【完結】姉は全てを持っていくから、私は生贄を選びます
かずき りり
第1話
もう、うんざりだ。
そこに私の意思なんてなくて。
「何を言っているの!?マリア!?」
発狂して叫ぶ姉に見向きもしないで、私は家を出る。
貴女に悪意がないのは十分理解しているが、受け取る私は不愉快で仕方なかった。
善意で施していると思っているから、いくら止めて欲しいと言っても聞き入れてもらえない。
聞き入れてもらえないなら、私の存在なんて無いも同然のようにしか思えなかった。
————貴方たちに私の声は聞こえていますか?
◇
「これあげるわ!可愛いでしょう?」
「要らないわ、好みじゃないから使わないし」
姉が使わなくなったバッグやドレス、アクセサリー。
私の好みではないものを押し付けられる。
うちは子爵家で、大きな商店をしていると言ってもお金に余裕があるわけではない。
「あら、アリスは優しいのね」
「貰っておきなさい」
両親はそう言って、姉が使わなくなった物を受け取れと言う。
そして私のクローゼットやアクセサリーケースには物が溢れ……お古ばかりになる。
新しい物を買う余裕もそこまでないから、私は物を沢山持っているからと、そこで終わり。
例え好みじゃなくても、それを使っていくしかない。
そして姉はクローゼットの空いたところへ新しいドレス等を買っていく。物を持っていないからだと……。
◇
「友達のお茶会に呼ばれたの!マリアも行きましょう!」
「行かないわ、知らない人ばかりだもの。ゆっくり本を読みたいの」
「まぁ!マリア!本はいつでも読めるでしょう?アリスのお友達に遊んでもらいなさい」
姉と私は二歳差なだけだけれど、刺繍や読書が好きな私とは違い、姉は恋の話や噂話が好きで、周囲の友達も皆お喋りだ。
煩い場所が苦手な私としては行きたくなくとも、結局連れて行かれる。
私に合っていないドレスやアクセサリーで行くのは苦痛でしかないのに、母は姉の肩を持つ。
母もそれが良い事だと言う。確かに社交が必要なのは理解しているが、それはわざわざ姉の友人が集まるお茶会でなくとも良いだろう。
「あら?その方は?」
「私の妹よ!可愛いでしょう?」
「本当ね~!あ、アリス!そういえば先日噂になってた騎士団長のお相手なのだけれど……」
「え!?なになに!?」
紹介はされるが、それで終わりで。
毎回毎回、私はお茶を飲み、花壇を見つめて終わる。
時間の無駄だとしか思えない、虚しい時間を過ごすだけ……。
姉は優しい姉のつもりなのだろう。
悪意がないのは理解していても、私の心はどんどん冷えていく。
私は嫌だと言った。ちゃんと伝えたのだ。
私は望んでいない。
誕生日だからと、シンプルで使い勝手の良さそうな髪留めを買ってもらった。
やっと手に入れた私の好みの物、大事にしよう……そう思っていたのに……。
「マリア!それ可愛いわね!明日のお茶会に借りても良い?」
「え……嫌よ……」
もらって、手の中で眺めていたら、隣から覗き込んで髪留めを見た姉はそう言ってきた。
「お願い!同じ色のドレスを来ていこうと思っていて、髪飾りに悩んでいたの!」
「マリア、貸すくらい良いでしょう?」
「絶対返してね……」
「ありがとう!」
母が姉の援護に出た為、貸す事になった。
貸すくらい……貸すくらいって何だろう……。私がたった今もらったばかりの誕生日プレゼントなのに……。
そしてお茶会から帰ってきた姉はこう言った。
「凄い褒められたわ!次も付けて行きたいから、しばらく貸してね!」
私が、まだ一度も付けていないお気に入りの髪留めは、姉が何度も使用して、姉の部屋に置かれている。
母は、こういう時には居ない。いつも姉の肩を持つから、いたとしても返せと言ってくれるかは謎だけれど。
両親共に、領地のため、領民のため、家族のため、領地経営と共に商売の買い付け等で国外に出ている事も多い。
だから子供達の事を知らないのだろうか?
気がついて。
気がつかないの?
私は私の選択を、意思を、全てを奪われているようで。
伝えても伝わらない。
そこに私なんて居ない。
私の意思なんて存在しない。
あるのは、ただの人形だ。
「マリア!一緒にクッキーを焼きましょう!」
そして友達に配りたいのね。
自分が作ったと言うのよね。
間違ってはないけれど、大半は私が作るのよね。
「マリア!今日は私がスープを作ったのよ!これなら食べられるでしょう?」
熱があるからご飯は要らないって言ったわ。
せめて野菜を小さく切ってくれていたら……しかし姉が作ったスープには大きな野菜がゴロゴロ入っていた……。
一口サイズ以上で、熱がある中、何故かスープなのにナイフとフォークを使用して食べる羽目になった。
「マリア!これ頂戴!」
孤児院で行われるバザーに出そうと思っていた刺繍入りハンカチを姉は持っていった。
意中の人の前で使ってるのを知ってるし、機会があれば差し出している。
自分が刺繍したとは言ってないけれど、いつもその刺繍を持っていればそう勘違いされるよね。
人知れずベッドの中で泣いていた時は終わり、我慢をする事だけで生きていた私は、姉から、家族から逃げる決意をする。
私、マリア=リドルが14歳になった時の事だった。
子爵と言えども一応は貴族であるため、最小限と言えど執事やメイド等も居る。
逃げようと決意したところで、侍女や執事だけでなく門番の目をかいくぐる事は難しかった。
大きい荷物を用意する事も出来ないし、一人で外に出たところで誰かの目には留まってしまい、すぐに声をかけられた。
常に見張られているのではないかと錯覚する程で、一人になれていると実感できるのは部屋に篭っている時だけだと思えた。
(それなのに……誰も私の心に気がつかないのね……)
更に蝕む絶望感に、心は凍り、感情が消える。
そんな時、神様への貢物の話を耳にした。
貢物と言葉は良いが、結局は生贄の事を指している。
それは昔からの伝承。
神様が土地を守り潤して人の生活を成り立たせているといい、百年単位で神様へ感謝の貢物という生贄を差し出すのだという。
そして神殿の神官が、毎回生贄となる人物を選んでいるという。
(立候補はできないのかな?)
そんな考えがよぎり、すぐ神殿へ行く事を侍女に伝えた。
祈りを捧げたいなどと、それといった理由を執事に告げ、すぐさま準備をしてもらい、姉からまとわりつかれる前に私は堂々と一人で屋敷を後にする事が出来た。
きっと知ってしまえば、私に言えないの?とか、私が悩みを聞くわ?とか言い出して、私が話している最中にそんな事より~と言い出して話をすぐに変えてくる人だ。
姉が知る前に出てこれたのは幸いだったと思う。
これこそ、私が動くタイミングなんだと、チャンスなんだと、これから捧げられるであろう神に感謝する。
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