頑張っていると思うよ」

「そう……」

「そんなこと、俺に聞くより、下河に直接聞けば良いんじゃないか?」

「それができたら……」

「なんで? 幼馴染なんだろう? 俺よりも少なくとも下河のことを知って――」


***


「誰かが、雪姫をからかった。いつも真面目で一生懸命なヤツだったから、からかいやすかったんだと思う。実際、みんな軽い気持ちで言ってたし。雪姫は笑いながら、怒った振りをしていた」


***


「どんな言葉で下河を追い詰めたのか、それは知らない。でも、少なくとも海崎がそう思うのなら、お前が下河を守れば良かったじゃないか」

「それができたら――」

「でも、もう遅いよ。悪いな。その役目は俺がやるし、誰にも譲らない」

「……」


***


「――何かあれば、相談したい。その時は協力してくれる?」

「え?」


***


 下河の笑顔を守りたい。そのためには俺一人の力じゃダメで。目蓋の裏側に焼き付いて離れない親友の笑顔を想いながら。


 ただ下河に笑っていて欲しい。ただそれだけで。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る