ダイーズ+ローファス

「ん?まずいな。今日の登録はもうすぐ締め切られるぞ。鐘の音が鳴り終わった後では講習は明日になる」

 え?1日村に帰るのが遅くなってしまうということ?それは困る。

 青い顔をすると、男の人が僕を小脇に抱えて走り出した。

 走るというか、飛ぶように人込みをぬって移動する。

 す、すごい高速だ!冒険者ってすごいなぁ。

 3度目の鐘が鳴ったところであっという間にギルドについた。

「今日の冒険者登録まだ間に合うだろう?」

 僕を小脇に抱えたまま、男の人は受付の女性に声をかけた。

「まだ、間に合いますけどローファスさんも初心者講習受けるんですか?そうですよね、いろいろ受けた方がいいですよねぇ?」

 受付の女性の言葉に、ローファスさんと呼ばれた男の人が、僕を立たせて頭を前に押し出した。

「違う、この少年が冒険者になるんだ。粗雑に扱うなよ、短剣を見て見ろ」

 女性が僕の腰に刺さった短剣を見て、ハッと息をのむ。

「ハンノマさんの……!早速登録受付しましょう!そうしましょう!」

 女性はものすごい笑顔でカウンターの上に申込用紙を置いた。

 それを見て、ローファスさんがカウンターを離れる。

「あ、ありがとうございました!」

 御礼を言うと、ローファスさんは頑張れよと手を振ってギルドを出て行った。

「ではステータスを確認させていただきますね。レベルが10になっていませんと冒険者に登録できませんので」

「あ、はい」

「では、カードを作りますのでステータスの開示をお願いできますか?」

 ステータスの開示?自分でステータスを確認するのと何が違うんだろう?首をかしげるとカウンターの女性はにっこりとほほ笑んだ。

「大丈夫ですよ。我々ギルド職員は個人情報守秘義務があります。魔法で拘束されていますから絶対にあなたのステータスを漏らすことはありません。こちらの紙に手を乗せてからステータスオープンと言ってくださいね」

 そうなのか。村ではステータスを人に見せることもなかったから知らなかった。

 レベル以外も見られちゃうということだよね。

 僕、弱いんだよね。お爺さんが弱いってあれほど僕に言うのだから。

 それに、さっきのローファスさん。

 初心者講習を受けるかと受付のお姉さんに言われていた。きっと初心者なんですよね。

 ……僕を抱えてものすごく早くギルドまで来た。あれだけスピードを出してもたくさんの人をうまく避ける身のこなし。とてつもなくすごい動きをしていた。

 初心者でもあんなにすごい動きができるんだ。

 そりゃ、僕なんて弱い弱い言われても当たり前だよね。

 ……レベルは10になってるけど……冒険者としてやっていけるのかな。 

「ステータスオープン」

 不安になりながら紙に手を置く。

「……あ……」

 女性が小さく声をあげて、動きを止めてしまった。

 あまりに弱すぎて絶句されちゃったかな。

「えーっと、え?これでレベル10……?」

 すいません。奥の森に出る獣に全く歯が立たないほど弱いんです。

 やっぱり僕が冒険者になるなんて無謀だったでしょうか。

 でも……貧しい村。僕が冒険者になってお金を稼いで食べるものを……。

 ぐっと拳を握り締める。

 僕にもできる仕事があるはずだ。それに、続けていけば強くなれるはず。

 狩りを始めた4歳のころを思い出す。あの頃は兎一つ捕まえることができなかった。

 今は熊も猪も奥の森以外の獣なら何でも仕留められるようになった。

「HP、MP……STR、ATK、DEF……うわぁ……ああ」

「えっと、もしかして冒険者になれませんか?」

 声をかけると受付のお姉さんがハッとして顔をあげた。


==================

ダイーズ君に関しては、なろう版にハンノマさんとのやり取りがあります。

気になる人はなろう版読んでね~。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る