厄災。その邂逅

 目を覚ませば森の中。

 夜行性ヒューマンはゆっくりと瞼を開ける。

 吉崎大は森の中にいた。


 裸のまま冷たい大地の上で横たわっていた。

 湿った土が肌に触れる。

 涼しい風が優しく肌を撫でる。


 何が、何を、何で、何になったのか。

 吉崎の中では全てが分からなかった。

 見えたのは片鱗。

 黒鉄の鎧、ナナ・トゥデイの表した感情、そしてあっけなく貫かれた鉄屑。


 ゾワリと、彼の背筋に悪寒が滑り落ちる。

 思い出した。

 僕は、人を撃った。

 明確な殺意を持って、人を射った。

 そして二度と動かなくなった。

 

 殺したのだ。この手で人を殺した。

 手が震えた。呼吸が激しくなった。慟哭した。

 「ああ、ああああああああああ……」

 過呼吸で頭に酸素がいかない。視界が歪む。肩が揺れる。


 おもいだせない。なにか、とてもだいじなことをおもいだせない。

 あたまのなかでノイズが走ってなにもみえない。

 なのに、だいじななにかをしたことだけはおぼえている。


 矛盾。彼の頭の中で回り出す。

 錆びた歯車の様にぎこちなく、軋む。

 

 眼球の裏側が歪む。

 胡乱になっていく視界。瞼が重い。

 何かを考える度に脳内が焼き切れる。

 過呼吸で喉が痛い。息が苦しい。


 黒い澱みの波濤が押し寄せる。

 何かが重くのしかかる。

 分からない、分かるわけがない。


 ああ、喰らいたい。喰らいたい。

 奈落の底まで引きずって喰らいたい。

 ああ、ああ、僕が僕でなくなっていく。

 何の為に生まれて……何の為に生きるのか。

 ずっと分からないまま生き続けるのか。

 嫌だ。そんなのは嫌なんだ。


「僕は、死ぬ為に生きるんだ……」

 そこで視界は暗転する。


 目が覚めると、いつもの世界だった。

 いつもの日常が広がっている。

 爽やかな風が木々の間から吹き抜ける。

 森の隙間から青い空が見えている。

 今日も清々しい一日が始まる。

 

 


 そう思ってた矢先の事だった。

 日常はすぐに瓦解した。

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