異能の賞金稼ぎは今日も配信しながら陽気に賞金首を捕まえる ~謎の金属で作った無敵のパワードスーツで無双したら滅茶苦茶バズった件~
黒井カラス
第1話 バウンティハント
十五年前、世界中に降り注いだ光の雨が人類に異能をもたらした。
人が火を噴き、水中で呼吸する。
人の身に余る超常的な力の存在は治安の悪化に繋がり、この日本も例外なくその煽りを受けた。
異能は異能でしか対抗し得ない。
既存の治安維持組織では対応し切れず、政府は異能犯罪者に賞金を掛けた。
それが異能専門のバウンティハンターの始まりだ。
§
明滅を繰り返す紫色の雷を身に纏いながら、ビルの側面を横断する。
前を行くのは全身から棘を生やしたハリネズミ――もとい針の異能を持つ賞金首。
なんて迷惑なことだろう、足から生やした棘をビルに突き刺しながら走っている。
お陰でビルの側面はボロボロ。
「ねぇ! いい加減、逃げ回るの止めない!? 街中のビルを穴だらけにする気!?」
「テメェが追うのを辞めたら考えてやるよ! 狼仮面!」
「それはできない相談かも!」
紫色の雷光を引いて別の建物の屋上へと移った彼に続く。
「キミのために立派なケージも用意するし、ミルワームだって三食きちんと食べさせてあげるから!」
「俺はハリネズミじゃねぇ!」
「またまた。全身からそんなに棘を生やしといて――って、おおっと!?」
彼から生えた棘が一斉に放たれ、間一髪のところで回避。
くるりと回転して跳び越え、手摺りに足をついて更に次の建物へ。
「ちょっと! ハリネズミは棘を飛ばしたりしないよ!」
「だから違うって言ってんだろうが!」
相次いで飛んでくる攻撃を躱して、俺たちが通った箇所に棘が突き刺さっていく。
「これじゃ埒があかない……あ、いい所発見!」
ビルの側面を蹴って大きくジャンプして空中へと飛び出す。
俺の異能は雷、加えてそれで触れた対象を帯電させられる。
自分とビルを指定対象に設定、磁力によって引き合った体は弧を描きながら落下加速。 そのまま側面からハリネズミを強襲する。
「馬鹿が! 串刺しにしてやる!」
それも当然、承知の上。
「悪いけど遠慮しとく!」
右手で銃を作り、指先から紫電の弾丸を放つ。
狙いは正確じゃなくていい、方向さえあっていれば必ず命中する。
だって、あんなにも避雷針がたくさんあるんだ。
瞼を閉じてたって外さない。
条件は満たした。
「俺がプラスでそっちもプラス!」
「なっ!? 体ッ! さらわッ!?」
帯電したハリネズミが発する磁力を利用して生み出した斥力で弾き飛ばす。
地上までのシュートを決め、ゴールになるのは廃棄された工場跡地。
さっき見付けた良いところ。
音を立てて錆び付いた天井に穴が開き、後に続くように俺も飛び込んだ。
「げほっ、げほっ、ここ埃っぽい――」
「死ねや、狼仮面!」
「うわっと!」
舞い上がる埃を貫くようにハリネズミのタックルが迫る。
咄嗟に足下に紫電を流し、磁力の反発を利用して大ジャンプ。
華麗にタックルを回避して着地を決めると、背後で壁が穴だらけになった。
「ねぇ、真面目になって人生をやり直そうよ。ほら、華道なんてどう? 花が映えると思うんだよね、キミに」
「俺は剣山でもねぇ!」
雄叫びを上げて再び突っ込んでくるハリネズミはすでに帯電済み。
周囲には放置された工具や鉄骨、機械がたくさん。
「でも、ホントに似合うと思うよ。こんな風にね」
近くの鉄パイプを紫電で撃ち抜き、帯電化。
それから発生した磁力がより大きな磁力への引力を生む。
瞬間、鉄パイプは独りでに宙を舞い、ハリネズミへと襲い掛かる。
棘に貫かれて勢いは削がれたものの、駆ける足をよろめかせるくらいの効果はあった。
「この程度で」
「物足りない? じゃあもっと飾り付けないと」
錆び付いた工具、放置されたデスク、パイプ椅子、金属製の製品、角材、空き缶、鎖、機械。紫電の弾丸を撃ち込んだそれらが磁力を帯び、金属非金属を問わずハリネズミの元へと集結する。
それらはすべて棘に貫かれて本体まで届かない。
ダメージにはならないけど、重量だけは加算されていく。
「押しつぶッ、される!」
棘を引っこめてもそのまま押し潰されるからどうにもならない。
膝を突き、手を突き、最後には地べたに這いつくばった。
「ほら、立派な鉄の花が咲いた」
不格好で傑作にはほど遠いけど。
「えーっと、こう言う時なんて言うんだっけ? たしか……そうだ。あなたには黙秘権がある、だ! 昨日見た海外ドラマで言ってた。その後は……なんだっけ?」
「あなたの供述は法廷で不利な証拠として用いられる場合がある、だ」
「わお、よく知ってるね」
「海外ドラマが好きなんだ。暫く見られないがな」
「大丈夫、刑期を終えて人間に戻ればまた見られるよ」
「だから、俺は、ハリネズミじゃ、ねぇって!」
「説得力ない。しばらくそうしてて。ほら、サイレンが聞こえて来た」
遠くから響いてくる正義の音。
犯罪者たちが恐れおののく時が直ぐ側までやって来ている。
これだけ派手に街を駆け回ったんだから当然だ。
「賞金首は捕まえた。今日の生放送はこれでお終い」
見上げた先にあるのはカメラを搭載した撮影ドローン。
動画投稿サイトで絶賛生放送中。
仮面に仕込んいるゴーグルによると、現在の視聴者は一万人強。
コメント欄は賞金首を捕まえたことで読めないくらい加速してる。
「みんな、見てくれてありがと。高評価とチャンネル登録をよろしく! それじゃ!」
生放送を修了させ、一息をつくと大勢の足音が近づいてくる。
錆び付いた扉が蹴破られると武装した機動隊が雪崩込んできた。
彼らはこの空間を見渡すと、俺に視線を集中させる。
「ハリネズミならそこの下に」
「賞金首の
「鼠なのに猫なんだ」
「キミが根古崎を?」
「えぇ、まぁ」
機動隊の一人がこちらに来て、残りは根古崎の確保に移る。
「まだ子供なのに……いや、よそう。よくやってくれた。根古崎の賞金は……三十万だ。この書類にキミの氏名と住所、口座、それから――」
「あぁえっと、賞金は受け取りません」
「受け取らない? 受け取らないって……」
「その変わり、全額を慈善団体に寄付してください」
「……いいのか? この賞金はキミが命懸けで」
「それがヒーローってものでしょ? それじゃ」
足下に紫電を流し、生じた斥力で高く跳ぶ。
「待ってくれ」
派手に開けた穴から屋根に登ると声が掛かる。
「なんです?」
「必ず賞金の全額を寄付する。任せてくれ」
「信用してます」
更に紫電を纏って斥力で跳躍し、夕日に染まる街へと繰り出した。
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