夏の過日
それはまだまだ暑い日が続いていた午後のこと
この前は所用で行き違いになっていたユメカから、新しく作ったお菓子とお土産話があるからセイガと一緒に遊びに行くという連絡を受けていた店主は扇風機の風を受けながらパソコンに向かって作業をしていた。
「暑いのぅ…夏は好きじゃが暑いと作業が進まんわい」
「…冷たく
気付けばふと横に人がいた。
「ホムラはアツいの大好きだけどな」
「おや、いらっしゃい♪ここに来るのは久しぶりじゃあないか」
「アイス…頂戴」
「奥の冷凍庫の中にあるから適当に持ってきなされ、ああついでに儂の分のあ〇きバーも頼むわい」
少女はとてとてと歩くと奥へと消えていく。
揺れる白いワンピースが、夏への郷愁を駆り立てた。
そして戻って来た時には既にアイスを口にしていた。
「ガリ〇リ君、美味」
「うまいよなっ、はむはむっ」
「駄目、其れ以上一度に食べると頭がキーンと成る」
そんな様子を眺めながら店主もアイスを齧る、とても硬いがたまにコレが食べたくもなるのだ。
そのまま、なんでもない時間が過ぎる。
「ふぅ、うまかった♪ おっちゃん、いつもありがとな」
「感謝」
そう言って硬貨をカウンターに置いた。
「ああ、お代は」
「是は感謝の気持ち、だから受け取って」
よく見ると、その硬貨には見覚えがあった。
上野下野が前にいた世界の、有名なユグリア銀貨だった。
「そうかい、それじゃあ…ありがたく受け取るとするかの」
懐かしいその銀貨を手にした時、何故だか店主は救われたような気持ちになったのだった。
「それじゃあ、またそのうち遊びにくるっ」
「…もう帰るのかい」
「肯定、又当分戻って来ないと思う」
「そうか…まあ、お主らなら問題ないとは思うが元気での」
「店主も早く新作を執筆してね」
「ああ、その時は一番に知らせるよ」
「今ここに書いてるコレはちがうの?」
ホムラがパソコンの画面を覗き込む。
「これは随筆の方じゃ、小説はまあ…頑張って書くよ」
「期待してる」
「またなっ、おっちゃんも元気でいろよ~♪」
そうして少女は店を出ていった。
店主には『ふたり』が何をしに来たのか、正直よく分からなかった。
ただ、気に掛けてもらったことは嬉しくて、自分がすこし前にしたことに対しては申し訳ない気持ちもあって…
それでもまた会えることを願わずにはいられなかった。
(新作もちゃんと書かないとな…)
いい機会なので、ユメカたちが来る前にひとまず随筆の方を完成させようと思った。
パソコンの前に改めて座るとこれまでのことを思い浮かべる。
嬉しい事、楽しい事、悲しい事、色々あったがその日々はそれぞれが唯一のもので、平凡で同じ様に見えて…実は大切なものだったのだと、今はそう強く思うのである。
だからどうか、心悩む人も、一生懸命生きる人も、諦めてしまった人も、或いは間違った人も、少しだけ、心安らかに有ればと
人では無い吾輩は、願うのである。
未完
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