20.太陽の下へと連れ出してくれた
一夜明けて、雨空は晴れ太陽が差した。
葉の先から垂れた朝露が落ちる小さな音と共に、金髪の少女は目を覚ました。
知らない天井。
キレイなベッド。
寝ぼけ眼で、これは夢の続きかもしれないと呆けて、つらかったはずの身体が楽になっているのに気が付いた。
「夢じゃ、なかった……」
「うゅ……」
「!」
隣のベッドで黒髪の少女が目を覚ますと、金髪の少女は慌てて駆け寄った。
「大丈夫?! 身体、どこも痛くない?! 熱くない?!」
「うん…」
力無さげながらニコッと笑うと、少女は涙を落として抱きついた。
「よかった……よかったよぉ……」
痛みない身体と、身体に伝わる少女のぬくもり。
生きている。
それだけの実感が、黒髪の少女にも涙を齎した。
「ここ、どこ……?」
「ここ……」
部屋の扉が開くと、少女たちの目に眩しいくらいの赤が入ってきた。
「お、起きたなネコ耳っ娘たち」
黒髪の少女はビクッと身体を震わせた。
「おはよう。お腹すいたでしょ。一緒に朝ご飯にしよーぜ」
ニシシと笑う様からは敵意も悪意も感じず、二人は可愛らしく鳴ったお腹を押さえた。
――――――――
「――――――――!」
「――――――――!」
ネコ耳っ娘たちは、テーブルに並んだ料理を見て、目をキラキラさせて、お尻の尻尾を燻らせた。
可愛い反応してくれるわ。
「ほれほれ座りたまえよ」
「で、でも……」
「私たち……」
「いいから。みんなで食べた方がご飯はおいしいんだよ」
朝ご飯は消化に良さそうなものを作ってみた。
玉子と牛乳をたっぷり使ったホットケーキに、村で買ったとうもろこしで作った甘い甘いコーンスープ。
炒めた野菜を添えたベーコンエッグと果物。
「食べられるものを、食べられるだけでいいからね。ゆっくり食べるんだよ。それじゃ、いただきまーす!」
「いただきます」
「いただきます」
んーホットケーキフワッフワ♡
バターのコクもいい感じ。贅沢を言えば、やっぱり蜂蜜が欲しかったけどね。
ネコ耳っ娘たちは料理に釘付けになっていた。
迷った風にこっちを見てくるのがまた可愛くて可愛くて。
私は、おいしいよって笑い返した。
「いただき……ます……」
「いただきます……」
二人ともスープから口を付けた。
「はちちっ……」
「フー、フー……こくっ」
「!」
「甘い……おいしい……」
「うん……おいしいね……」
二人は泣きながら食事を進めた。
向かいからアルティとドロシーが、涙と口の端に付けたお弁当を拭う。
「慌てなくて大丈夫よ」
「足りなかったらおかわりもあるからね」
「ありがとう、ございます……」
「ありがとう……ございます……」
二人は終始、泣くのと食べるので大忙しだったけど。
好き嫌い無くご飯を平らげた。
「どう? 少しは落ちついた?」
「はい。本当にありがとうございました」
「何が出来るかわかりませんが…この恩は忘れません」
「いいってそんなの。気にしない気にしない」
「そんな……せめてお掃除でも……」
「ぜひ、皆様のお世話をさせてください……」
奴隷としての奉仕精神が根付いてしまっているようで、二人はむしろ何かしていないと落ち着かない様子だった。
お世話ね……
と言ってもこの家はちょっとの間借りてるだけだしな……
「じゃあ、洗濯を手伝ってもらったらどうですか? やっと雨が上がったことですし」
「それにリルムたちにも遊ばせてあげないと。ずっと退屈してたみたいだから」
「そうだなそうしよう。じゃあ、これは命令じゃなくてお願い。二人ともお手伝いしてくれるかな?」
「は、はい!」
「なんでもやります!」
「いいお返事だ。じゃあまずは、二人の名前を教えてくれる?」
「名前は……」
伏せた顔に前髪がかかる。
【アイテムボックス】から取り出したヘアピンを付けてあげると、二人の可愛い顔があらわになった。
「ここには名前を口にして怒る人はいない。聞かせて、あなたたちの名前を」
二人は一度顔を見合わせて、意を決したように名乗った。
「マリアです!」
「ジャンヌです!」
「うんっ、いい名前だ。私はリコリス。リコリス=ラプラスハート。お姉ちゃん♡って呼んであぐふっ! なんで叩いたの?!」
「何故か邪な気を感じたので」
「こんな小さな子たちまで欲望のままとはね」
いいだろお姉ちゃんって呼ばせるくらい。
