サタが遊び場

空霜ふくろう

課題の悪魔

 サタは、マンションで一人暮らしをしている大学生だ。


 今日は日曜日、時計は午後10時をまわったところ。


 サタは何日も後回しにしてきた課題にやっと目を向ける。


 ノートパソコンを立ち上げようとした。

 が、顔認証が反応しないので、ハア、とため息をついて、手打ちでパスワードを入れる。

 午後12時には、専用のダッシュボードで課題を提出しなければならない。

 

 リミットまであと2時間、ということは1時間あれば課題は終わるはずなので、11時まではゲームができる、はず。


 一瞬目を閉じる。



 


 目を開くと、キーボードの上で2匹のゆるキャラっぽい2頭身の小人が言い争いをしている。

 

 1匹は悪魔の着ぐるみを着て、もう一匹は天使の着ぐるみを着ている。

 

 天使は

「課題をさっさと終わらせて、それからゲームをすれば良いじゃない。」

 と言う。

 

 もっともな意見だ。すると悪魔は

「時間があるから良いじゃないか。まだやる気が起きないんだよ」

 と言う。

 

 天使の正論に対し、はっきり自分の本心を、悪魔に言われ、少し恥ずかしくなった。





 2匹はキーボードの上でにらみ合って移動しながら、天使はどこからか弓を、悪魔は槍を取り出した。


 そしてすぐ、悪魔はいけると踏んだようだ。


 突然悪魔が足を踏み込み、キーボードのpが押され、パソコンの画面に「ppppp…」と入力されていく。

 と同時に悪魔が前に飛び出し、槍を前に突き出した。


 その槍は天使の体を貫き、「うへぇ」と気の抜けた声を出して天使は消えてしまった。


 悪魔はキーボードのgとhの上に足をそれぞれ載せ、仁王立ちして、「うおー」と叫び勝利を喜んでいる。





 しかし、急に悪魔の顔が青ざめてきた。

 

 まずいまずいまずいという顔をしている。


 サタはまだぼーっとそんな悪魔を眺めていたが、目が合った。


 すると悪魔は、パソコンの画面を指さし、必死に何かを伝えようとしている。


 パソコンを見ても、wordにp、g、hの文字があることしか分からない。


 その文字を消そうと思って、BackSpaceを押そうとすると、そもそも腕がめちゃくちゃ重くて動かなかった。





 サタは、突っ伏していた机から顔を上げた。


 どうやら眠っていたようだ。


 ふと目の前にあるパソコンの画面を見ると、右下に0:23と時間が表示されている。


 課題の提出時間から23分過ぎている!

 

 サタは夢の中よりも大きなため息をはいた。


 キーボードの上に、今度は天使が座っていた。


 天使はざまあみろと言わんばかりにニッと笑って消えていった。


 天使の笑い声がフェーズアウトしていく。


 とにかく何も考えないようにしたが、天使の笑い声だけはずっと残り続けて、当分消えなさそうだった。

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