第18話 見えない呪い

 私が目を覚ましたのは、丸一日経った次の日の夕方だった。


「愛歌さま……!」

「愛歌姉さまーー!」

「わっ」


 寝室で。

 お見舞いに来てくれたふたりとぱっちり目が合った瞬間に、キーラさんが突っ込んできた。


「わーーん! ありがとうございましたわーー! 愛歌姉さまもご無事でーー!」

「…………えっと」


 良い匂い。赤いさらさらの髪。豊満な胸。

 少しだけ、汗ばんでて。


「愛歌さま。ご気分は如何ですか……?」

「うん。私は大丈夫。……ふたりは無事? どうなったの?」


 そう答えると、メリィも安堵した様子だった。


「問題ありません……。愛歌さまのお陰で、侵入者をふたりとも捕えました……。今は警戒レベルをさらに上げています……」

「こーーのワタシに厭らしい魔法を掛けて! 兄さま達がご帰還なさるまでに拷問でもしてやりましょうかしらっ!」


 勝ったんだ。良かった。私も、サポートできた。破魔の瞳を持つ者として。最低限。


「彼らの所属は不明です……。どこかの正規軍の兵装ではありません……。十中八九ゲオルの手の者でしょうが、失敗した際に責任逃れをするために、ゲオルは知らん振りをするでしょう……。本人達も雇い主は聞かされていないみたいで……」

の暗殺者らしいですわ。全く馬鹿ですわね。ケプラホルンをただの絶滅種の高く売れる珍獣としか認識していない。身体能力も魔力もオーガを遥かに凌ぐというのに」

「で、キーラさまは油断なされて麻痺を……」

「うっ……! それは……」


 彼女達にすれば、あの程度の侵入者は敵じゃなかったみたい。もう冗談を言い合えるくらい空気が和らいでる。


「……あの。実は私、あの時は全然動けなくて」

「え? ワタシの麻痺を解いてくれたじゃありませんの」

「透明化していた伏兵も暴きました……。流石の状況把握と行動力です……。わたくしが護衛として付いていながら……。申し訳ございません……」

「いや、えっと。実は、指示をしてくれた人が居て」

「?」


 あれは。

 あの、獣の手。匂い。声。

 キーラさんに似てる気がする。


「ああ、きっとベラですわね」

「やっぱり? そうだと思った」

「でも、あの子はまた部屋に籠もっていますわ。……姿を見せなかったでしょう? ということは、まだ出てくる気は無いんですのよ」

「………………」


 上体を起こす。

 自分の手を見る。

 顔を触る。


「愛歌姉さま?」


 キーラさんが顔を覗いて来る。本当、目がくりくり大きくて美人だなあ。


「……私が破魔の練習して、魔王さまの役に立つ……って。もしかしてこういうことなの?」

「違います」

「!」


 戦闘。確かに、魔法を使う魔界での戦闘で、破魔の瞳は強力だ。それは経験した。……けど。

 キーラさんに、即座に否定された。


「キーラさん」

「はあ……。ゴート兄さまも、メリィも。言ってないんですの?」


 溜め息。

 メリィを見ると、さっきより申し訳無さそうにしていた。


「……それは……ゴートさまにお任せしておりますので……」

「ふーーん。まあ、良いですわ。愛歌姉さま」

「う、うん?」


 キーラさんは私に跨がったまま。

 するりと着物を脱いだ。


「キーラさん!?」

「見えます?」

「!」


 灰色のきめ細やかな肌が晒される。今日も気温は高い。少しの水気を帯びている。それが妙に色っぽい。

 胸。チェルカ先生ほどじゃないけど、その背の低さにはちょっと不釣り合いなほど大きい。

 キーラさんが指差したのは、その下。おへそ……の、下。


「……え?」

「魔力。見えます?」

「…………いや……。変身の魔法のこと?」


 魔力とは、あのもやもやのことで。それには種類があると教わった。初めにメリィと会った時に、変身魔法の魔力は覚えた。


「いいえ。それじゃないものですわ」


 ……そんなの、無い。


「見えない。無いよ?」

「……そうですか」


 答えると、キーラさんは寂しそうに呟いて、私から離れた。


「……説明、しますわね」

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