こちとら一人っ子だぞ。
……その内、弟か妹が産まれる予定らしいけども。
「お姉……ちゃん?」
きゅんっ♡
「ドゥフっ♡ かわっ、かわええぇ♡♡」
リコリスデレッデレ♡
血の奥に眠ってた母性本能がビッグバンした。
「ちょっとズルい! アタシも呼ばれたい!」
「待ってくださいドロシー! 私だってお姉ちゃんって呼ばれたいです! 私はアルティ=クローバー。アルティお姉ちゃんって呼んでくださいね」
「私のこともドロシーお姉ちゃんって呼んでいいわよ」
「アルティお姉ちゃん……?」
「ドロシーお姉ちゃん……?」
「「はわわわわわ!♡」」
「二人して堕ちてんじゃねーかよく私のこと叩けたな貴様ら」
一人っ子&末っ子だから、まあ仕方ない。
それにしても……可愛いなぁ〜♡
「そりゃ!」
水魔法を球体状にして、洗濯物が傷まない程度に風魔法で乱回転させる。
この螺○丸式洗濯法により、洗剤を使わなくてもミクロの汚れまで落とせるのだ。
材料があったら石鹸も洗剤も作るんだけどなぁ。
「わぁ!」
「すごいです!」
ま、子どもたちには好評なようなのでよし。
「リコリスお姉ちゃんは魔法使いなんですか?」
「ただの可愛くてキレイでカッコいい旅人だぜ♡」
「リコリスお姉ちゃん、私もやってみていいですか?」
と、ジャンヌは魔法で水球を作った。
「おおー、ジャンヌも魔法が使えるんだ。そういえばマリアも炎の魔法を使ってたっけ」
「あ……」
言われて顔が青くなる。
混乱して私を傷付けたのを思い出したらしい。
「気にしないよ。ほら、なんともないだろ。ニシシ」
「ホッ…」
二人とも
この子たちの親は、その凄さに気が付かないほど切羽詰まっていたのだろうか。
「お姉ちゃん……」
「どうした?」
「お姉ちゃんみたいに上手く出来ない……」
「私のは風の魔法も使ってるからね。よし、そのまま魔法を保って」
手を添えて風でグルグルさせてやる。
ジャンヌはパァっと顔を明るくして、マリアもそれを楽しそうに眺めている。
洗い終わったら絞って脱水だ。
「さ、マリア、ジャンヌ。洗濯物を干すぞー」
「はいっ!」
「わかりました!」
奴隷云々じゃなくて、元々こうして手伝いをするのが好きな性格なのかもしれない。
マリアとジャンヌは、手慣れた風に甲斐甲斐しく動いた。
次にリルムたちを紹介した。
馬が居ない朽ちた厩舎での寝泊まりはさぞ退屈だったようで、草原を跳び回っている。
一人変わらずダラけているウサギはさておき。
「魔物……」
「みんないい子よ」
ポヨン
『新しいお友だちー? リルムはねー、リルムって言うんだよー』
「リルム……?」
「可愛い……」
「あなたたち、魔物の言葉がわかるの? 【念話】を使ってるわけじゃないのに」
獣人族固有の能力というわけではなく、これは二人のスキルらしい。
いい話し相手が出来てみんな嬉しそうだ。
『ボクはシロン。わからないことがあったら何でも聞け』
『わたくしはルドナ。よろしくでございます』
『ウルと申す者でござる』
打ち解けること光の如し。
二人もみんなを気に入ったようで、毛づくろい羽づくろいを申し出るくらい。
みんながブラシで気持ちよさそうにしているものだから、
『いーないーな。ねーねーリルムもー』
リルムは羨ましがって二人の足元にスリスリしてる。
「キャハハッ、くすぐったいよリルムー」
「アハハハッ」
なんとも微笑ましいじゃないか。
子ども好きだぁ私。
『マー、ジャー、みんなで追いかけっこして遊ぼー』
「追いかけっこ?」
「あの、リコリスお姉ちゃん…」
許可なんて取らなくていいのにな。
「いいよ遊んで。でもあんまり遠くに行っちゃダメだよ」
「うんっ!」
「ありがとうございます!」
『シロンたちもやろー』
『ボクは寝るんだよ』
「シロンはやらないの?」
「そっか……」
『うっ……』
マリアとジャンヌの寂しそうな顔。
シロンはダメージを受けた。
『ちょっとだけだぞ……』
あの怠け者を動かす子どもつっよ。
「じゃあ私たちが10数えたら追いかけるから、みんな逃げてね」
「10……9……」
『逃げろー』
『やれやれ』
ゴウッ!じゃねーよ風切んな。
何を全速力で逃げてんだ貴様ら。
小さい子に花を持たせるとか考えんのか。
「3……2……」
「1……」
「「0!!」」
「やったぁ!捕まえたぁ!」
は?
