わたし、ごさい。せかい、きびしい。
第二の人生が生まれた瞬間ハードモードということが確定して早二年。
どうやら私は物心が着いたころ、大体三歳の時に前世の記憶を思い出したようで、今の私は五歳になりました。
この間に学んだことと言えば。
まずは異世界の定番、魔法。
これに関していえば、魔法チートを使って無双なんてことはできないことがわかりました。
この世界の魔法は生まれ持った才能が物を言います。
才能を決めるのは二つの要素。
一つが属性に対する『適正』。
火・水・風・土・白・黒の六大属性に対して、それぞれ扱えるのか、扱えないかという指標。
これは幸いなことに、全属性扱えることがわかりました。
しかし問題となったのは、もう一つの要素である『魔力密度』でした。
魔力密度は高ければ高いほど、魔法の効果が上がります。
例えば魔力密度が一の人と百の人が同じ火の魔法を使った場合、蝋燭の火と火炎竜巻ほどの差が生じるのです。
悲しいことにこの魔力密度が私は低いのでした。
風の刃を出す魔法を使えば、大根は切れないが白菜は切れる程度の威力しか出ません。
ちなみにお父様が同じ魔法を使うと人体を模した藁人形がすっぱりと切れます。
才能は残酷です。
他に学んだことは、この世界について。
この世界について大雑把に説明すると、人間と魔族で争い合っているファンタジー世界です。
人間には様々な国がある他に、女神から人智を超えた力を与えられる『勇者』と『聖女』がおり。
実力至上主義な魔族の長であり、同じく人智を超えた力を持つ『魔王』と長い戦いの歴史を重ねてきた。
そんなありきたりな異世界です。
異世界にありきたりも何もありませんが。
さて、私にはとんでもないことなのですが。
魔王の代替わりにはいくつか方法があり、その一つに魔王に選ばれた魔族が力を継承するというのがあります。
そして魔王の世襲は魔族の歴史においても度々見られてきた行為。
つまり魔王の座を狙う方にとって、私は優先的に抹殺するべき対象となるのです。
下剋上フラグ、冗談抜きに立ってしまいました。
魔族が力への信仰と呼べるほどに実力至上主義なので、誰にも文句を言えません。
強ければ正義、弱いやつが悪い。
それが魔族社会なのです。
これらのことを私に教えてくれたのは、オークの長であるザラカフです。
魔族はオーガ、ヴァンパイア、ダークエルフ、オークの四大種族とその他の少数民族の総称なのです。
その四大種族の長を四天王と呼び、重用しているわけでして。
ザラカフはその幅広い見識を見込んで私の教育係に任命されたそうです。
ハードモードな人生を生き抜くために、知識はいくらあっても足りません。
だから私は一生懸命勉学に取り組みました。
とはいえ今命を狙われればそれはもうあっさり死んでしまうのですが。
今日もまた、ザラカフによる授業の時間がやってこようとしています。
私は準備を整えて部屋で待っていました。
ですが一向にザラカフは現れません。それどころか城内に慌ただしく足音が響き始めます。
なにやらただならぬことが起きていそう。
そう思った瞬間、扉が勢いよく開け放たれました。
「姫様! 勇者一党が城に入り込みました! 避難を!」
「わかりました。案内をお願いします」
努めて穏やかに答えましたが、内心はどきどきです。
そうですか、勇者が侵入してきたと。なるほど……。
私は魔王の娘です。
魔王は人類の敵です。
であれば魔王の娘もまた人類の敵たりえるでしょう。
つまり出会った瞬間こんにちは、死ね! となる可能性が高そうです。
お願いしますこっちに来ないでください。
そんな願いは往々にして叶えられないのが人生というものなのでしょうか。
護衛の兵士と侍女に守られながら廊下を走っていると、三人の人間が曲がり角から飛び出してきました。
いかにも聖なる剣と言わんばかりに豪奢な剣を、抜き身のまま走る青年。
いかにも魔法使いと言わんばかりの、眼鏡とローブにその背丈ほどの長さ杖を持った長身の男性。
いかにも僧侶と言わんばかりの、白い修道服を身にまとった可愛らしい女性。
はいどこからどう見ても勇者一党です。
そして私達を見るなり臨戦態勢となった彼ら。
進むも退くも戦闘は避けられないでしょう。
だというのに気配から察すれば、私達より数段も彼らは強い。
ああ、神様。
どうにか助けてくださらないでしょうか。
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