第9話 お姫様の守護騎士たち
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あれから、さらに日数が立った。
今日はなかなかいい収穫だったわね。
「明日は息抜きのため、休日にしましょう。」
受けたある依頼を遂行した後、エレスが言った。
本心では明日も依頼を受けたいのだろうけど、私の身体や精神を気遣って言ったのだろう。
「そうね。そうしましょうか?」
私は少し考えた後、そう答えた。
少し休んだ方がいいのは、エレスも同じはずである。
次の日、私は美容室へ出掛けた。エレスは国立図書館へと出掛けるらしい。
そして、その後二人で一緒に外食するために合流する。
その美容室からの帰り道、ふと、知らない誰かから話かけられた。
魔導服を着た若い男性だった。
少し、話があります。
私たちは路地裏に入っていった。
そして、その男性に、ある衝撃の事実を知らされる。
「リバンドン王国の、お姫様!?」
「 はい、エレス様、いいえ、エレナ様はギランダム帝国によって占領された、リバンドン王国の姫君なのです。」
国立図書館の前で私は、待っていた。
走ってきたので、息をきらせている。
どうしたの、マリー?
「はやかったのね。」
「エレス、いいえ、エレナ、聞きたいことがあるの。」
「マリー、その名前を知っていると言う事は、全て聞いたのね。
話したのは、ミゲルね。
余計な事をしてくれたわね。
後で怒っておかないと。」
「 ええ、エレナ」
「エレスでいいわ。冒険者としての私は、エレスなの。」
一瞬、エレスが憂いのある表情をする。
「 エレス、あなたは現在、帝国から命を狙われているそうね。
本当なのね、あなたが、リバンドンの元姫君だったというのは。
今まで誰にも話さずに、仲間も作らずどこかのパーティーにも所属しなかったのは、自分のせいで巻き込まれて危険な目にあわせたくなかったからなのね。」
エレスは無言で答えた。
エレスは、ギランダム帝国の侵略によって蹂躙され、占領されたリバンドン王国の元姫君である。
王国が戦争に破れ、帝国の領土になる直前、エレスは側近の部下とともに逃亡し、近隣のナーディラス王国領に身をくらませ、現在この街で一市民として紛れ込んでいる。
先程のミゲルも、エレスの素性を知っている数名の元側近の一人である。
彼は帝国の傀儡政権となった現リバンドンに所属しながら、エレスにギランダムの動向を定期的に報告しているそうである。
おそらく、エレスの身を案じて、私に彼女を託したのだろう。
「本来はあなたの事も巻き込むべきではなかったのだけど。」
「何言ってるの。私はエレスの、パーティーメンバーなのよ。
私の事を信頼しないでどうするの?
それに、私を誰だと思っているの。
こういう事は、ある程度予想はしていたのよ。」
「そうね。あなたは、そういう洞察力や推察力は天才的ですものね。」
「 エレス、たとえ、帝国軍を敵にまわしたとしても、私は負けないわ。私は、あなたを守ってみせる。
私を、信じて頂戴。
そして、あなたの願いを必ず叶えてみせるわ。」
エレスは沈黙する。
彼女はまだ迷っているのだろう。
これ以上私を巻き込むことに。
だが、同時に私の事を信頼してもいる。
そして、私となら、どんな不可能にも思える事もやり遂げられると、そう期待しているのだろう。
それは、私たちがパーティーを組んで、この1か月余りで私が実際に証明してきた事だ。
私が出してきた結果と成果の賜物だ。
「それじゃあ、これから、どうするか話し合いましょう。
そして、あなたが西のエリザムを目指している理由も話して頂戴。」
エレスが西のエリザムを目指している理由は、以前のリバンドン王国の同盟国、チェンバレン王国があるからだそうだ。
そして、自国を守る為帝国と戦う国家の1つである。
エレスはそこに亡命して、征服されたリバンドンの開放のために、チェンバレンと合流して帝国軍と戦うつもりらしい。
そして、チェンバレンには、エレスの婚約者がいるそうである。
このナーディラス王国領のこの街からエリザムに行くには、テングレムの森を抜けなければならない。
正確には、森の中にあるダンジョンを通過して、山脈の地下を通ってエリザムへと抜けるのだ。
草原や海などを通って迂回するルートは、帝国領を通る事になるので難しい。
だが、テングレムの森のダンジョンには、ほかのダンジョンよりも強力な魔物が数多くいる。
「2日後、エリザムへ行きましょう。」
「マリー」
「本当は一刻も早く出発したかったんでしょうけど、私に遠慮して行かなかったのでしょう。」
あるいは、一人で出発するつもりだった。
「大丈夫、今の私たちなら油断さえしなければ、もう余裕でしょう。