あいつらワシより速くね?
200メートルはあった差が一瞬で詰められた。
元から俊敏なルドナとウル、やる気が無いだけで能力は高いシロン、それに流動的で動きが読みづらいリルム。
私でも四人を一度に捕まえようとしたら、スキル盛って本気を出しても五分以上はかかる。
それをたった二人で。
しかもマリアに至っては、ウルとルドナとリルムを一人で捕まえてしまっている。
身体能力えぐちぃ。
「よっし休憩するかー」
「では私はお昼ご飯の準備を」
「マリア、ジャンヌ、おいで!」
「はーい!」
「はい!」
「これ、私が考えたチェスっていうゲームなんだけど、二人も遊んでごらん! アルティー! チェス経験者のアルティが二人にルール教えたげてよー!」
「はあ、わかりました」
ふぃー……あっぶ……
劇物生成回避ぃ。
「では、駒を動かしながら覚えていきましょうね」
よわよわと初心者で、まあまあいい勝負しそうだな。
よし、お昼ご飯の準備だ。
2分後☆
「えっと……チェック、です」
「ふわぁぁぁぁぁん!」
早きことロケットエンジン積んだウサ○ンかよ。
マリアはまだルールを覚えながらだけど、ジャンヌの理解力がハンパない。
アルティがザコすぎたのもあるけど、リルムたちはおろか、ドロシーにまで早指しで圧勝している。
めっちゃ天才だな。
それにつけてもアルティが弱すぎるけど。
どうやら二人とも、ちゃんとした睡眠と栄養の補給により、身体が万全の状態へと回復したらしい。
育ち盛りかな。
剣と魔法が使えるアタッカーに天才っ娘か……しかもケモ耳超美少女……
ふむ……
「二人とも、私たちと一緒に来る?」
お昼ご飯を食べながら、サラッと誘ってみた。
「一緒に……?」
「お姉ちゃんたち、と?」
「うん」
アルティとドロシーは、こうなるとわかってたとばかり何も言わない。
「私たちはこれでも冒険者だから、安全な旅ばっかりじゃないし、野宿することだって普通にある。だからそれなりに危険は付き物だ。もちろん何があっても私が守るけどね。住については何とも言えないけど、衣と食については保証する」
それが怖い、嫌ならそれでもいい、強制じゃないと続ける。
「アルティの親は貴族なんだ。だから落ちついた暮らしがしたいなら、二人の身元を保証してもらって、屋敷で住み込みをするのもいい。自分たちで稼げるくらい大きくなったら屋敷を出るのもいい。まあその場合でも、領地に着くまでは私たちと旅することになっちゃうんだけどさ」
「私たちは……」
「どんな選択をしても私たちはそれを応援する。二人はもう奴隷じゃない。やりたいことをやればいいし、やりたくないことはやらなくていい。好きな生き方を選んでいいんだ。どこへ行って何をしても、それを咎める人はいない。二人でよく考えて決めてね」
じっくり考えて答えを出してもらうつもりだったけど。
マリアとジャンヌは一度見つめ合って頷いた。
「私たちを連れて行って!」
「お願いします!」
「よし、わかった!!」
ネコ耳っ娘たちキョトン。
目丸くしてるのかっわ好き。
「はっや」
「もう少し無いんですか感動的な流れとか」
「無いだろ二人の見知らぬ土地での不安ナメんなよ。庇護欲にまみれて然りだろーがよ」
「なんでリコリスに正論で返されると腹が立つのかしら」
毛穴から失礼が吹き出てるからでは?
「えっと」
「ああゴメンゴメン。ということでようこそマリア、ジャンヌ。君たちは今日から
「
「
「私たちのパーティーだよ。二人はまだ子どもだから冒険者にはなれないけど。これから私たちは友だちで、仲間で、家族だ。毎日ワクワク自由で楽しくやろう♡」
「家族……?」
「嫌?」
二人はブンブンと頭を振って、身を乗り出すように声を揃えた。
「嫌じゃない!」
「迷惑かけて、足を引っ張っちゃうこともあるかもしれないけど……私たちを助けてくれたお姉ちゃんたちにお礼がしたいです! だから……だから……」
「「よろしくお願いします!」」
……………………何でも、とな?
