【完結】婚約破棄は受けますが、妹との結婚は無理ですよ
かずき りり
第1話
◇ルミナSide
「何をやってるの、カミナ」
王妃様主催のお茶会で、地面に膝と手をついている妹に声をかけた。
ふわふわの髪に大きい瞳の愛くるしい外見をした妹は、私を見上げて困ったように笑いかけてきた。思わず手を貸そうとも思ったが、カミナの手は土に塗れているだろう……さすがに王妃様主催のお茶会で私まで汚れるわけにも行かず、伸ばした背筋のままカミナを見下ろしていると、誰かが近づいてきた。
「何をやってるんだ!ルミナ!!」
やってきたのは私の婚約者であるサルム・ガーリィ侯爵令息だったが、私に対し睨みつけると、カミラに対して優しい笑顔を向け、手を差し伸べていた。
カミナは少し考えるかのように俯いた後、サルム様の手を取ると立ち上がった。
「お前はまた妹を虐めて!そんな事をして楽しいのか!」
大きな声で怒鳴られて、思わず息を飲んでしまう。
何か言い返そうと思うが、そもそも怒られている内容に心当たりがない。
サルム様の大声に、周囲も何ごとかとこちらに視線を向ける。流石に王妃様主催のお茶会ともなると、王妃様が懇意にしている者か、高位貴族と言った少人数しか居ないけれども、さすがにこれは問題だろう。
そう思って止めに入ろうとも思ったが、後に続いた言葉に絶句した。
「あぁ……カミラ嬢がこんなに震えているじゃないか!お前となんて婚約破棄だ!私はカミラ嬢を愛しているんだ!」
何を言ってるんだろう?
思わず頭に言葉が入ってこなかった……というか、理解したくもなかったし、理解できるようなものでもなかった。
そもそもカミラが震えているって……きっとそれは……。
「な……何を言っているんですか!?サルム様!いけません!」
必死になってカミナが止めるけれど、サルム様の腕を掴んで上目遣いで言うのは……我が妹ながら、可愛いな、なんて思いながら見入ってしまった。
姉妹なのに私は美人系な顔立ちな上につり目なものだから、可愛い系の妹を羨ましく思いつつも思いっきり愛でてしまっている。だって私、可愛いものが好きだから。
「俺はルミナみたいにキツイ顔は苦手なんだ!やはり女性はカミナのように可愛い顔立ちに限る!」
うん、分かる。分かってしまう。
そんなっ!なんて言いながら更に目を大きく見開くカミナはとても可愛い。可愛いんだけれど……。
コンプレックスを刺激されている私は、気弱な性格もあり、ゴリゴリと何か色んなものが削られていっている気がしないでもない。
あ、胃が痛い……何か脂汗まで出てきそう……と思ったら、私の顔色が悪くなったのをきっかけに、カミナの仮面が剥がれ落ちた。
「お姉さまのどこが不満なのよ!こんの無能!!!!!」
そう言ってドレスをたくし上げ、サルム様の股間を思いっきり蹴り上げたのだった。
◇カミナSide
つまらないお茶会。着飾って会話を楽しむだけの何が楽しいのやら。今回は王妃様主催という事で私やお姉さまも呼ばれている為、しぶしぶ参加するもつい虫を見つけて遊んでしまい、地面に這いつくばっているところをお姉さまに見られてしまい声をかけられた。
「何をやってるの、カミナ」
愛らしい外見と言われるけれど、私は貴族なんて性に合わない。黙って笑っているだけで良いと言われているから、そうしているだけで……ついお姉さまにも笑って誤魔化そうとしてしまう。
美しいお姉さま、その心は優しく、慈悲に満ちていて大好きだ。
「何をやってるんだ!ルミナ!!」
そこへ私の大嫌いな男がやってきた。サルム・ガーリィ侯爵令息。お姉さまの婚約者ってだけで大嫌いなのに、お姉さまに怒鳴りつけるなんて何様なんだろう。
差し伸べられた手を払い除けたかったが、嫌な顔を見られたくなくて俯いて、お姉さまに迷惑をかけない為にも我慢して手をとって立ち上がった。
「お前はまた妹を虐めて!そんな事をして楽しいのか!」
は?私いじめられてなんかないですけど?お優しいお姉さまがそんな事するわけないでしょ。
思わず手を握り締めて、怒りで震える。あぁ……殴りたい。
「あぁ……カミラ嬢がこんなに震えているじゃないか!お前となんて婚約破棄だ!私はカミラ嬢を愛しているんだ!」
思わず脳が停止した。何言ってるの?
あんな美しくて優しいお姉さまと婚約破棄?いや、婚約破棄は大歓迎だけど!お前から言う?
しかも後半の言葉、私は一切理解したくなかったし、この世から消し去って欲しいセリフ、ナンバーワンだ。
「な……何を言っているんですか!?サルム様!いけません!」
必死で仮面を被り、一応静止の声をかける。
冗談じゃない。本当嫌だ。お前に愛されるとかマジで嫌だ。嫌すぎて泣けてくる。
そもそもお姉さまのどこが不満なんだ。
「俺はルミナみたいにキツイ顔は苦手なんだ!やはり女性はカミナのように可愛い顔立ちに限る!」
「そんなっ!」
なんて見る目のない!お姉さまほどの美人なんてそうそう居ないというのに!
趣味が悪すぎる!!
あぁ……こんな美しいお姉さま……と思い、お姉さまの方へ視線を向けると、お姉さまが真っ青な顔をしている。
元々、貴族という腹黒な巣窟でやっていけるほど、心が強くないお姉さま。持病の胃痛が出てしまったのだろう……。
私の中の何かがキレた。
「お姉さまのどこが不満なのよ!こんの無能!!!!!」
そう言ってドレスをたくし上げ、クソ野郎の股間を思いっきり蹴り上げた。
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