狂〜hundred beasts king〜

恥目司

前説 (蛇足)

The past, Sealed Apocalypse,Read coming doomsday

 ヨハネの黙示録。

 12聖徒の一人ヨハネが書いた、新約聖書最後の書物であり、唯一の預言書でもある。

 ローマから迫害されるキリスト教徒を奮い立たせる為の書物であったとも言われるが真実は定かではない。

 神からの啓示である事すらも疑わしいが、

 確実に現代でも分かる事が一つだけ存在する。


 黙示録には明記された“終末”がある。


 7つの教会に賞賛や叱責の書かれた手紙を送り、

 ヨハネが天へと礼拝し、

 子羊が7つの封印を解き放ち、

 7体の天使がラッパを吹き、

 世界の終末が訪れる。


 その内容を記したのが黙示録。

 その中に、“666の獣”、“封印を解いた羊”、“厄災を司る4体の馬”などの獣が使いとなって現れる。


 ……結局は、獣なのだ。

 人ではなく、獣が全ての原点であり全ての可能性。

 人を制裁する力を持っていたのだ。

 あらゆる種は獣であり、あらゆる獣は星の命。

 全てのルーツになる存在は獣にはいない。

 だからこそ、獣の存在は果てしなく偉大でみすぼらしい。


 それを統べる事が出来るのならば、正真正銘の百獣の王たる事が出来る。

 しかしながら王という者は皆、欲望の果てへと旅立っていく。

 なぜならば、皆が狂気に取り込まれてその身を地獄に堕とすからだ。


 原初の獣の真名。それは“狂”。

 獣の王。それ以外の名は無い。

 それは王たる者に必ずついて来る宿命。

 数多の獣の頂点に立った者に与えられる称号。

 そして、自身を破滅させる呪い。


 獅子であろうと鳥であろうと人間であろうと、王たる運命の者は誰も彼もが狂っていく。

 

 例え、黙示録の厄災であろうとも。


 そして今、王は選ばれた。

 来るべき終末の為に待ち構えていた原初の獣の贄として。封じられたとある社を開く為の鍵として。

 

 幾多の戦士を屠り去る凶王に。

 全てを塗り替える大罪の王に。


 *


 1996年 

 ゴルゴダの丘。

 キリストが処刑された地に一体の獣がそこに佇んでいた。

 犬なのか、猫なのか、猿なのか、よく分からない獣がいた。

 よく分からないが、とにかく獣だった。


 その獣は、律儀にも静かに祈っていた。

 

 「時間の無駄だとは思わないのかい?」

 声が聞こえてもなお、獣は祈っていた。

 「……まぁ、君の好きにしたらいい」

 

 獣は祈り続ける。朝昼夜と、十字架の前で祈り続ける。自分の存在は神の為にあるのだと。

 獣の王の背負った定めというのは必ず巡ってくるもの。

 

 王の結末を促す装置として、そこに存在していた。


 王は王となった後、永遠の命を求めた。

 存在しない国を求めた。


 楽園エデンはどこだ?

 最果てのアヴァロンはどこだ?

 桃源郷シャングリラはどこだ?

 理想郷アルカディアはどこだ?

 エルドラドは?カナンは?ザナドゥは?ニライカナイは?


 それは——人間である事を、ただの獣である事を否定したいという願い。

 数々の人が追い求めてきた野望。

 数々の獣が追い求めてきた安息。


 力を求め、辿り着いた者が満ち足りる事なく歩む地獄。


 数々の命が追い求めてきた永遠。


 そんなものあるはずがないというのに。


 夢でしかないのか。夢だけで留まるのか。

 そうやって


 獣の王は、眺めていた。

 そこは戦場だった。

 血と土埃が舞い散る荒れ果てた戦場だった。剣と鎧と肉がそこら中に転がっている。

「Aaaaaaaaaaaaa!!!!」

「Oooooooooooo!!!!」


 猛る。争う。勝ち負けはなく。ただ倒れていく。

 壊れて、王の意のままに死んでゆく。


 世界において王という存在というのは、厄災そのものであった。

 善き王など結局この世のどこにもいない。

 いずれは狂ってゆく。


 それが原初の獣“獣の王”が存在する理由。

 王たるもの、幻想を追い求め、獣へと堕ちていく。

 一国の主たるもの、死を恐れ、永遠を求め、自らを狂わせる。

 

 全ては盛者必衰の理のため。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る