私ももう、冒険者としてかなりの経験を積んだわ。
もう、軽率なマネはしないわ。」
「本当かしら?」
「何疑ってるのよ。
解ったわ、そうね。今の私たちなら、充分に戦えるわ。」
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2日後の朝、私たちは準備をととのえ、宿屋を出発した。
そして、街の門の前に来ると。
「あっ、お姉様がた、待ってました。」
フィルが手を振っている。
さらに、2人のまだ幼い女性冒険者がいた。
1人は毅然とした態度をとり、もう一人は、杖を持ったままガクガク震えている。
「これは、どういうことよ。」
大声を出していないが、エレスがブチ切れてる。
エレスがワナワナと震えている。
臨時で、パーティーメンバーを追加したの。
「何余計なことしてくれてるの。
3人も余計な足手まといを増やして。
こんな事だったら、一人で行ったほうがマシよ。」
「大丈夫よ。
3人とも、かなり優秀な冒険者よ。」
エレスが怪訝そうな表情をする。
あきれて、もはや物も言えないというふうに。
「本当よ。本当。神に誓うわ。
もし一人でも死んだら、私が責任を取るわ。
それに、私たちがいなくなった後の、ナーディラスの街を魔物から守る守護戦士たちが必要だわ。
彼女たちに少しでも経験を積ませて、強くなって貰う。
これは、あの街を去る私達の最後の花向けよ。」
エレスが泣きそうな顔をして黙っている。
彼女も、本心では、あの街に未練があるのだろう。
ずっと1人で戦ってきた彼女だが、最後の1か月は、今までの人生で最も充実して、もっとも幸せな1か月だったに違いない。
対等な立場でいられる、冒険者仲間たち。
笑いあい、ときにはケンカして、夜遅くまではしゃいでいた。
あの1か月は、彼女にとってどんな金銀財宝よりも尊い、かけがえのない思い出だったに違いない。
今、フィルたち冒険者のヒヨコたちをここに置いていくのは、楽だろう。
だが、もっと長期的に考えると、ここで彼女たちに経験を積ませた方が、結局は彼女たちが生き残る確率は高くなる。
それが解っているから、エレスは反論出来ないのだ。
森の中を、私達は歩いていた。
フィルは歌を歌いながら、意気揚々と歩いていた。
あれから経験をさらに積んで、彼女は能力的にも精神的にも急速に成長していた。
「 うるさいわ。フィル、もっと静かに歩けないの? 」
もう一人の娘、ライザはフィルを注意する。
リズは相変わらず震えていた。
フィルは修道女だが、あれからナイフ術、そして空手道と合気道を覚えた。
私の影響を少し受けてしまっていた。
ライザは、
棒状の先端に斧のついた武器である。
そしてリズは、杖を使う魔導士である。
「大丈夫だって、彼女たちは絶対役にたつから。」
「別に役にたって欲しいわけじゃないわ。邪魔だけしないで、後ろで隠れていてもらって。」
「それじゃ、フィルたちがここに来た意味がない。」
十数匹の下級レベルの魔物の退治を、彼女たちにまかせた。
そして、スーパーロブスターというザリガニっぽい魔物が現れた。
そこそこ高めのレベルだ。
「それじゃあ、私が。」
エレスが前に出ようとするのを、私は腕を掴んで静止する。
「少し、彼女たちに戦わせてみましょう。
彼女たちの肉体の強度だけは、しこたま高くしておいたから。」
そう言って私は魔法具の腕輪を見せる。
「やあーっ。 」
まずライザが
ロブスターは彼女の
「 やああぁぁぁー!!」
ロブスターはハサミで受け止めるが、
一撃が命中する。
ライザはロブスターの片方のハサミを切り落とす。
そしてさらに、大きく振り上げる。
だが、そこに大きなスキができて、ロブスターのもう一本のハサミを腹に喰らう。
そして飛ばされる。
ライザの槍斧はモーションが大きく、防御がガラ空きだった。
「ライザちゃん」
次に、フィルがロブスターにナイフで高速で連打する。
ナイフは速度は速いが、威力が弱すぎて、ロブスターの甲殻に全て弾かれる。
フィルが諦めて飛びのいた。
「撃ってリズ!!」
「まっ、待ってください。
えいっ!!」
後ろで震えていたリズが、フレイムバーストを撃つ。
フレイムは、ロブスターの遥か頭上を超えると、地面に落ちて大爆発をする。
2発3発と撃つが、全弾大きくはずれてロブスターの離れた左右で大爆発する。
どうやらフィルは、凄いコントロール悪いらしい。
あと、怖くてフィルのそばには撃てないのだろう。
「きゃあぁぁああ!!」
そして、結局二人ともロブスターにボコボコにされる。
3人が気を失って倒れると、エレスが氷の魔法でロブスターを凍らせた。
よし、今晩のオカズにしよう。
