転生聖者の異世界行脚〜今日も世界を癒すため、ぼちぼち旅をしています〜

池田筍

第一章:聖者の旅立ち

00.プロローグ

「あっ、やばい……」


 夜勤が終わり、一人暮らしのアパートに帰宅した。

 突如、胸に激痛が走る。ハンマーで殴られたような痛み。

 玄関先の短い廊下にうずくまり、そのまま倒れ込んでしまう。


「ぐっ…どうしよう…」


 急な激痛に悶えながら、考える。

 これは多分、ヤバいやつだ。

 とりあえず助けを呼ばなきゃ…。

 倒れた少し先にあるスマホに手を伸ばそうとするが、痛みと苦しさで体が上手く動かせない。


(………明日も仕事なのに)


 ツラくて声が出ない。

 痛みと次第に強くなる息苦しさに、意識が遠のく。

 僕はそのまま、目を開けることはなかった。




   ☆★☆★☆




 今更だけど、最期の最期で考えることが仕事のことなんてね。

 真面目というか、社畜というか。

 大してやる気もなかったのにさ。使命感があったわけでもないし。

 決して、面白くないわけではなかったけれど。


 不満足の中に、僅かな満足を見つけて自分を納得させていた人生。

 やりたいことは、積極的には取り組んでこなかった人生。

 来世に期待、とか言い訳して色々と逃げていた人生。


 あの時、あの一言が言えていたら。

 あの時、あの一歩を踏み出せていたら。


 あと少し、やる気があったなら。

 あと少し、勇気があったなら。


 もしも、自分に優しくしていたら。

 もしも、我慢せずにいたならば。


 夢を描いていたら?

 目標を持っていれば?


 後悔は多々あれど、今更悔やんだところでどうにもならない。

 今となっては変えようもないし。




 けど、今は…。

 また新しく始まった、この人生。

 今度こそ、後悔の残らないように。

 自分に出来ることを、精一杯やり切りたいと思う。

 そして、精一杯楽しもう。


「さて、次はどこに行こうかな?」


 自分の気の向くままに。

 運命とやらに導かれるままに。

 今日も僕は、ぼちぼち旅をしています。


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