勇者の産まれる国

河伯ノ者

勇者の産まれる国

 ……か?

 ……ますか?

 ……聞こえますか?


 声がする。綺麗な大人びた女性の声だ。

 少年が重い瞼を開けると、そこには光り輝く一対の翼をもつ女性がいた。

 綺麗だった。太陽のような温かい笑みを浮かべるその女性を見ているだけで安心感に包まれる。

『聞こえていますか? アナタに神の言葉をお伝えしましょう』

 女性は少年に語り掛ける。

 世界に迫る危機。その使命を語り掛ける。

『―――戦いなさい。そして、世界を救うのです』

 少年は肩を震わせる。

 恐怖ではなく、これからの旅路に思いを馳せたムシャブルイ。

 女性の姿が消えてゆく。それと同時に世界は光に包まれていく。


 ―――夢の時間は終わりを告げた。



 少年は目を覚ます。

 いつもはそこから五分は出ることのない布団を蹴りあげて部屋を飛び出した。

「母さん。俺、勇者になった!」

 少年の言葉に母は驚き、次に感涙の声を上げた。

 そこから先はお祭り騒ぎだ。

 彼が勇者となったことはすぐさま知れ渡り、街は彼の使命を喜ぶ声で溢れた。

 少年はすぐさま王のもとに向かう。

「よくぞ来た、貴殿が来るのを待っておったぞ!」

「ありがとうございます、国王陛下」

 膝を着く少年はかしずき、王の言葉に応える。

「前の勇者が倒れて数か月。またしても我が国から英雄が生まれたことは喜ぶべきか、悲しむべきか。君たちの旅が健やかなるものであることを願っておるぞ」

 この国では年に何度か、少年少女が神の啓示を受けることがある。

 彼らは勇者となり旅に出る。

 その目的は、世界の影から侵略してくる魔族たち、そしてそれを率いる魔王を倒すことだ。

 少年は王に与えられた剣と盾を持ち、旅の道具を持って旅に出る。

 彼の旅は順調だった。

 旅先で出会った仲間たちと共に洞窟や神殿といった場所を次々と踏破していく。

 東で魔族に苦悩する村を救い。西で病に苦しむ町を救った。荒れ狂う盗賊や、贄を求める悪神との闘い。

 無論、その旅路には別れもあった。

 少年は戦いを続ける。世界を救うために。

 少年は旅を続ける。人々のために。

 そして、旅の中で少年は死んだ。


 少年が死んでから半年後、新しい勇者が選ばれた。

 次は彼よりも年若い少女だった。少女もまた旅に出た。少女は確かに強かった。

 少年たちの歩んだ旅路を辿り、彼と共に旅した剣士を仲間にした。

 しかし少女の旅は短かった。

 彼女の訪れた村の人間に凌辱されて殺された。


 次もまた少年だった。

 少年は魔物に食い殺された。

 

 次の勇者は旅の辛さに耐えられず自死を選んだ。


 次は色恋沙汰によって殺し合った。


 次も、次も、次も、その次も。

 勇者と呼ばれる者たちの命は儚くも散っていく。


 その度に新しい勇者が選ばれた。

 勇者たちは自らの使命に目を輝かせ旅に出る。


 国は順調そのものだ。

 勇者の産まれる国と呼ばれたその国は、ある種の観光地のようになり潤っていた。


 国王は女を抱いていた。

 蝙蝠のような羽根を持つ魔族の女の尻を掴み、激しく腰を打ち付ける。

 部屋に響く甘美な嬌声。

 息を上げる国王はより激しく腰を打ち付け吐精する。

「今回の分だ。また働いてもらうぞ」

 国王はローブを着ながら、ベットで脱力する女に話しかける。

「全く、便利なものだな。サキュバスの能力があればこの国は安泰だ」

 国王は彼女に自らの王族の血を分け与えることで、彼女の力で村の子供たちに神の啓示を与えることで勇者を産み出していた。

「それにしても馬鹿なガキどもだ。魔王など、とうの昔に死んだというのに」

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