第6話 新人冒険者

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あれから3週間、私たちはパーティーを組み、冒険を繰り返した。

 エレスの目的の理由はわからないが、彼女の願いを叶える為、私たちは強くならなければならない。

 そのためには、第1にレベルを少しでもあげること。

 剣術や体術を極め、ステータスの低さを補うこと。

 そしてもう1つは、魔法具の数を増やす事だった。

 この近辺にあるダンジョンや森林などに眠るレアアイテムを見つけ、戦闘でより様々な状況で対応できるようにするためである。

  そんなある日。

「ちょっと、だから昨日早く帰ろうっていったのよ!!

 もう10時を過ぎてるじゃない。」

 ギルドに入ってすぐに、エレスは振り向いて私に怒りをぶつけた。

「だって、せっかくツキがこっちにむいてきたんだから、ヤラない手はないじゃん。」

 私は少し苛立っているエレスに苦しい言い訳をする。

 昨日私は、酒場で食事をしたあと、ほかの冒険者の何人かとカードゲームを使ってギャンブルをやったのだ。

 最初こそこの世界独自のルールに馴染めなかったものの、頭脳明晰な私は速攻ゲームのコツをマスターし、後半は連戦戦勝を繰り返した。

 気がつけば夜も遅くなり、宿屋に帰ったのは1時過ぎだった。

 基本、日帰りの冒険は早朝から出発するのが一般的だ。

 夜になると強力な魔物の出現率が高くなるからだ。


「そういうエレスだって楽しんでたじゃない」

「あれは、あなたが帰ってくれないから

 」 そう言って、エレスは顔を赤くしてカウンター越しに受付嬢に話しかける。


「相変わらず仲がいいな。お前ら。」

「あ、アベルさん。おはようございます。

 今日は、少し遅めの出勤なんですね。」

「おうよ、昨日飲みすぎちまってな。

 お前ら2人にしこたまふんだくられたからな。そのやけ酒だ。」

 アベルさんは、いいカモだった。

 彼はもう少し筋肉以外も鍛えたほうがいい。


「アハハハハ」

 私は苦笑いする。

「それにしても、あのエレスが仲間を作るとはな。しかも、俺らと一緒にゲームをするなんて。お前、いったいどうやってあいつを口説いたんだ?」

「マリー、依頼を受けたわよ。

 こっちへ来なさい。」

 エレスが私を呼びかけると、アベルさんが目で行ってこいと合図する。

「は、はーい」

「今日はあなたのせいであまり仕事が残ってなかったわ。

 でも一件だけ、カスペリア湖の近辺にあるダンジョンに出現した魔物を狩る任務があったわ。

 そこまで難しい任務じゃないけど、油断は禁物よ。」

「了解です。」

 私たちはそう言って、ギルドを出ようとした時。

「あっ、少し待って下さい。お二人に、紹介したい娘がいるんです。」

 受付のお姉さんが私たちを呼び止めた。

 そして、修道服を着た1人の少女を連れてきた。

「彼女の名前はフィル・クリスティーナ 

 。今度聖ノエル教会から派遣された新人冒険者です。以後、お見知りおきを。」

 そう言ってお姉さんが彼女の肩を軽く叩くと、フィルは頭を下げる。

「あ、あのよろしくお願いします。」

「どうも、教会のシスターなのね。

 年齢は少し私より下の方かしら、可愛いわ。」

 私はヨダレを垂らす。

 それを見てフィルは少し怯えて後ずさりする。

「マリーさん。彼女を怖がらせないでください。」

 私は苦笑いをする。

「それで、折り入ってお願いがあるのですけど、彼女をしばらくの間パーティーメンバーに加えていただけませんか?

 彼女を受け入れるパーティーが見つかるまでの間でかまいませんから。」

「いいわよ。」「駄目よ。」

 私と今まで黙っていたエレスの声が同時にはもる。

 まあそう言うと思っていたけど。

「エレス、彼女は私たちが面倒を見るべきよ。年齢も近いし。誰かが丁寧にイロイロ教えてあげないと。」

「ええ、その通りです。それに、あなたたち2人は、この街で1、2を争う最高のパーティーです。

 彼女がある程度の経験を積むまでは、1番信頼できる方々におまかせしたいのです。」

「あ、あの、私、一生懸命頑張りますから。だから、そのよろしくお願いします。」

 そう言って、フィルは再び頭をさげる。

「エレス。私たちが受け入れるのが、1番彼女にとっても安全なのよ。」

 その言葉がエレスに響いたのか、エレスはうつむき口籠る。

「どうやら、エレスも認めてくれたみたいね。」

 そう言って、私はフィルの頭をなぜる。


「ちょっと、待ってよ。エレス。

 今回は仕方ないでしょう。ほかのどこの誰かもわからない冒険者に教育してもらっても、彼女がちゃんと成長できるかどうか。

 だったら、私たちで彼女をある程度のレベルの冒険者にしてあげないと。」

 森の中を先頭に立って早足で歩くエレスに、私は呼びかける。

 冒険者の新人研修は、基本同じ先輩冒険者たちが引き受けるのだ。

 私たちが断ってもギルドもそれなりにマトモな冒険者に教育係をまかせるだろうが、いかんせん脳筋タイプが多い。

 例えばアベルさんとか、アベルさんとか、アベルさんとか。

「別に怒ってるわけじゃないわ。

 ただ、私は1人で戦うのが気楽なだけよ。しばらくの間だけなのでしょう?

 彼女といるのは。

 あなたみたいに、ずっと何週間もつきまとってくるわけじゃないんでしょう。」

 エレスが真顔で睨みつけてくる。

 やっぱり機嫌が悪い。

「それに、彼女の教育係はあなたが引き受けてくれるんでしょう。責任を持って。」

 エレスが腕を組んで、薄ら笑いを浮かべる。

「はははー」

 私も、彼女にあわせて苦笑いを浮かべる。

「お二人とも、私の事はそんなに気にしないで下さい。

 これでも私、一応訓練は受けてますから。

 きっとお二人のお役に立てると思います。」

 フィルの声で、私は振り向く。

「フィル、あなたは、修道女なのよね。

 やっぱり回復魔法が得意なの?」

 私が彼女に質問する。

「はい、あと基本的な付与術とかも少々。

「そう、じゃあ、基本後方支援担当なのね。」


 


 


 


    

 


 

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