過去、ある憧憬

 次元衝突をご存知だろうか?

 分からない人の為に簡単に言うならば、二つの世界がぶつかりあって一つになるという現象というか作用である。


 ——いや、知らないままでいいか。

 君達にとってはもはや関係の無い事だ。

 それに僕らにとってもそこまで弊害は少ない。

 実際のところ、壊滅的な状況に陥ってしまったのは東京や大阪などの都市圏だけ。

 これからの物語には一切関係がないんだよ。


 さて、次元衝突という事象によって二つの世界は接続されて日本は...いや世界はファンタジー世界と混ざってしまった。そして新たな歴史が刻まれる。

 ……なんて前置きはあっても良いけど、そんな仰々しいモノが到底ある訳じゃあない。


 大体、神話の多くなんてある日突然パッと世界が始まってんだ。別に最初からそういう運命だった訳じゃない。

 神様が気まぐれに“そうだ、世界を創ろう”って思っただけ。

 どうやら行動力だけは高いんだな。

 

 さて、この物語に何か次元衝突と関係があるとすれば、日本全土の地脈に魔力が産まれたことぐらいだろう。

 魔力は人々に新たな道を拓かせた。


 この世界の人々はたったの数年で魔術を大成させてきたんだ。そうやって現れたのは魔術師。君達もアニメやマンガとかでみた事があるだろう?

 それが実際に現れた。

……何、そんなのあり得ないだろって?あり得たんだよ、それが。


 まあ、でもそうか。驚くのも分かる。あまりにも都合が良すぎる話だ。都合が良すぎて逆に引いた。

 けどここの人間は世界の真理をエンタメにするぐらいに都合の良い解釈が出来るからね。

 逆に現実がフィクションを乗り越えた事もあるし、まぁどっこいどっこいなんじゃないかな?。

 そんな荒唐無稽な事を現実にする事なんて容易にやっちまうのが人間なのさ。

 “事実は小説よりも奇なり”ってあるだろ?

 本当に言葉通りというか……なんというか。

 フィクションを現実が越していくというのが人間のポテンシャルって訳なんだ。


 だから魔法もすぐに使えるようになった。

 約500年前の神秘をすぐに模倣した。

 世界の理を極める事に行き着く者も現れた。


 ここの人間は恐ろしい。

 魔法があればなんでも出来るという偏った考えが蔓延っている。

 願い、思い、行動すればどんな夢でも叶える事が出来る。

 可能性は無限大というやつっていうだろ?

 その可能性を魔法に見出した。

 勇気と知識と興味があれば、なんでも出来てしまう。


 なんとも素晴らしく、そして哀れで愚かなのだろう。

 例え、無限大の可能性を秘めていたとしても、夢破れし人間は努力が足りなかったと排斥されるのだ。

 諦めれば試合は終わる。諦めなければまだ試合は続く。そうやって言い聞かせて長い人生の道のりを歩んでいく。

 だが歩み続ける事を苦痛に思うのなら終わらせてやるのが本望だろう?


……おっと話が逸れた様だ。


 結局、魔法があったとしても君達はただの人間のまま。人以外の何者にもなれない。

 だけど、今から君達に見せる物語は、


 悲しい伝説サガを背負う事になる青年の物語。

 人の道から堕ちた“獣の王”の物語。



 

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