カレー、ゆで卵、まんじゅう、まんじゅう

 雑談中、同僚のAさんがちょっと困ったように「あの、◯◯さん(私)って何に興味があるんですか?」と訊いてきて、私はそう言われるまで、この会話はわりと盛り上がっているという認識でいたからピッと緊張した。


 その日はそれなりに暇だったのもあって、2人でお喋りしながら仕事を進め、例えば食べ物の話なんかをしていた。

 互いの好きな食べ物/嫌いな食べ物の話になったとき、Aさんは「カレーとゆで卵の組み合わせが好きなんですよね」と言い、「カレーを作るとき、ついでに同じ鍋でゆで卵も作ります」と続けたため、私が慌てて制止し「卵の殻はそこまで清潔でないと聞くから、それはやめた方がよいと思います」と説得する時間があった。

 最終的にAさんは「わかりました、もうやりません」と別鍋でのゆで卵作りを約束しながらも「そんなに心配しなくても……。そもそも、そうやって作ったのも1、2回だけですよ……」とゴニョゴニョ言っていた。本当は3、4回くらいはやったことがあるのではないか。


 思い返しても、こういう盛り上がりが都度あったと思うのだけど、Aさんには私がどんな話題に対しても興味無さげに見えたということだった。


 それからしばらく喋っていると、Aさんはまたも唐突に「◯◯さんって犬みたいですよね、人当たりというか、人柄というか」と言い出した。

「それは褒めていますか?」と訊けば「褒めています」と断言してくれるものだから頼もしい。

「でも、何に対しても興味がないようにも見えてるんですよね、それと犬っぽさは両立するものですか?」

「いっぱいおもちゃ並べてるのに興味示さない犬って感じです」

 身近な人から独自の分析をされると何故か結構うれしい。心地良くもある。



 そこからも雑談は続き、Aさんの話してくれるエピソードに笑っていると、

「私、友達からよく面白いって言われるんですよね〜」と言うので「私もAさんは面白いと思います」と同意すれば「ええ〜っ」と照れていた。

 そして、三拍ほど置いてから「どういう感じで面白いですか?」と前のめりになってきて可笑しかった。身近な人に独自の分析をされたら結構うれしいのは知っているから、言葉を尽くした。



 数日後、Aさんからコンビニの栗まんじゅうを貰った。

 あの日の雑談スペシャルは、Aさんが生理で体調が悪いうえに薬も飲み忘れたらしく、そういうことならと私が業務の大部分を担いながらのお喋りなのだった。まんじゅうはそのお礼とのことである。お喋りの中で、私は好きな食べ物として団子やまんじゅうを挙げていた。


 後日、「あの栗まんじゅう美味しかったですか? 私食べたことないんですよね」と言うから、「じゃあ、明日買ってきてお返ししますよ」と約束した。

 次の日、約束通り栗まんじゅうをあげた。10個。少しウケた。「これで年を越せる」とも言っていた。

 駅までの帰り道で渡したのだけど、さっそく歩きながら食べていた。平らげると、そのまま2個目を食べはじめたのが予想外だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

遠くにありながら、密着する 魚崎 @VsMegane

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画