私は凍っているロブスターをハンマーでたたくと、そのままその氷の塊をアイテムボックスに収納しておいた。
後で解凍して焼いて食べるのだ。
問題は倒れている我が後輩たちだ。
もう一回まとめると、ライザは、パワーは強いけど、大ぶりで、スキが大きく防御するのが下手くそだ。
よって私は彼女の槍斧を没収した。
次に、フィルだが、やはりムチで巻き付けて、ナイフを没収した。
彼女のナイフは手数も多いし技術もピカイチだが、弱すぎる。
また新人研修に逆戻りだよぅ。
フィルが泣く。
最後にリズだが、彼女は魔法の破壊力はかなり凄まじいが、コントロールが悪かった。だから私は彼女の杖をへし折った。
リズがしゅんとする。
そして私は、3人を集めて特訓した。
エレスが眠そうにアクビをしている。
3人は、服屋に特注で作らせたユニフォームを着ながら、ランニングする。
私は異世界の大ネギで地面をビシビシ叩いてフィルたちを叱咤激励する。
昭和の時代の熱血鬼コーチと化していた。
私はネギでボールを撃って、千本ノックをする。
3人はグラブでそれを順番に受ける。
ちなみにグラブは、靴屋さんに作ってもらった。
3人が木の棒で斬りかかってきたのを、私はネギ一本であしらう。
そしてー
「さあ、あなたたちは強くなったわよ。
再戦するわよ。」
私達は円陣を組んで、気合を入れた。
ロブスターとの第2ラウンド。
まず、ロブスターがハサミで襲ってくる。
それをライザは、大盾で受け止めた。
私は彼女たちに、いつもアイテムボックスに入れて持ち歩いている武器をそれぞれ提供した。
ロブスターの連続攻撃の衝撃にも、ライザはしっかりと耐えて、大盾を粘り強く支えていた。
重量のある大盾は、パワーの強いライザにピッタリなのだ。
さらに、彼女のスキの大きさと技術面の欠如、それに守備率の低さを補ってくれる。
そして、後衛で待機しているフィルやリズを守ってくれていた。
「フィル、行きまーす!!」
ライザに気をとられているロブスターに向かって、ハチマキを巻いたフィルが突っ込んで行った。
そして、さっき教えた空手の掌底打ちと呼ばれる、手のひらパンチをロブスターに叩き込む。
頭に掌底うちを喰らったロブスターは、脳震盪を起こして少し怯む。さらに、フィルは2発目の掌底打ちを叩き込む瞬間、風の魔法を発射する。
手のひらからエアロの暴風が飛び出し、ロブスターが吹き飛んでいって仰向けに倒れる。
私がフィルに渡した魔法具、風の腕輪の魔法効果だ。
前の新人研修で私が教えた、日本の魂、空手道の真髄と、魔法が使えるフィルならではの技だ。
さらに、掌底打ち、手の平で撃つことで、軽い材質のナイフのように甲殻で弾かれるのを防ぎ、プラス魔物に脳震盪を与えて一瞬動きを止めることもできる。
そして最後に放った風の魔法で、ロブスターを吹き飛ばし、フィルたちから引き離して魔物との間に距離を作る事に成功した。
そして、最後の締めくくりは、リズだ。
リズは弓を引絞ると、矢を放つ。
矢じりの先には、フレイムバーストの魔法が付与されている。
そして、それがロブスターの眼球に突き刺さり、大爆発を起こす。
リズに弓を渡したのは、魔法のコントロールを高めるためである。
魔法具、流星の弓矢である。
流星の弓矢は、方向さえ定めれば、正確に、空気抵抗を無視して一直線に撃つことができる。
これにより、リズのコントロールの悪さを補う事ができる。
魔法の破壊力は大幅に落ちるが、彼女は魔法の爆発力だけは1級品なので、命中さえすれば至近距離で爆発させて大半の魔物なら一撃で倒せるのだ。
「やったー。 イェーイ。」
フィルが二人にハイタッチする。
まず、モーションは大きいがパワーはあるライザが、あまりモーションを必要としない、重量のある盾をその得意なパワーで支える。
ロブスターの攻撃を防ぎ、後衛の二人を守る。
次に、フィルが空手の掌底でロブスターの頭部をたたいて、脳震盪を起こさせ動きを止め、風の魔法を使って吹き飛ばし、ロブスターを後方へと下がらせる。
そして距離が出きた最後に、流星の弓矢で精度が向上したリズの爆裂魔法で、仕留める。
私の立てた作戦は、一人一人の長所を最大限引き出し、チーム全体の連携プレーで相乗効果を生みだしてくれた。
「おめでとう。良くやったわ。褒めて使わすわ。」
私は勝利チームの野球監督のように、
手を差出してフィルと握手した。
エレスも何か言ってやってよ。
「あなたたち、3人でようやく1人前ね。」
エレスが憎まれ口をたたく。
3人とも、せつなそうな顔をした。
大喜びしていた3人の興奮は、一気に冷めてしまった。
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