3章 剣、夜を断つ・獣、夜に祈る
雷光、炎輪、それは全て剣の御業にて
人の手によって生み出された凶器。
その身は鋼鉄、その役割は単純な殺害。
肉を刺し穿ち、骨を叩き折り、頸を斬り払う。
単純に凶器だった。
*
翔る。駈ける。
一陣の風が寺社仏閣の立ち並ぶ街の中を駆け抜けていく。
石で敷き詰められた道の上を小気味よいステップで走っている。
ぼんやりと輝く提灯が揺れ、旭日の旗が勢いよくなびく。
風が黒いローブの少年だと視認されるのは、人の速さへとスピードを落としてしまった時だった。
「はっ、はっ、はっ……」
息を切らしながら、背後にいる存在を感知する少年。
(来る……来る!!!!)
闇夜から迫り来るのは、
蒼雷。
青い稲妻がその後ろを追っていた。
しかし、その霆も自然現象ではなく、とある人間の纏うものであった。
「おい、待てよ。勝手に襲って勝手に逃げていくなんざ人間としてどうなんだ」
青く輝く雷光はものの数分で少年の視界の中に入ってきていた。
「くそ、なんだお前は……」
青き雷霆が地を滑るさまは、まるで竜がうねるかのよう。
「俺が誰かって?さぁな、お前に教えたところでどうせ死ぬんだ。冥土の土産なんざ要らんだろ」
そして蒼雷のその真反対を奔る一筋の光が夜を裂く。
迸るは赤く燃え上がる情熱の閃光。
「クソッ……死ねよ……」
「いや、死ぬのはお前だ」
赤と青、二つの閃光が交差して、少年の背中を斬り払った。
爆ぜる。
十字の傷痕から血飛沫と共に爆ぜていく。
「まァ、どうしても欲しいってんならば仕方がない。俺は“原初の剣”。またの名を……太刀神剣人」
ニヤリと口角を上げるその貌は、その内側に見える獰猛さを隠しきれていない。
外見は侍を思わせる、黒の袴。
しかしその手に持つ剣は両刃剣が二つ。
「すまねぇな、こちとら特機の依頼だ。仕方なく成仏してくれ」
剣を握った手を離すと、二つの剣は霧散し消える。
「転生者。世界を捻じ曲げる存在というのなら、俺はそれを斬る。その為に俺がいる」
*
元より剣というのは人の造ったモノであり、人より前に生まれたものではない。
決して偉大なものではなかった。
しかし、人の伝説が刻まれる度に剣も伝説へと刻まれていった。
イギリス、フランス、ドイツ、アジア、北欧、南米……世界の至る所に伝説があるならば同じように剣にも伝説が刻まれる。
それ故に、“原初の剣”は少し異様な存在となっていた。
人の紡いだ原初であり、人が歩んできた全ての可能性。
聖魔があれども、それ全て剣の業なりて。
剣は喰らう。振り払われるべき古き過去を。
遥か彼方に遺された御伽噺であったとしても、
全てを斬る。
斬る、斬る、斬る。
斬るためだけに存在する。それ以外に役は無い。
世界を揺るがす存在が現れたのなら、英雄と共に恐怖を断ち斬る。
*
「さて、目星の転生者は片付けた。あとはお前だ、狂」
焼けていく死体。
「わざわざ観客席から俺が降りてきたんだ」
その上から昇る黒い煙は、眩しく輝く月の光に吸い込まれていく。
「お前がまた、暴れるとなりゃあ俺が止めるしかねぇ。それが俺の……遥かに続く宿命なんだからよ」
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