今宵も月が綺麗ですね

涼野京子

第1話 衝撃

思えば、あれが初恋だったのかもしれません。でも、初恋といえるほど綺麗な恋愛ではなかったと思います。だから今から話すことは内緒でお願いしますね。



桐野葵はそういいながら、私に話した。なぜ、小説のネタにされるのに内緒なんて言葉を使うのか分からなかったが、ひとまず話を聞くことにした。



あれは小学4年生の時でした。私には2つ上の兄がいて、彼はたまにうちへ遊びに来る人でした。どうもっと軽く挨拶するくらいで、まともに話したことはありませんでした。なんだか大人っぽい人だなーとかそういう印象で、特に何とも思っていなかったんです。でも、ある時私にイチゴ味の飴をくれたんです。これ、俺は苦手だし卓也もいらないみたいだから、よかったら食べてって。その瞬間、ビビッてやつがきちゃったんです。あっ、私絶対この人を好きになるって。直感的に思いました。このときくれた飴をきっかけに私たちは少しずつ距離を縮めていきました。といっても小学生の幼い子ども同士ですから、別に何をするってわけでもなかったんです。兄のついでのような感じでよく話しかけてくれるようになったというだけで、これといったことはありませんでした。でも、彼も私を気にかけてくれてはいたと思います。だって親友の妹ですからね。雑に扱うわけにもいかないでしょうし、近づきすぎても変に思われるでしょうから。外であったことは本当にただの一度きり、それから何年かたった後ですよ。その話は順を追って後ほど説明しますので、一旦忘れてください。それでこれといった出来事もなく時が過ぎて私は中学生になっていました。彼は地元の中学ではなく、受験したみたいで隣町の私立中学へ通っていました。兄も私と同じで地元の公立中学へ進学しましたから、自然とうちへ来る回数も減っていきました。私も彼のことは意識せずに生活していました。というか、忘れていたんです。もう2年くらいは会っていませんでしたし、中学に上がって部活も忙しくなって彼のことを考えている暇はありませんでした。人並みに恋もしていましたし。あ、一気に喋りすぎました?聞き飽きません?ずっと他人の恋愛話を聞くなんて。


彼女は氷が溶けたアイスティーを顔をしかめて飲みながら、話し続けた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る