第31話 白タイツ

 思いがけず、人間界での楽しかった副業の記憶が蘇って、少しだけ涙ぐむ。


 いやいや、こんな半端なところで泣いている場合じゃないんだよ。


 よし、気持ちを切り替えた。


 さてこの白タイツ。どうにか草履とあわないものかなぁ? 草履だと、タイツのつま先の部分を足袋たびみたいにしなくちゃいけないんだよね?


 うーん、なんとかならないかなぁ?


 って悩んでいたら。


「そのタイツというもののつま先を切って、足袋と繋げてみたらどうであろう?」


 ……それだぁー!! 今日はまだ太郎さんと一言も話してないけど、さすが太郎さんナイスアイデアだよ!!


「白足袋って、手に入ります?」

「余裕ですよぉ、ねぇ? ロッコちゃん」

「うん。余裕で女中部屋にいくつもありますよ。なんなら毎日新しい足袋に履き替えるように、とのイッシー先生からのご指示もあるのですよぉ」


 とっても仲良しなゴコさんとロッコさん。そっか。毎日履き替えていれば、あんまり考えたくはないけど、なんらかの薬品が染み込ませてある場合であっても、なんとかなるとのことかな? 後は単純に衛生面を考えてのことだよね。


「では、お針子がお得意な方にそれを任せたいのですが」

「それなら、わたしとゴコちゃんに任せてくださぁい」


 うん、多分その方が仕事も早く出来そう。


 ということで、あたしがどうするかと言うと、王子様御用達の白タイツにカボチャパンツはさすがにやらないけど、かっこいいのを作らなきゃ。


 あとは帽子!! かっこいいトップハットに装飾を施して、シンプルだけど上品にしちゃいましょう!!


 と、そこでヨンコさんがドレスの端始末を終えてくれた。すごーい。しっかり縫えてるー。そしてなにより仕事が早い。


「どう?」

「すごいです、ヨンコさん。完璧です!! この戦いが終わっても、手芸をやってみませんか?」

「うーん? 考えとくわ」


 あたしがヨンコさんとハイタッチをしていると、イチコさんがわざわざ割って入って来た。


「そのミシンの使い方は見ていて覚えました。こちらも、着物を縫うために使ってもよろしいでしょうか?」

「はい。お願いします」


 そうして。糸の色を変えて、イチコさんに託す。イチコさんもとても上手にミシンを使いこなしていた。


 たかが糸の話だけで緊張しちゃう。やっぱりまだ、イチコさんに対して優しくないな、あたし。


 けど、そんなことをくよくよ考えてたって仕方ない。とりあえず今は、手を動かす!!


 つづく




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