魔王の娘ですが、歴代最強の聖女です ー生きたいだけなのに人生ハードモードなんですがー
星 高目
第一章:聖女への目覚め
ハードモードな人生を
人生というのはいつだって、押し付けられた理不尽を背負って生きていかなければならないものです。
例え二度目の生を異世界で授かろうとも。
一度目の生は現代の日本でした。
私はひどく病弱で、成人を迎えることもなく病室でその一生を終えたのでそれほど多くを知りません。
体から力が抜けていって、意識が遠くなって。
次に気付いた時には豪華なベッドの上でした。
病室のシンプルなものではなく、体の大きさに不釣り合いなキングサイズのベッド、テーブルも椅子も、部屋に置かれている調度品はいかにも高級そうなものばかり。
「よいしょ」
体を起こそうとして、無視できない違和感を感じました。
懐かしい感覚、とでも言いましょうか。
明らかに私の体が小さいのです。手に目を向ければ、幼子のむちむちとした可愛らしいそれ。
「あらまあ」
どうやら私は子どもの体を手にしたようです。
何か自分の姿を見られるものがないかと辺りを見回せば、鏡が化粧台に設えられていました。
椅子に上って、曇り一つない綺麗なそれを覗き込んでみれば。
「ほわあ」
そこに映っていたのはビスクドールのように美しい少女でした。
肩ほどまでさらさらの銀の髪が流れるように伸びていて、月の光のように柔らかく光を反射しています。
瞳はきらきらと輝く金の色。ぱっちりと開かれた目は丸く、長いまつげが生えそろっています。
これは本当に私なのか、そう思ってぺたぺたと頬を触れば雪のように白い肌がぷにぷにと弾みました。
「これは一体?」
ここは死後の世界なのか、それとも。
――異世界転生。
前世において、物語の一ジャンルとして流行っていた言葉を思い出します。
まさか、という思いと、目の前に映る光景。
試しに走ってベッドに飛び込んでみることにしました。
――ボッフン。
「あはは、走れる! 感覚がある!」
私を包み込むように受け止めたベッドの感触、運動で荒くなった息。
私は確かに生きています。
生きているのです。
「生きてるんだ……!」
生きているのであれば、ここが地獄でも天国でも異世界でも構いません。
生きるのです。
決して前世が不幸だったとか、そういう思いはありません。
私は多くの人に助けられて、愛されて生涯を全うしましたから。
ですが私は周りの人々に多くの物を与えられて生きていたのに、何も返すことができなかった。
それが一番大きな後悔としてこの胸に残っています。
元気に走り回る子どもたちを見て、羨ましく思ったこともあります。
健康であったなら、やりたいことを何でもできるのにと。
ですから今度こそは。
「誰かのために、健やかに生きる」
ぐっと小さな拳を握りしめたその時、こんこんこん、と扉がノックされます。
「王女様、陛下がお呼びです」
王女様?
不思議に思って再び辺りを見回しても、部屋には私しかいません。
ふと壁に掛けられた肖像画が目に入ります。
そこには小さな赤ん坊を抱えて微笑む白銀の女性と、偉丈夫とも呼べる赤髪の男性が描かれていました。
女性の髪は白く、男性の目は金色に輝いています。
そうなると、この赤ん坊は私でしょうか。
私が、王女様?
なんということでしょう。二度目の生はあまりにも恵まれた立場のようです。
恵まれた立場なら、より多くの選択肢を選べます。
健康であるだけでも嬉しいというのに。
「王女様?」
「は、はい!」
返事をすっかり忘れていたことに気付いて扉を開けると、外にはメイド服を着た女性が立っていました。
「お父様がお呼びなのですよね? 案内をお願いします」
「はい」
私の第二の人生は、夢なのではないかと思える程に素晴らしい始まりを迎えました。
ですがやはり、現実というのは否応なく理不尽を突きつけてくるもので。
「来たか、ステラよ」
案内された先にいたのは、三メートルを超えようかという偉丈夫。
彼が座る玉座の前にひざまずく、屈強な異形の種族達。
”魔”、”悪”、そんな文字が脳裏に過ります。
「えーと、これは一体……」
戸惑う私に、朗らかに偉丈夫は語りました。
「何、
そういうなり彼――おそらくお父様なのでしょう――はおもむろに立ち上がると、私をその大木のような腕で抱え上げ、また玉座に戻ります。
そして膝の上に乗せられて、私は眼前の異形の方々と相対することになりました。
(ひえっ)
値踏み、敵意、侮り。
穏やかではない目線が私に向けられています。
(魔王の、娘……)
王は王でも魔王の娘。
いかにも誰かに『お命頂戴す!』と狙われそうな立場です。
さらに配下の方々から向けられる目線も剣呑。
もしかすると『下剋上!』と命を狙われるのではないでしょうか。
ああ、神様。
第二の人生、健康で生きているとはいえ。
命が常に狙われているハードモードだなんてありですか?
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