アイドル聖女の幸せなウソつき新婚生活~義妹に婚約者をとられた腹いせにアイドル始めたら、実は熱狂的ファンだった氷炎の貴公子と契約結婚することになりました~
ゆいレギナ
一章 アイドル、結婚する。
第1話 義妹に婚約者を奪われました
私は今日もウソを吐く。
「みんなー、愛しているよーっ‼」
薄暗い壇上を、色とりどりの光の花が飾っている。そして私が動くたびに、光の粒子が舞い踊っていた。これらの光は月の精霊・ルナ様の奇跡によるもの。私よりはるかに高い聖女の素養を持った友人が、私を『アイドル』にするためにルナ様の奇跡を使って演出しているのだ。
そんな奇跡を借りて、私は今日も
スカート丈の短いフリフリの衣装。
誰が見ても愛らしいピンク色の髪。
花弁のように開かれたまつげ。
それらも全部、ただの演出でしかない。
爆音鳴り響く小さな講堂を埋め尽くす観客たちは、私のウソに大歓声をあげていた。
私が笑顔を作るたびに、私が口を尖らせるたびに、私が腰を動かすたびに。
彼らは思い思いの色を宿した
そんなハードな動きをしながらも、懸命に『カティナ~っ!』とアイドルの名を叫ぶのだから、どれほど『アイドル聖女・カティナ』に酔狂しているのだろう。
すべて、ウソなのに。
笑顔も、歌詞も、『愛している』という言葉も。
その虚構に彼らは今日もお金を払い、私は偽りのアイドルを演じる。
奇跡の美少女――私のことをそう呼ぶ人もいるらしい。
そんな人は……私がつい最近結婚したと知ったら、どのような反応をするのかな。怒るのかな? 泣くのかな? それとも案外無関心なのかな?
私のウソがをどれだけの人が見破っているのか――そんなことを考えながら、私は完璧な笑みで「好きすぎて涙が出ちゃう」という歌詞を歌っていると。
ふと、最前列の人が目に入った。
いつも早くから会場の前で並んで、最前列に応援してくれる人だ。
……どうして、今まで気が付かなかったの⁉
その短い水色の髪と
※
時は四か月前に
私、サラーティカ=フィランディア、十八歳。
その日、長年の婚約者から婚約破棄を言い渡された。
「お前の妹であるレナラ=フィランディアと結婚することにしました。すでにお前の両親にも許諾を得ています。わかりますね?」
レナラは私より二つ下の義妹である。腹違いの妹というやつだ。
地味で根暗な私と違い、いつもニコニコ笑っていて、明るくて、お喋りが大好きな少女である。顔つきも義母譲りの華やかさだ。つまり……そういうこと。
しがない男爵家の我がフィランディア家にとって、上位伯爵家に嫁いでくれるなら姉妹のどちらでもよく、義母は可愛い実の娘が『結婚したい』というのなら、ただそれを叶えただけにすぎないのだろう。ちなみに父は完全に義母に尻に敷かれている。義母の実家から多額の支援を受けているからだ。
だから、私さえ物わかりよく辞退すれば、全ては丸く収まる。
――そう、私さえ我慢すれば……。
私が「了承しました」と頷けば、婚約者であったジオウ=クロンド様が私の頭を撫でてくる。
「お前のそういう物わかりのいいところ、好きでしたよ」
眼鏡の奥の微笑、そして常に敬語で上から目線のところ。
私はこれほどまでに憎らしいと思ったことはない。
義妹に婚約者をとられるという惨めな噂は、瞬く間に広がった。
私の仕事は聖女である。聖女とは月の精霊・ルナ様の力を借りて治癒術や活力効果のある加護をもたらすことができる者の俗称。月の精霊を崇めるルナ協会に訪れた方たちに、望まれた効果を与えることが私たちの仕事だ。
ルナ様は楽しいことが大好きな精霊と謂われている。
特に歌と踊りが大好きで、祈りの捧げる詩歌や祝詞も、他の精霊様に比べたら比較的明るい。
そんな精霊様から……こんな暗い気持ちである私が、上手くお力を借りられるはずがない。
「ねぇ、このくらいの擦り傷もまだ治らないの?」
「すみません……」
本来なら五分もかからず治せるはずの傷が、十分経っても塞がってくれない。
それでもなんとか治療を終えると、私は支部長に呼ばれてしまった。
事務室で言われるのは、案の定の申し出。
「色々ツラいのはわかるけど、このままだとウチでは……ねぇ?」
私はただでさえお勤めが苦手だった。元からルナの素養が少ないのだ。それでも学生でもない加護持ちの未婚者ならば、どこかの精霊協会に所属してお勤めを果たすのが貴族の義務。
だから少しでも素養のあるルナ協会に所属して、こうしてお勤めをしなければならないのに。
私は婚約者のみならず、協会からも捨てられてしまうらしい。
支部長も直接言い出しにくいのか、わざと濁した言い方をしているけれど……ようは辞めてもらいたいのだろう。貴族のお勤めとはいえ、どんな役立たずにも最低限の給金は支給しなければならないのだから。
……お勤めもクビになったとなれば、いよいよ家にもいられないだろうな。
それを覚悟しつつ、「今までお世話になりました」と頭を下げようとした時だった。
「それなら、サラーティカをうちの支部にくださいっ!」
「イシュテル?」
扉を勢いよく開けて入ってきたのは、私の友人であるイシュテル=ストライカー。隣の支部で『天才聖女』と謳われる彼女は、とある理由で常にヴェールを付けている。
彼女の急な申し出を支部長が「引き取ってくれるなら……こちらは構わないけれど……」と受諾するやいなや、常に明るく堂々と話す彼女は、いつも通りの勢いで私の両手を掴んだ。
「ねぇ、サラ。うちでアイドルやらない?」
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