Doubt memory

蘇我 風草

序章 過去の話

音、太古よりこの世に漂い続ける記憶のことである…


ー壇田視点ー

小さい頃は思ってた。

耳が良くたって悪いことの方が多い。

悪口は聞こえやすい、雑音も聞こえやすい。

でも街中で迷子の父さんを見つけた時、

褒められた。

〝隆大は耳が良いから、迷子を探すのが上手だな!父さん、助かったぞ!〟

それだけでも十分、十分あの時の経験が今の俺を作ってる。


ー現代ー壇田視点

「よ!お疲れ様!待ってたよ主役!」そう俺が言うと、蒼は少し笑って

「主役って笑 めちゃくちゃ端の席で、サブ役割だったけど?」と言った。


「関係ないね!いやぁ今日の演奏、めちゃめちゃ良かったよ!あんなにでかい舞台に立つのは初めてだろ!?努力実ったじゃん!中2から習ってたもんなぁ。大人に混じってても、全然不思議じゃない!むしろ上手すぎて目立ってたぐらいだよ!」

蒼は慣れた感じで、

「うん、うん、ありがとう。でももう夜遅いし歩きながら話そうか。」と言った。こいつにとっては、これが日常だ。


歩きながら俺は蒼に疑問を投げかけた。

「…にしても、演奏会が終わったのが18時なのに、今もう21時だぞ?遅くないか?」

「あぁ、同じ楽器の女の子とちょっと話しててね。」

「うーわ!その子に蒼が前、担任のズラ確定写真で大爆笑してたの教えてやりたいわ。」

「ちょっと!やめてよ!思い出しちゃうじゃん笑」


改札に着くと蒼が俺に聴いた。

「ねぇ隆大、さっきからメチャメチャ褒めてくれるけど、そもそも俺の音聞こえてたの?誰かと聞き間違えたんじゃない?」

でも俺はすかさず

「いーや!あれは蒼の音だった!」と言った。

「へぇ?そうなの?」

「信じてないな?!」

「やだな、信じてるよ。隆大の事は。」

「…」

時々蒼はあんな顔をする。優しいんだか、何なんだかよく分からない。不思議と儚げがよく似合うやつだ。


「隆大?電車来たよ!乗ろう!」

「…!おう!」


電車に揺られながら俺は、

「なぁ、蒼。楽器弾く人って、、演奏家ってさ、なんか特殊能力でも持ってんのかな。」

「…!」「なんだそりゃ、どういう事?」 

「分からない…けど何となく」

「言われてみれば不思議なんだ。なんで蒼の音がわかるんだろうって。」

「気にしてたの?ごめんね。隆大の耳が良いんじゃない?前言ってたじゃん、迷子のお父さんを足音だけで見つけた!って」

「でも聞こえ方が違うんだよ!だから俺じゃなくて、演奏する側がなんかあるのかなって。」

「他の人は知らないけど、少なくとも僕には無いと思うよ?」

「でも、見つけてくれるのは嬉しいな、、あり、がとう…」

寝た…疲れていたのだろうな。


ガタンッ いきなり電車が急停車をした。それとほぼ同時くらいに車内が停電してしまった。あまりに急だったから、俺は舌を軽く噛んでしまった。


「蒼、蒼!大丈夫か?!起きろ!」

「起きてる!隆大は無事?」

「俺は平気だ。(舌噛んだけど、、)そうだ!他の乗客は?!」

俺と蒼が向かいの座席の方に目をやると、そこには信じられないような光景があった。



「全員、、死んでる、、」

あまりの事にその場から動けずにいた。

しばらくすると蒼が我に帰ったように、動揺して言った。「早く、早く降りないと、、!」

電車は止まってる。だけどドアが開いていなかった。

「窓から出よう。それで、助けを呼ばないと。」と蒼に言った。今はとにかく生きないと。

「うん、、」

今の蒼は少し怯えてる。


窓から線路に降りた俺らはスマホのライトを付けて、電車の進行方向に向かって歩いた。


どうして、こんな事になったんだろう、、普通の急停車や停電ならアナウンスがあるはずだ。でも、そもそも俺ら以外の乗客が全員死んでしまったなら駅員の人も死んでしまったのか、、


そんな考え事をしながら歩いていたその時だった。足がもつれて、何も見えない暗闇に倒れてしまった。高低差があったから、結構痛い。

「隆大?隆大?!」

蒼の声が聞こえてきた。

「大丈夫?!今僕もそっちに行く!」

いや、蒼はこのまま進んで助けを、、

「大丈夫、、だから、蒼は降りずに先に行っててくれ。」

「…」「降りるよ。」

「…!やっぱり俺のこと、信用できないか?」

「ううん、信じてるよ。」「信じてるからこそ、隆大と一緒に行動していたいんだ。」

「こんな状況で別行動は、不安だしね!」

隆大が俺のところに降りてきて、

「登ろっか!」と俺に笑いかけた。

あぁ、今の顔は演奏してる時の蒼だ、、

さっきとは違う。


俺たちは線路に戻った。と思っていたが、、そこには、あるはずのない光と限りない緑が

広がっていた。

「あれ?」






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