ゴミカス 前編~中編

夏の日の畔道を俺、信久ノブヒサとその親友の□□ □は歩いていた。

あれは3日前ぐらいだった。


「折角の夏!田舎といえど楽しもうZe☆」


「はぁ?山しかないのに?水着を着た女の子すらいないんだぞ...」


言われるがまま炎天下の中、□に誘われてどこかに向かっていた。


「ノブ!今からどこ行くか予想してみ?」


そんなもんは真横でニシシと笑っているこいつにしか分からない。

大体夏休みの過ごし方なんてそんなものだ。

誰かに誘われてどこかに行く。

1番無難な過ごし方だと思う。


辺り一帯は山に囲まれた集落みたいな田舎みたいなちょうどその中間くらいとしか言い様が無い風景だ。

田んぼくらいしかない。

たまに来るような観光客も山の上にある神社と世界遺産になってる遺跡、他には…寺とかしかない。

主に観光客は寺や神社がメインで観光する。

もちろん見たあとは帰って行く、むしろ帰るくらいしか出来ることがない。

日帰り旅行サイトで見つけれるレベルだ。

それほど田舎だけど人が極端に少ないってわけでもなく

たしかドラマの撮影にも使われたとかで聖地巡礼とかで来る観光客も少なくない。

けどそれ以外は特になにもない。


強いて言うなら豆腐と醤油が名産くらいか。

どこに行くのか予想をしていると□が横から口をツッコんできた


「いやね、ほら

夏と言えば怖い話じゃん?

西瓜に浜焼き

海水浴にキャンプとバーベキューじゃん?」


「んで?」


「この辺りにあるのは?」


「山しかないしキャンプは2年前にやったろ?」


虫刺されが酷くて途中で帰ったけど


「なんで怖い話を上げたと思う?」


「知らん、今年は百物語でもする気か?」


「今回のやつは関係無いんだな、それが」


指を左右に振りながらチッチッチと□は動きをキメながら言った。


「肝試しやった後に祭りまでキャンプしようぜ!」


こいつ、馬鹿だ。

少なくとも阿呆と馬鹿を10回ずつ言っても足りないようなレベルの頭の足りなさだ。

なぜそこまで罵倒するのか...それはこいつの怖さ耐性の問題だ。

少なくとも今でもホラー映画を観て夜中に隣の家だからって泊まりに来るようなビビりチキンだ。

でも怖い映画やテレビを見る。

正真正銘の馬鹿だ。

そんなやつが肝試し?

正直、森の中で腰が抜けてどうしようもなくなるのが目に見える。

本当に下らない。


「楽しそうじゃない?!」


キャンプ道具らしきものを背負ってキラキラした目でこっちを見てきた。

そんなことを言ってるやつに行動を合わせてる自分が馬鹿らしく思える。


「場所は決まってんだよな?」


「当たり前だろ?じゃなきゃ歩いてでも向かってないわ」


「確かに、お前の事だからなにも考えてないとばかり」


「おまっ、言ってくれたな!」


肩を叩こうとしてくる手を軽く避ける。

大体はこんな流れでいつも通りって感じがする。


「~でさ~、おい聞いてんのか?」


「聞いてる聞いてる」


「~んで、あいつがこないだ珍しく怒鳴ったワケよ」


「ふーん、あいつがねぇ」


「んでこないだの配信者さ、引退したらしいよ、残念だわ~」


「引退ライブ見てなかったし引退したことすら知らなかったんだが」


とどうでも良い話題を聞きながら歩いていると唐突に


「お!着いた!」


そう言った馬鹿と俺の目の前には苔むした石の階段があった。


「明後日なにがあると思う?」


ドヤり散らかした顔で□が聞いてきた。

もちろん知っている。

過疎地域での謎の祭り。

昔からあるけどなんの祭りかは□も俺も分かっていない。

でもこの話を出してきたって事はつまりそういうことだろう。


「祭りだろ?」


「祭りまで現地キャンプ待機!

1回やってみたかったんだよ!」


「お前馬鹿か?流石に罰当たりだろ」


「と思うじゃん?

なんとキャンプ場から神社までのルートの間に良さげな場所見つけてさ」


神社の近くに確かにキャンプ場がある。

改めてこんな事につきあっているのが馬鹿らしいと思う。

けど

パチパチと音を立てる焚き火を眺めてインスタントの紅茶を飲みながら適当に友達と話すのも悪くない。


今みたいにパチパチと音を立てる火を囲んで談笑する時間はあと何年生きれるかは分からないけどたぶん歳を重ねても楽しい。


「でさぁ、あいつこう叫んだんだよ!

「□!逃げろ!そいつは毒を持っている!」

でも結局ムカデと思ったやつ誰かが落としたおもちゃだったんだよ

あの駄菓子屋に置いてあるゴムのやつ」


「10円で買えるくじ引きのやつな

普段のツンとした態度のあいつ中学の時そんな感じだったっけ?

