幼馴染兼今カノが義妹になった結果、私達の関係性は370度変わってしまった……あれ?
燈外町 猶
第1話・結婚するんだって。
×
離れていく。
まずは、唇が離れていく。
そして、私の首元から
零時を指して美しく佇んでいた針が下へ下へと沈むように、私達の関係性が傾いていく。
密やかに培われていた幸せは芽吹く前に枯れ、やがて、180度変わってしまった。
かに、見えた。
×
「それじゃ、行ってくるね」
「「いってらっしゃーい」」
青空と桜並木が両親を出迎え、私と花乃はそこそこの熱量で二人を見送る。
「なんかあったらすぐ連絡すること」
「「はーい」」
「なんもなくても一日に一回は絶対連絡すること」
「「はいはい」」
生来の心配性が発動しているのか、父はあーだのこーだの言いながらしきりに振り返っていたが、妻に手を引かれようやく外へ一歩踏み出した。
「よし。じゃあ行こうか
「いい加減慣れてよね、カ・ズ・ヤさん!」
二週間後、私は高校三年生になり花乃は私と同じ高校に入学する。タイミングがいいのか悪いのか、今はまだ、わからない。
「行っちゃったね。
「だね。どうする? 今日から三日間二人っきりだよ」
お父さんと
「っ……。どうもしないよ。だって私達――」
春休みという退屈な時期に大好きな
「――家族、なんだから」
なぜなら私達はもう、恋人らしいことができないのだから。
「……どうしても、ダメ?」
「…………ダメ。家族だから」
花乃は繰り返し、宥めるように言い聞かせる。
家族。なんて、なんて邪魔な記号なんだろう。
甘えたがりで、独占欲が強くて、私が他人と話してるだけでも火がついたように嫉妬する花乃が、まさか私と距離を置こうとするなんて思ってもみなかった。
あの苛烈な温度に触れられないことが、寂しくてたまらない。
×
「結婚するんだって。お母さんと、カズヤさん」
去年の夏が終わる頃、花乃は複雑そうに、それでも嬉しそうに切り出した。
団地の前に置いてある
「結局?」
「結局。もっと早くにすれば良かったのにね」
「たぶんお父さんがゴネたんだろうね。それを美樹さんが押し切った」
「はは、想像できる」
「でしょ」
「……」
「……」
「つまりあれだね、有紗、私のおねえちゃんになるんだね」
「花乃が
嫌な予感は、ずっとしていた。
映画を観終わった後やドラマを見ている最中、貸し借りした漫画の感想からでさえ、花乃は『普通の家族』への執着を度々滲ませていたから。
お父さんがいて、お母さんがいて、姉がいて、自分がいて、世間が謳う『普通の家族』を、彼女はようやく手にするのだから。
「家族になったら、恋人は……おしまい」
「……そっか。……幼馴染は?」
「幼馴染は終わるものじゃないでしょ」
花乃は冗談を受け流すように笑った。それから、私達のこれからについて一方的に申し付ける。
手を繋ぐの、なし。
ハグするの、なし
キスするの、当然、なし。
何故なら、普通の家族ならしないから。普通の姉妹ならしないから。
今まで私に幸せを与えてくれていた行為の多くは、そうして禁忌となった。
「そっか。……恋人は、終わるものかぁ……」
告白してきたのは花乃の方じゃん。
私を惚れさせたのも、人を好きになるって感覚を教えたのも……全部、全部。
「……でもさ、それでも私は……花乃のことが好きだよ、きっと、ずっと」
「うん。私も有紗が……おねえちゃんが大好きだよ」
そう言って彼女が浮かべた優しい笑みのせいで、花乃が好きの意味を変える気だと、わかってしまった。
なんてずるいんだろう。
「……」
そっちがそう来るなら、私も……少しくらいはずるい手を使ってもいいよね。
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