その何でもっていうのは、そのぺったんこなロリボデーで全身洗ってもらったりとか、口移しであーんとか、お耳ペロペロペロリンチョASMRとか、尻文字でお姉ちゃん大好き♡って書いてもらったりとかそういうことかね?
そういうことでいいのかね、ん?
初潮来るて。
とはいえ私も淑女の一人。
そう何度も何度も欲望に支配されてなるものかと。
私は大人として、
「マリア、ジャンヌ」
「「はい!」」
「とりあえず二人の脇の匂い嗅がせてもらってもいひぃんゴメンなさぁい!!!」
「この……異常者め……!!」
「二人とも、命と貞操が惜しかったらこのたった今人の道を踏み出したお下劣怪物には近付かないようにしなさい」
だってだってぇ……二人が可愛いからぁ……
私の中の淑女がぁ……
「リコリスお姉ちゃん、大丈夫?」
「お尻蹴られて痛くないですか?」
「痛くなくなるようにナデナデしてあげるね」
「痛いの痛いの飛んでけー」
「あへぁ〜♡ もっと〜♡」
マジ天使じゃーん♡
おいしいお菓子作ったげるからねぇヘヘヘ♡
「子どもに尻を撫でさせて喜ぶ淫魔…」
「犯罪を犯す前に出家しなさい」
マジな目やめてくんない?
はい、そんなわけで私たちに仲間が増えました。
見せてもらった二人のステータスはこんな感じ。
名前:マリア
種族:猫獣人
性別:女性
年齢:10歳
職業:無し
所属:
称号:無し
加護:無し
スキル:【剣術】【直感】【言語理解】
エクストラスキル:【炎魔法】【電光石火】
マリアはやっぱりアタッカーよりのスキル構成。
【直感】は文字通り勘が鋭くなり、本能で危険がわかるようになるらしい。
エクストラスキルの【電光石火】は瞬間的な加速力に秀でたスキルのようで、一回試してみたところ、初速の加速に関しては私より速かった。
ウルの【高速移動】の上位互換ってところかな。
ちゃんと鍛えればいい魔法剣士になること請け合いだ。
名前:ジャンヌ
種族:猫獣人
性別:女性
年齢:10歳
職業:無し
所属:
称号:無し
加護:無し
スキル:【執筆】【描写】【言語理解】
エクストラスキル:【水魔法】【術理】
ジャンヌは身体は動かせるけど、マリアと比べるとやや標準的。
それでもアルティやドロシーよりは断然動けるけど。
得意なのは戦闘より、創作的な方面のよう。
文章を書くのが得意になる【執筆】と、絵が上手く描ける【描写】のスキル。
小説や絵本を書くのを勧めてみるのも良さそうだ。
そしてエクストラスキル【術理】は、技術を理論的に分析し自分の力にするというもの。これもなかなか強力なスキルだ。
スキルは個人の全てではなく、人生を決める重荷でもないけれど、先に生まれた者として、力を間違った方向に使わないよう導いてあげなきゃと思った。
そして。
「よし、こんなもんか」
鏡で自分たちの姿を確認した二人は、パァっと表情を明るくした。
いつまでもざっくばらんな髪型なんて可哀想だから、ちょちょっとカットしてみた。
「あら可愛い」
「似合ってるよ二人とも」
「エヘヘッ」
「ありがとうございます、リコリスお姉ちゃんっ」
我ながら器用な手先じゃぜ。
【散髪】のスキルまでゲットしてしまった。
「服は次の街で買うか」
「布を買って自分で作ればいいんじゃないですか?リコなら出来るでしょう?」
「出来なくはないけど、手間を考えたら買った方が早いしなぁ」
針仕事ね。
まあ、暇があったらそのうちやってみてもいいか。
サササッと服を作れるようになったら、リコリスブランドって銘打って一大ブランドを立ち上げたり、めちゃくちゃえちえちな服と下着作っちゃったり。
ウヘヘ、夢が広がりますなぁ。
「次の街ね。そろそろ海が近くなってきたわね」
「海! 水着!! やったぁー!!」
「お姉ちゃん、海って何?」
「んぉ? 二人は海を知らないの?」
「知らないです」
「それはそれは楽しいところだぞー♡みんなでいっぱい遊ぼうね♡」
いろいろと♡
「ウッヘッヘ♡ 待ってろよー、海と麗しき美女たちよー♡」
可愛い可愛い二人のネコ耳っ娘を旅路に加え、いざゆかん。
太陽の下。
青き海原へ。
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