私達、魔砲使い少女パーティーです!

TEKKON

第一章 ~結成編~

第一話 突然の修羅場

「ちょ、ちょっと待って、追放って何よ!」



 ルエスタ魔法学会の一室に少女の声が響き渡る。


 少女の年齢は十代後半だろうか。オレンジ色の長髪同じくオレンジ色の瞳、白いロングコートが目を引く。

 しかし、幼さの残る顔と低い身長により、遠くから見たら子供にしか見えない。

 彼女はこの名門中の名門、ルエスタ魔法学会の学会員であり、名前は『リリィ・リン』。ミト国が誇る天才魔法使いである。


「当然です。あなたの行動に今までずっと我慢をしてきましたが、もう限界です! 今度はこんなふざけた論文まで持ってきて…… 本当に許されるとお思いですか!?」


「ふざけたって…… 画期的で実用的な論文でしょ!?」


 その発言を聞いて学会長の娘、カテリーナ・ルゥ・ルーシィの表情が険しくなるが、それでも構わずリリィは続ける。


「ここの部分の魔法詠唱を少し変えるだけて、マジックパワーの消費はそのままに効果が20%は向上するんです! 効率的な魔法運用は将来的に大きな財産に……」


「問題はその変更の中身です。よりによって、この2つの文言を混ぜるなんて言語道断です! あなたは魔法の系図、規律というものを何だと考えているんですか!?」


 ……はぁ、またこのパターンか。リリィは呆然としながらその言葉に答える。


「この2つは側から見たら同じ魔法系統です。それなのに、長年ウチらの方が優れていると内輪で争っているのは、滑稽を通り越して” 有害”ではありませんか?」


「ちょっとリリィ、それは言い過ぎっ……!」


 隣で楽しそうに口論を聞いていたリリィの学会で数少ない友人、ルリノ・イレーナは、流石にまずいと小声で止めようとしたが遅かった。


 同席していた役員が、魔法界隈のタブーに触れた事に対して一斉に声を上げ始める。


『ふざけるな小娘!』

『お前のその暴言、もはや許せん!』

『いくら親が学会に出資しているからと言って、何をしても許されると思うな!』


 部屋の空気は急速に険悪なムードになり、もう建設的な話が出来る状態ではない。

 周りからの罵倒が続く中、それでもリリィの毒舌は止まらない。


「あーあ。この流れはもう終わりかなぁ」


 ルリノはこの口論、いや口喧嘩を聞きながら、そう呟き首を横に振る。


 リリィが言っている事は確かに正論だし、実際に行っている事も間違いでは無い。

 しかし、人とのコミュニケーションが下手過ぎるのだ。

 

 リリィは周りから、「大商人である父親の金と母親の力だけで学会に入る事が出来たガキだ」 と陰口を叩かれていた。


 しかし、ルリノや一部の人は彼女の知識と才能、そして努力に気づいている。

 そもそも18歳以上という年齢規定を免除されたのは、今までのリリィの実績によるものだという事を理解していない人が多すぎる。


「……リリィさん。言いたい事は終わりましたか?」


 カテリーナは今まで仮面のような笑顔のまま、リリィの弁論をずっと聞いていた。

 それは彼女へのヘイトが集まるのを待ち、他の学会員の判断を追放の方向に促す為だ。


 非公式な集まりで学会長が居ないとはいえ、カテリーナを含む役員連中から承認されてしまっては追放は決定されたも当然だ。

 そして、今の雰囲気だとこの流れは確定してしまっている。


「ぐっ……!」


 リリィは唇をかんだ。


(こんな所で止まっていられない! 私はやらないといけない事があるんだから!)


……

………


 その結果、リリィ・リンの追報が可決される。

 しかし、学会長不在という事もあり、来月行われる魔法総会で正式に決まる事になった。



 * * * *



「あーっ。今日は散々な目にあったわ!」


 夕暮れ、学会のある建物から出てきたリリィは、悔しさで大声を出さずにはいられなかった。


「“リリリン” やりすぎー。会長がいなくてラッキーだったよ」


 ルリノは笑顔を見せながらリリィを慰める。


「カテリーナ達が私が何かするたびに、いつも邪魔してくるのが悪いのよ!」


「完全に目をつけられているからねー」


「もし私に実技の才能もあったら、あの場で実践して“魔法は進化していくものだ”と見せつけられたのにぃ!」


「あ、そんな事したら 『それは神と悪魔を融合させるかの如き最悪の暴挙だ!!』 と更にやばいことになってたねー。ちょっと興味あるけど」


 隣で歩くリリィの怒った顔を見ながら、ルリノは楽しそうな表情を見せる。

 リリィは既存の習慣や規律、時にはモラルすら無視して目的に対して一直線に取り組む。必要とあらば本当に神と悪魔を融合させるだろう。


 だからこそ、彼女はミト国屈指の天才であり奇才なのだ。


「ねっ。こんな時間になってお腹空いちゃったから、ケーキとお酒が美味しいと噂のミュージックパブに行かない?」


 そう言うと、ルリノはリリィの手を取って横道へと歩き出した。


「もーっ。ルリノは私が甘い物食べれたら、それで万事OKだと思ってるでしょ。私はそんなに甘い女じゃ無いんだから!」


 そう口では言いながらも、リリィの瞳はらんらんと輝き表情は緩んでいた。

 それを見たルリノは、やはり天才だといっても私達と同じただの少女なんだな。と思えて嬉しくなる。


「まあまあ。正式に決まってないんだから、まだチャンスはあるわ」


「……そうね。まだ一か月あるんだから、それまでに学会が納得する、圧倒的な実績を見せつければいいのよ!」


 リリィはルリノの方を向いて力強く言い放つ。


 自分に絶対的な自信を持ち、実際の能力もあるリリィだから言える言葉に、ルリノは胸の高鳴りを覚えた。


「うん。きっと出来るよ!」


「ありがとうルリノ」


 そう答えた後、見えなくなる魔法学会の建物の方を向いて、少し悲しそうな顔を見せながらリリィはボソッと呟いた。 



「……私は、ただ魔法をもっと発展させて、身近なモノにしたいだけなのにな」


 見えなくなる魔法学会の建物の方を向いて、少し悲しそうな顔を見せながらリリィはボソッと呟いた。

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