もっと無口なやつかと思ってたわ」


夏休みで会えないやつの事を焚き火を囲みながら話していた。

高校に入って話したやつ

中学校からの付き合いのやつ

小学校まで同じだったやつ

□は幼馴染みで振り返ってみると幼稚園の頃から仲が良かった。


「そうそう、それであいつ漏らしてさぁ」


「よくそんなこと覚えてんな」


「お前人の事見なさすぎじゃね?」


「家族にもたまに言われるよ」


その歳で老ボケか?と肘でぐりぐりしてくる□。

そんな□とは対象的に俺は違和感を覚えていた。


「ぼーとしてどした?考え事?」


「ちょっとね」


なにに違和感を持っているんだろうか?


分からない

そういえば肝試しを忘れていたけどそれは□も同じなようでまぁ良いかと肩を下ろした。

仮に肝試しをしても夜中にトイレに付き合わせられるのは自分だし


「んであれだよ!アレ!…直前まで覚えてた、なんだっけ?アレ」


「5ターン無敵スキルの新キャラ?」


「そう!それ!」


珈琲を煎れながら考える。


誰と話してたっけ?


それはもちろん□と


□?□って誰だっけ?


「「ンナにフしかよ?」」


その声は間違い無く□の声じゃなかった。

まるで

縦や横に人を伸ばして無理矢理発音させたような

何人かの声をつぎはぎに繋げた声のような

何人にも同時に話しかけられているような

そんな声だった。


湯気の向こう側に居る□の後ろにいる


たぶん人間じゃないそれはもう近づいて来ていた。


視界の右端に映る黒く形を成していない足はその存在を確証させるには充分だった。




どのくらい経っただろう…


3時間、いや5時間は意識を失っていたかも知れない。


微かな光を感じて重い瞼を上げた。

見知った天井、自分の部屋だ。

夢かもしれない。


冷や汗を掻きながらベッドから重い体を引き上げた。

自分の事だ、記憶にないだけであいつからの誘いを断ったかもしれない。


布団から出て違和感を覚えた。

山の時のような得体の知れないものが関係してるとかじゃなくなんとなく引っかかった程度だった。

そう、なんとなく。


友人が嘘をついてると分かるように


匂いで雨が降ると分かるように


今着ているのがいつもの寝間着じゃないと分かるように


あまりにも信じれない出来事だった。

そんな事実を自分の着ている服が現実だったと実感させてくる。

冷や汗と自己保身なのか布団に包まっときたい気持ちが出てくる。

正直怖い。

相手は人間じゃないし鹿とか兎、ましてや熊ですらない。

脳裏に過るは軽いトラウマを植え付けるには充分すぎた。

けど友人を見捨てる選択肢はあり得ない。

友人としても人としても

話し相手も居なくなるし

たぶんあいつのことだ、生きてる

そう信じるしかない。


冷静に着替えて荷物を回収しにいく。

□が生きてることも確認しときたい。


「おかん!ちょっと行ってくる!」


そう湯気が立つ台所に向かって叫んだ。


「朝食は!?」


いつものトーンで返事が返ってくることに安心感を覚えた。


「今日は要らない」


顔を少し出し一瞥して一言


「なにを急いでるかは知らんけどちゃんと帰って来いや、服装ぐちゃぐちゃやで」


そんな言葉になんとなく理由も無くほっとした。


玄関を閉め少し重い足取りで神社に向かう覚悟を決める。

後ろでバタン、ガチャと音がなる。


途中までは電車、そこから降りて例の場所に向かう。

朝だから出勤するサラリーマンやなにをしに行くか分からないおじさん、旅行客で満員電車だ。

座ることは諦めて車両の端に立つことにした。

日本の満員電車は有名なレベルっていうのを実感してる。

少しでも電車が揺れる度に肘や腕がぶつかり合う。


そんな騒がしさに少しだけ日常を感じたその時はだった


服の端をいつの間にか捕まれていた。

煤と血にまみれた、いくつもの鈴がついた紐が絡まった腕だ。

力強く痛みなど気にしないかのような憎しみのこもっているような力だ。


満員電車の中だ

引き剥がすことも出来ない。


焦燥感に駆られて少し揺らす。

鈴が「チリンチリン」と細かく鳴る。


追い打ちをかけるようにハッキリと聞こえた。


耳元で囁いてきたのは例の声だった。


「来ルノ?フfuフふフふふ、アhaハは歯はハ」


中年の男性のような女性のような不思議な声は人の隙間から聞こえてきた。


「待ってるよ」


最後の声に思わず顔を向けた。

間違いなく□の声だった。

何十年と聞いてきたんだ、間違いない。


目に入る親友の顔


人影から覗く顔、それは生気もなく少し肌も煤を被ったかのように黒い

まるで鉱山の事故で亡くなった設定のホラー映画に出てくる幽霊のような顔が直視していた。

爛れて溶けた目が少し上に上がり凝視するように瞳孔が動いてるのが見て分かる程だった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ありふれた物語(短編小説) 某凡人 @0729kinoko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