Lv.6「今日は、前脛骨筋です」





(教室の扉がガラッと開く音)

「今日は、前脛骨筋ぜんけいこつきんです」


「教室じゃちょっと、触診しづらいから。

 視聴覚室にキミを、呼び出しました」


「え、告白かと思った? 差し出し人の名前なかった? マジ?」


「ゴメンね、アタシのうっかりでキミの夢をぶちこわしちゃって。

 ふふ、じゃあキミは告白だと思ってウキウキここまで来たんだ」


「……なぁんだ、アタシって気付いてたのか。それはそれで、つまんないな」


「へぇ、キミはモテないの? そんな感じには見えないけど」


「まぁいいじゃん。キミにカノジョができたら、アタシは困るし」


「だって触診できなくなるもん。

 この前話したでしょ。うちらは筋肉のカンケイだって」


「それだけ?って……そ、それだけでしょ。

 ほら、やるよ。座って」


(ガタン、と椅子に座る)

「すそめくるねー。靴下ぬがすねー」


「すねのところで触れる長い骨が、脛骨けいこつ

 前脛骨筋ぜんけいこつきんは、この脛骨の外側についてて……」


「わぁ、すごい! おっきいし太い!」


「ねぇ、足首うごかしてみて!

 ……ふふ、ビクビクしてる。いいなぁ、前脛骨筋」


「ほら、足の甲の……ここまでつながってるんだよ。前脛骨筋がはたらいて、足首が動くの。

 あぁ、好きだなぁ。キミの前脛骨筋、好き」


「なに、照れてんの。前脛骨筋ほめただけじゃん」


「キミも、さわりたい? アタシの前脛骨筋」


「じゃあ、交代」


(ガタン、と椅子に座る)

「靴下ぬぐから、待って。

 ……スカートの中、見んなよ」


「はい、どーぞ。

 そう、ひざの下から、足首のほうに伸びてて……

 あっ、……なんか、気持ちいい。ほぐれる……。

 キミ、将来マッサージ師になったらいいのに……才能あると思う」


(ふいに足の裏を触られる)

「きゃっ! ちょ、あ、足の裏は、また別の筋肉で……」


「ふぁ、そ、そっちは、後脛骨筋こうけいこつきん……!

 ちょ、も、ダメ、くすぐらないでって……! ひゃ、ふふ、ヤダ、もう、降参、降参!!」


(息を切らしながら)

「……も~、せっかく気持ちよかったのに、いっつも最後ふざけるんだからっ」


「あ、ちょ、靴下くらい自分で履くってば!

 ……ってもう、強引だなぁ」


「……なんか、同級生に靴下履かせてもらうって……ヤバいことしてる気分になるじゃん……(小声でこそこそ言う)」


「……ねぇ、いつも、ありがとね」


「急にどうしたって……だって、ちゃんとお礼言ったことなかったじゃん」


「触診できるおかげで、筋肉のこと……よくわかるようになったの。だからキミには感謝してる」


「あはは、ひざまずいてるキミにお礼言うのも、ヘンか」


「ね、トルコアイス食べに行こ。前脛骨筋ぜんけいこつきんみてたら、食べたくなっちゃった」




 Lv.6 前脛骨筋 Clear!!!

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