第2話 花子さん

 実家のリビングの窓はとても大きい。床から数十センチは木の壁になっているが、その上から壁2面にかけて窓になっている。部屋自体はそこまで広くないが、ブラインドをあげると、町や海が見え、とても気持ちのいい空間がひろがっている。その日はとても天気が良かったので、ブラインドをあげていた。私は、母親の手伝いや何かをしていて、何の気なしに窓に目をやると、白い丸ブラウスに赤い吊りスカートを履いた、おかっぱ頭のどこかで見たことのある女の子がそこにいた。


「花子さんだ」

頭の中でそう思った瞬間、ニヤッと私に向って微笑んできた。さっと血の気が引いた。一気に恐怖に代わり、どうしよう、家にまで花子さんが来てしまった、逃げ場はない、これから私はお風呂入る時や寝る時どうしたら良いのだろう、と様々な思考がひろがった。私は小学生でちょうど学校の怪談なんかにはまるような歳であった。その中でも、花子さんの話が特に好きだった。怖さでトイレに行けなくなったり、一人で寝られないこともあった。きっと、私が花子さんの話をいっぱい読んだから、夢に出てきてしまったのだろう。夢ながらにそう思った。そう思うと少し気持ちが落ち着き、再び窓に目をやる。相変わらずそこにいる。特に話し掛けてくるでもなく、ただニヤッとこちらを見ているだけであった。だが不思議なことに、夢だとわかっているのに時間の感覚に妙な現実味があった。なかなか夢が覚めず、私は夢の中で日常を過ごしていた。時間は流れ、花子さんがいるのが当たり前になった。「花子さんって怖くないんだ」、そう思った時、現実の世界で目が覚めた。あ、やっと起きられた、やっぱり夢だったんだ。安堵しながら1階に降りる。おそるおそるリビングの窓の角に目を向けると…


そこには誰もいなかった。

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